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7―4.小刀の恐怖と映画宣伝

「ヒャハハ! 何だよコイツ、抵抗すらしねえなんて立派じゃん!」

「次オレなー! こいつは良いストレス発散になんぜー!」

 頬に当たるアスファルトが冷たい。

 腹部に走る鈍い痛み、それさえも、我慢すれば時が勝手に癒してくれる。

 でも、オレだって暇なわけじゃない。

 この瞬間にも、ユナは誰かに心の助けを求めてる。

「いつまで続けるつもりだ……」

「ああ? 何だよコイツ、まだ口答え出来るなんて頑丈に出来てんなぁ!」

 ズキン、と走る顔の痛み。

 こんな物理的な苦痛よりも、精神的な痛みの方がよっぽど辛いはずなのに。

 ったく、我ながら不思議だよな。

 顔と名前くらいしか知らない他人を、ここまで助けようと考えてんだからさ。

 力を振り絞り、上体だけを起こして体育座りの様な体勢になる。

「わりぃ……用事があるんだ」

「ああ?」

「お前らみたいな、物欲に支配されてる哀れな人間には縁の無い用事だよ」

「つっ……の野郎!!」

 迫る拳を、右手で止める。

 驚きに満ちる相手の顔が見えた。

「つっても、もう反撃する気力なんかありゃしない。財布ならここだ、持ってけ」

 声帯を何とか震わせ、左手でポケットを数回叩いて小銭の音を響かせる。

「おい、探れ」

 一番柄の悪そうなヤツが指示を出す。

 オレを殴ろうとしたヤツは右手を離し、ポケットの中を探り始めた。

 よし、無防備になりやがった。

「喰らえっ!!」

 掛け声と同時に思い切り拳を放つ。

 両手を財布探しに使っていたアホに避けられるはずも無く、拳はそのまま頬の中心にめり込んだ。

 まあ、ユナの心の痛みには負けるけど、やっぱし痛いわな。 アホはのけ反ったけど、同時に、オレの身に降り掛かる危険も一気に高まった。

「野郎! 死ぬか!?」

 不良の一人がオレに罵声を浴びせる。

 拳を振り上げたのが見えたけど、避ける力は当たり前だけどない。

「くそっ……」

 呟き、数瞬後に降り掛かる痛みに耐えるため、思いっ切り歯を食いしばる。

 けど、直後に聞こえたのは、思わず耳を塞ぎたくなる、鉄パイプの大きな音だった。

 誰かが投げ飛ばしたらしく、不良の足元に一本だけ転がってるのが見えた。

「貴様ら……覚悟は出来ておるのだろうな……?」

 聞き覚えのある口調と声。

 顔を上げてみると、鉄パイプを構えながら、鬼の形相で不良たちの背後に立つのは、見失ったユナだった。

 RPGのボスキャラを彷彿とさせる雰囲気は、そりゃもう半端なく怖い。

「テメーも仲間か!?」

 不良は鉄パイプを拾うと、ためらうことなくユナに向かって走り始めた。

 だが、ユナは上段から振り下ろされた鉄パイプを、的確に軽々しく止めた。

「天鷹丸には劣るが……鉄星丸てっせいまる、使いやすい武器よの」

 ユナは鉄パイプに名前を付けてたけど、とにかく素早いし強いし焦った。

 不良が横から放った蹴りも、ユナは後ろに飛んで避けながら、すねを鉄パイプで軽く叩いていた。

 カン、と小気味よい音が響いたけど、あれは痛いから、不良が戦意を失うには十分だった。

 不良の一人を地面に座らせ、もう二人を威圧しながら、ユナは叫ぶ。

「シュウヤは我の恩人ぞ! 傷付ける愚弄は許さぬ!」


 それからは見事な身のこなしで、あっという間にオレは助けられることになった。

 迫る拳をユナは避け、蹴りは体を捻ってかわすとか、武道の達人かと思うほどだった。

 ちょっと情けないかもしれねえけど、今回ばっかりは、ユナに助けられてしまった。


「痛てて……ちくしょう、あいつら派手にやりやがって」

「そう愚痴るな。助かっただけでもよいではないか」

 オレはユナを連れて、まあ実際には連れられてるかもしれないけど、学校への道を歩いていた。

 この辺りまで来れば、道もだいぶ分かるし、間違っても不良たちは、姿を見せないはずだった。

 そんな時、遠くの方からクミらしき人物が手を振り、こちらに近付いて来た。

「おーい! ユナさんは見付かったんですねー!」

 クミはこっちに走って来ながら、安心したような表情を浮かべていた。

 よく見ると、左手になにやら見慣れない、刀のような物体を携えていた。

 クミが近くで立ち止まったので、オレはクミの所持品をじっと眺めてみる。

「なんだそりゃ?」

「さー? まー、こきたねーものですし、さっき公園のゴミ箱で拾ったんで、質屋にでも売りさばきますー」

 クミは警察に届けないつもりらしく、赤い鞘に黒い柄の刀をさんざんけなしてた。

 そんな時、オレはふと、ユナがわなわなと拳を震わせているのに気付いた。

 考えてみれば、いまどきゴミ箱に刀が落ちてるはずない。

 ユナがなくした天鷹丸の件と、クミが拾った刀が、一つの線で繋がった。

 やがて、深く息を吸い込んだユナは一言叫ぶ。

「それは某の天鷹丸じゃ!!」

ナツハ『……ねえ』 シュウヤ『……分かってる。姉きの言いたいことは、なんとなく』 ナツハ『あ、カンペ出た。えっと、これは完結ではなく、手直しをするための措置です(土下座)だって』 シュウヤ『土下座……とか』 クミ『世界のどこかで、物語の手直しに追われてる作者がいるみたいですねー』 シュウヤ『うお! いたのかよ! というか物語って、なんの話だ?』 ナツハ『なになに、パレットに塗る色は推敲を行い、物語を再構築します。だって』 クミ『内情報告みたいですねー。それじゃ! また会う日までしばしお別れですー』 ナツハ『みんなの分はあたしから。みんな、また会おうね』 シュウヤ『て、手直しっておい……わ、分からないのオレだけかよ!』

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