表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/38

3.人間哲学思想

 ヒトは死んだらどうなる。

 星になるとか、幽霊になって自分のやりてぇ事をやるまで逝けねぇとかだろ。

 そんな、どーでも良いコトを哲学者ちっくに考えてんのが安倍ナツハ。

 オレの姉だ。

 何かぼんやりしてて、一見なんも考えてねー様に見える。

 そいつぁ激しく甘ぇ。

 ああ見えて、今の大人に欠けてるコトとか色々考えてんだよな。

 ……追伸。

 朝はカンベンしてくれ。


―――――

月曜日―朝七時

 どうでも良いけど、月曜日の朝っつうのは妙に体がおもてーんだよな。

 ベッドから出たり、カーテン開けて朝日浴びても全くだるさが抜けねぇ。

 それプラス、クミと別れてから右肩が重くなったよーな気がする。

 昨日なんかされたっけか。

「ふあぁ……眠い」

 心の声が口から洩れる。

 軽く背伸びして、何と無くベッドに飛び込んでみる。バネが体を跳ね返す。

「ケータイ、っと……」

 うつ伏せの状態から枕元を眺め、愛用のケータイに手ぇ伸ばす。

 お知らせランプが点灯中。

「ん? 誰だ……」

 クミかなーと考えつつ、携帯を持ったまま仰向けになって、オープンthe画面。

「……ちっ」

 メルマガゲット。

 拍子抜けするっつの!

 取り合えず、削除っとけ。

「うんぁ……起きるか」

 連発で出る欠伸を堪えつつ、ベッドからゾンビみてぇに起き上がって扉を開ける。

 瞬間、いきなり電話が鳴り響いた。

「うぁ! 何だ!」

 心臓がビクッと震える。

 確かマナーモードにしてたはずが、推定音量5のまま鳴り響いている。

 すげーやかましい。

「だ、誰だよ……」

 着メロは『青いベ〇チ』だった。

 顔をしかめながら、頭の片隅で犯人の推測を働かせつつ画面を見てみる。

 ―着信―

 安倍ナツハ

「ハァ……やっぱな」

 今日一番の溜め息を吐き、ゆっくりと終話ボタンを押す。とんだイタズラだ。

「姉きのヤロォ……」

 音が途切れた虚しさを感じ、さっさと階段を降りて居間に向かった。

 ……油断してた。

 こいつぁ、姉きの暇潰しだ。


―――――

居間―朝の食卓

 下に来てみると、パジャマ姿の姉きがのんびりとテーブルに座ってた。

 髪は乱れたまま、ぼーっと両手で頬杖を付きながら何か物思いにふけってる。

「……寝てんのか?」

「……起きてるわよ」

 この場合、突っ込みたくねぇけどスルーする訳にも行かねーだろう。

 高校三年の癖して、どーしてこんな姿格好のまま居間にいるのかミステリーだ。

 オレの頭では、当然ながら指定の制服姿に着替えてるイメージがある。

 姉きの常識っつーのはコレか?

「あー姉き! さっきの電話だけど、どういうつもりだよ?」

 ずんずんと詰め寄りながら、問う。

 あの爆音、どー考えても姉きが仕込んだいたずらとしか思えねぇ。

「別に……暇だったから」

「暇デスカ?」

「そ、暇だったの」

 あっけらかんと答えられた。

 暇潰し。

 姉きの中では、理屈どうこうより暇だったからの一言で済むんだろーな。

 何か、なえた。

 別にどうでも良いや。

「そういや、母さんと親父は?」

「店に行ってる」

「へぇ……頑張ってんだな」

 そう話しながら、姉きの隣に座る。

 いつもの事だけど、姉きと会話をしてると何故か気持ちがほんわかする。

「姉きは何やってんだ?」

「……死後の世界考えてた」

「……一人でかよ」

「うん」

 中身は変わってるケドな。

「ねえ、シュウヤ」

「ん?」

「死んだらどうなりたい?」

 頬杖を付いたまま、聞いて来た。

「そうだなぁ……経験したことねぇから良く分かんねーけど……」

「今すぐ体験させてあげるよ?」

「遠慮します」

 いつの間にか、姉きはテーブルに置かれたビデオのリモコンを握っていた。

 ナツハさん、勘弁して下さい。

「さっきまでね、もしトラックに轢かれたらどうなるかって考えてたの」

「……いつ?」

「学校行く時とか」

 それはオレだって困る。

 姉き、もといナツハが死んじまう現実なんて、例え冗談でも考えたくねぇ。

「すごく後悔すると思うの」

 こういう大切な事を聞けるのは、姉きならではの哲学があるからだ。

「もっと親孝行しておけば良かった。シュウヤの事を考えてやれば良かったって、あの世で後悔すると思う」

「……他人の事だけか?」

「そう。私は死ぬだけだけど、周りの人達はすごく悲しむから……」

 姉きは、オレよりも年上だ。

 けど、年齢や理屈だけじゃ説明出来ない何かを姉きは持っている。

「死んだら謝れないからね」

「……」

 優しい笑顔だった。

 ぼんやりしてる様に見えて、こんなに色々な事を考えてたんだ。

「というわけで……」

「は?」

 そう言い、姉きは立ち上がる。

「トーストで良い?」

「……作ってくれんのか?」

「今日だけね」

「ケチ」

 姉きは、どこかぼんやりしてて。

 考えるコトも変わってる。

 一日中パジャマ姿でいたり。

 オレに対してイタズラもする。

 でも、立派な考えを持っている。

 そういう所は、素直に尊敬しても良いんじゃねえかって思うんだ。


私はどうして生きるのか。

誰かがそっと呟いた。

風に消されたこの言葉。

頑張る事が生きる事。


…さすが姉き。


by安倍ナツハ

編集・安倍シュウヤ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ