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6―1.不慮の恋人と絡む変人

 度胸があるヤツは見ても分からない。

 いざ体格の良いヤツでも、いざとなったら尻尾巻いて逃げ出すときもある。

 見る目が大事だったりするんだろな。


―――――

 目の前には大量の靴、靴。

 下駄箱のいらなくなった靴を玄関に出す手伝いなんて、人生初の家事手伝いだ。

 と、呼び鈴が鳴った。

「っさいな……」

 至近距離で鳴る呼び鈴はやかましい。

 靴が散乱したままの玄関だけど、この際仕方が無いんで扉を開ける。

「ちわーっす。来てみたで」

「おお……まあ散らかってるけどな」

 そこには制服姿のツバサが立ってた。

 部活帰りかもしれない乱れた短髪は、やはりというか似合ってる。

「うわ、真面目に散らかってんな」

「家事手伝いの証だ」

「散らかしてる様に見えんで?」

「踏み越えろよ。踏んだらオレが攻められるからさ」

 ツバサに忠告しながら靴を踏み越えて廊下にたどり着く。

 ツバサもぎこちなく難所を越えた。

「足つるな……ん?」

 僅かに隙間のある扉を覗くと、そこには茶の間で掃除をしている姉きが見えた。

 言いたいことがあるんで扉を開ける。

 片手にはたきを持って、オレの存在に気付かないまま掃除をしていた。

 そっと背後に忍び寄る。

「姉き」

「わ!! な……何よシュウヤ」

 驚いた姉きはすぐに冷静さを取り戻す。

 久し振りに怒った顔を見たけど、また怒られる気がしてならない。

 取りあえず、話を切り出してみる。

「姉き、ツバサが遊びに来た」

「そ。……だから?」

「今日の手伝いを切りあ」

「ダメよ。私の仕事が増えるでしょ」

 まあ、やっぱり断られたし怒られた。

 家事手伝いをやれって親父に言われてたから仕方ないけども、ツバサと遊ぶのを却下したくは無かった。

 と、また呼び鈴が鳴る。

「シュウヤ。見て来て」

「ツバサ。見て来てくれ」

「や……安倍家の名字やあらへんし」

「……冗談だよ」

 ノリの悪いツバサだった。

 来客を待たせるのは癪なんで、小走りで玄関まで行きドアを開ける。

 立っていたのは、見知らぬ男子。

 黒縁メガネの華奢な体つきに、学ランを丁寧に着ているヤツだ。

 同じ身長だからか、同い年に見える。

「ナツハさんはおりますか?」

「……姉きのことか?」

「あ……すみません、弟さんでしたか。自分、月城ユズと申します」

 なんつう丁寧な口調で話すんだよ。

 まあ良いんだけども、姉きに話があるならさっさと呼んで来なきゃなんない。

「ちょっと待っててな」

「すみません。お手数掛けます」

 そっと玄関の扉を閉めて靴を飛び越える。

 姉きを呼びに行こうとしたら、何故か姉きが無言で手招きをしてた。

 変だと思いつつ、茶の間に戻る。

「え、何で手招きなんだ?」

「良いから……それより、お客さんって丁寧で黒縁メガネの男子じゃなかった?」

「ああ、華奢な感じのな」

「もう来たんだあ……時間ぴったりだし」

 時計に目線を運び、姉きはげんなりした様子で肩を落とす。

「……なんで落胆?」

「あの子はね、彼氏なの」

「……は?」

「だから、彼氏よ。彼氏」

 ちょっと待て。いやそれよりもだ。

「ああいうのが好きだったのか?」

「ううん、違う違う」

「ワイは別にええと思うけどなあ。話聞く限り悪いヤツでもなさそうやし」

 オレとツバサは各々の反応だった。

 それはともかく、姉きはいつの間にか月城ユズなる人を彼氏にしたらしい。

「だから違うってば」

「何が」

「あの子は偶然の彼氏なの」


――姉きの話(要約)――

 姉きが学校の帰り、遠心力の実験をしようと鞄を振り回していたら、手が滑って川辺に飛んでいった。

 そこに、泣いている月城ユズがいた。

 話を聞くと、病気で入院していた犬が死んで、その報告を母親から電話で受け取ったらしい。

 姉きは自分の飼っている犬がいなくなるのと重ね合わせて考えてしまい、何だかひどく可哀想になった。

 放って置けなくなって、思わず一緒に帰ることにした。

 その後も、傷を癒してあげるために一緒にいたら、恋人関係に……。


―――――

 まるで漫画の様な出会いだと思いつつ、運命の出会いかとも思った。

「恋人が待ってんだから。早く玄関に行ってやれよな」

「駄目よ。あの子の為にならないし」

「……どうしてだ?」

「私はユズ君の傷を癒すために彼女役を演じてたの。でも、玄関にいたユズ君からは闇が消えていたでしょ?」

「ああ……」

「あの子の為にならないのよ。誰かを頼らなくても、ここからは自分で傷を治していって欲しいの」


 それが、あの子の為だから。


 姉きは優しさの塊みたいな人だ。

 いつも困ってる人を放っとけなくて、助けては自分の気持ちを犠牲にしてる。


 傷付けずに、別れてあげたい。

 姉きの細やかなわがままだった。


「傷付かない方法か……」

「何かあるんかなあ……」

 オレとツバサは二階の部屋にいた。

 かち、かち、かち。時計の音が虚しく室内に響いている。

「姉きは傷つかなそうだけどなあ……」

「乗り越えるのが上手いんやな」

「恋の事はさっぱりだよ。姉弟ってのはこうも似るもんなんだなって思うさ」

「……似る、かもしれんな」

「オレが駄目なのに、姉きは凄えさ」

 駄目、凄い。

 相反する単語がグルグルと渦を巻く。

 二つは混ざり合い、結合し、時として新たな答えを導き出す。

「……ひらめいた」

「は?」

「ユズを傷つけないで、姉きと別れさせる方法が見つかった」

「まじでか! 何や?」

「試してみる価値はありそうだぞ」

ツバサ『作家の閃きも突然らしいで』

シュウヤ『どうやらそうらしいな』

ツバサ『あんさんもしかして……発明か何かで特許でも取るんやないか?』

シュウヤ『まあ……取れるなら』

ツバサ『謙虚やな』

シュウヤ『謙虚じゃない。無欲だ』

ツバサ『ま、案外そういうヤツが上手だったりするんやけどな』

シュウヤ『何がだ?』

ツバサ『あえて技術をひけらかさないヤツが物書きも発明も最高級ってことや』

シュウヤ『……豆知識か』

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