4―2.人を疑う事なかれ
人なんて良いトコはあんまりねぇ。
でも、そいつは自分もおんなじなんだから五分五分ってことで許してやろうぜ。
欠点なんて、誰にでもあんだからさ。
受け入れてやろーぜ。
―――――
放課後―帰り道
何故か姉きと会ってしまった。
「シュウヤ、一緒に帰らない?」
「何でだよ」
兄姉揃って帰宅なんぞ誰がするか。
「それは恥ずかしさ?」
「いや、たぶん違うと思う」
「隠さなくて良いわよ」
姉きは激しく勘違いしてるらしい。
実際、いくら姉きが大人っぽい雰囲気だからって兄姉同士だと恥ずかしくねぇ。
ミライとなら緊張するけどな。
「あ」
「どうした? 姉き」
「メール来たみたい」
「彼氏からか?」
「違うわよ。まだいないもの」
鞄から取り出した携帯を開く姉き。
飾らねぇっていうべきか、姉きのメール着信音が初期設定状態のままだった。
「何でその音なんだ?」
「んー、時代だから」
むしろ凄まじく逆行してるぞ。
「……あれ? 違うみたい」
「何が」
「私の携帯じゃ無いみたいよ」
姉きの携帯には何も来てなかった。
「……つーことは」
ポケットから自分の携帯を取り出す。
お知らせランプが点灯中。
「……オレか?」
「シンプルイズベストね。着信音」
「でもなぁ、オレ別に初期状態に設定した覚えなんてねぇんだけど……」
愚痴りながら受信メール確認をする。
見た瞬間、送信者のアドレスが載って無いことが分かった。
「メルマガだったの?」
普段なら砕けた姉きの一言。
でも、クミの言葉が嘘と信じて、オレは姉きにチェーンメールの話を説明した。
「なあんだ、あれね」
「なあんだ。って知ってんのか?」
「あれ嘘だから気にしないで」
嘘。
「I not understandですが?」
「英語と敬語キャラじゃないでしょ」
そういうことじゃねーっつうの。
「ともかく、どういう事だよ」
「つまり、バスで〇〇吐くと(本人の意思により割愛)周りの人ももらうでしょ? あれと同じようなものよ」
「全っ然分からねぇですよ!」
無意識のうちに言葉おかしくなっちまったじゃねぇか。
「吐いたのが私ってこと」
「じゃあ、もらったのがオレか?」
「そ。作り話よ」
なんだ。所詮そんな事かよ。
本文にドクロのマークがある所とか、送信者のアドレスが無いとことか、イタズラのクセに作り込み過ぎてるってーの。
「だから気にしないでね」
「はいよ」
気付けば結局姉きと帰ってた。
まあ、退屈しねぇし、メールのトリックも解けたんだから良しとするか。
「今晩の晩ごはん予想。シュウヤから」
「また突然な……カレーに一票」
「じゃあ、麺類に一票」
どんだけ不利な勝負だこれは。
そんな話の途中、いきなり雲行きが怪しくなって雨が降って来た。
「うわ。雨か」
言い終えた矢先、雨は激しさを増す。
「雨か。なんて言うから」
「オレのせい?」
「コントやってないで帰るわよ!」
コンビを組んだ覚えはねぇっての。
手で滴を遮りながら、取り合えず家に向かって走り出す姉き。
ちなみにオレは姉きの分と自分の鞄二つ持ちだ。オレ雨防げねぇじゃんか。
―――――
「ついてねぇな雨なんて」
制服を着替えながら独り言を洩らす。
あのメール効果かもしんねーな。なんて冗談混じりに考えてみたりする。
そういや、一つ疑問に思った。
送信者名を消すなんて、いくら何でも出来るもんなんだろうか。
こう考えられる。
実はあのメールは本物で、姉きはそれを隠すためにわざと嘘を付いたって事だ。
「まさか、な」
呟いた瞬間、電気が消えた。どうやら雷が落ちたっぽいな。
「明かりは……と」
手探りで携帯を探す。
と、床に置いてあった何かにつまづく。倒れる体を右手で支える。
痛みが走った。
「いっ、つう……」
反射的に手首を捻ったのだと悟った。
タイミング良く携帯が鳴る。
ズキズキと痛む右手をかばい、不馴れな左手で携帯を開く。
メールは無効になりました。と書かれた送信者名無しのメールが届いていた。
―――――
「やっぱりケガしたみたいね」
手慣れた手付きでオレの手首に包帯を巻きながら姉きが言う。
「やっぱり?」
「あれねー、恐怖のレベルでケガの重さが変わるメールなのよ」
「やっぱ本物だったのか」
恐るべし近年のチェーンメール。
「受信から十五分後に、抱えてる恐怖のレベルに比例した怪我をするんだって」
「はあ……それでこれか」
既に包帯は巻き終わっていた。
「あんた、もしかして『姉きの言ってることは嘘って事で良かですたい』とか考えてたんじゃないの?」
「うっ! ……まあ」
「だからかもね。その怪我」
人を疑うのは良くねぇって事かもな。
教訓混じり。なまじチェーンメールもわりぃモノばっかじゃねーかもしれねぇ。
「今日からあだ名は左手将軍ね」
「勘弁してくれ。色々と」
とかく、他人を疑うのはオレみてーになっちまうからやめといた方が良いぞ。
人は信じてなんぼ。だな。
シュウヤ『つーことで、二話完結・人を疑う事なかれ、をお送りしました!』
ナツハ『今更真面目にしなくても』
シュウヤ『たまにはな。冒頭の言葉だって過去に被ってるかもしれねぇし』
ナツハ『うん。適当が一番だからね』
シュウヤ『あーそうそう、何日か前に某新聞の記事見てたんだけどな』
ナツハ『?』
シュウヤ『二歳の誕生日おめでとう。って部分に、姉きと同名の人がいたぞ』
ナツハ『……良いセンスしてるじゃない』
シュウヤ『……姉きが嬉しそうだ。オレと同じ名前はいねーもんかな』