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7―2.小刀の恐怖と宣伝撮影

「えいがぶぶしつ……」

「ああ。ここにユズがいるはずなんだ」

「ホント、私たち三人で何しに来たんだよって感じがしますよねー」

「まあ……部活見学には見えないわな」

 オレたち三人は、校内にある事は知っていたけど一度も入ったことのない『映画部部室』の前に来ていた。

 扉は視聴覚室の様な感じで、見た目からは特に変わった点は見受けられない。

「それにしても静かですねー」

「確かに。部員はいるんだろうか」

 取り合えず、扉をノックしようとする。

『どうかしましたか?』

 どきり、と心臓が跳ねた。

 急に背後から掛けられた声に、高速で振り返る。

「ユ……ユズかよ」

「何やら残念そうな反応ですね……。お二方はこんな所で何してたのですか?」

「急に話しかけるなんて外道ですよー!」

「げど……す、すみませんでした」

「いや、オレら二人だけの被害ならまだ良かったかもしれないぞ……」

「?」

 ここには見えない存在が一つある。

 ユナは驚きのあまりか、オレの頭上を浮かびながら通り越した。

 今は死角で見えないけど、たぶん。

「クミ、ユナは?」

「えーっと……あ、心配ないですー。頭上で小刀出してますけどー」

「なるほど小刀か、ってええ!?」

 まさかまさかやめとけよ、とか思いつつ視線を上げる。

「おのれ……背後から話し掛けられるとは不覚じゃった。しかも気配に気付かぬとは……かくなるうえはこれで某の首を一思いに斬り裂いて……」

「ちょ、待った! 平成の世の中で自決はするな! 話せば分かるっての!」

「某の問題に口を挟むでない! と言いたい所じゃが……確かに先程の状況では背後からの言葉もやむを得ぬかもしれんのう」

 冷静を取り戻したユナは、再びオレとクミの間に着地した。

「あの……誰と話してたのですか?」

 ユズは恐る恐る訪ねる。

「これは、まあ何と言うか。説明しなきゃいけねえ事柄だよな」

「クミ、殿方にしたことをこの男にもやってはくれぬか?」

「了解ですー。ユズ君良いですかー?」

 ユズは怪訝な顔で返事をした。

 殿方、つまりオレがクミにされた事は教室で額に何かをされた時だけだ。

「しゃがんで、目を閉じて下さいー」

「え? あ、あの、何を……?」

「平気ですー。死なないですよー。ちょっと痛いだけですのでー」

「は、はあ……」

 ユズはかなり戸惑っていた。

 オレはこっそりユナに話し掛ける。

「なあ、アレは何始めるんだ?」

体魂剥離ていこんはくりじゃ。魂を一部分だけ取り出して、某が魂を受け取る。同じ魂を共有していれば自ずと姿も見えるのじゃよ」

「体の方は平気なのか?」

「一部分とはいえ、海から水を一滴だけすくい出すようなものじゃ。害は無い」

「なるほどな。魂を取り出すのか……」

 ゴヅッ。と鈍い音が響く。

 魂を取り出す方法は、クミがユズに頭突きをすることだった。

 クミは笑顔、痛くないのかよ。

「クミさん……何を」

「ちょっと痛いだけでしたよねー?」

「いえ、まあ……はい」

 クミがあまりに笑顔だったから、ユズも文句を言えずに挫折した。

 それからは、ユナがユズを敵対視しながらもCMのことを説明したり、ユナが天鷹丸を探していることを伝えたりした。

「なるほど……血が騒ぎますね」

「ん?」

「僕、映画監督目指してるんです。自主映画の宣伝とあらば撮影に協力しないわけには行きませんね」

「おお! やって頂けるか!」

「はい。その後で良ろしければ、僕も刀探しを手伝いますよ」

「刀では無い! 天鷹丸じゃ! お主はまた忘れおってからに……かくなる上はこの小刀でお主の喉を……」

 ユナはシャリ、と小刀を抜いた。

「ストップ、殺人罪になるから一旦落ち着けというかやめろっての!」

「すとっぷだのと意味不明な言葉を使いおってからに……殿方はそんな言語を話す人種に成り下がったというのか!」

「うあっそうか! カタカナは伝わらないならその小刀を納めてくれっ!」

「……お主! 命拾いしたのう」

 ユズに吐き捨てると、ユナは小刀を腰帯に差した鞘へ納めた。

 クミは爆笑、ユズは呆然。

「ああー、楽しかったですー。ユナちゃんってばかなり良い性格してますねー」

「当たり前じゃ」

 出た、お決まりの台詞。

「CMの撮影は夜に行います。それまでに僕が台本を考えておきますので」

「台本ってすぐに考え付くものなのか?」

「優れた映画監督は、同時に優れた脚本家で無ければいけません。頑張ります!」

 ユズの口調が真剣なものになった。

 本気で監督を目指してるんだろうなと考えると、言いにくいことが一つある。

「台本は、あるんだ」

「え? あ……そうなのですか?」

「とまあ、ここにさ」

 ポケットから折り畳まれた紙を出す。

 先コーから『この通りに撮ってくれ!』と強く押された台本だ。

 カメラアングルは書いてないから、そこはユズの腕って事になる。

「とにかく適当に撮れって事ですねー」

「そうそう。って違うだろ! クラスの映画なんだからもう少し真剣に……」

「どちらでも構わぬわ。天鷹丸とて探されるのを待っておるだろうからな」

「……そうだった」

 こいつらはハイテンションだった。

 すまん、先コー。撮影は予定通りに行きそうにないみたいです。

シュウヤ『……体魂剥離ってさ、言い換えると頭突きだよな?』

クミ『その通りですねー』

シュウヤ『いつからそんな呪術チックな技が使えるようになったんだ?』

ユナ『某が教えたのじゃよ。前々から興味があったらしいからのう』

シュウヤ『お前かよ!』

ユナ『まさか頭突きで魂を取り出せるとは思わなかったがの』

クミ『頭蓋骨は固いですからねー』

シュウヤ『そうだけどさ……何だかな』

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