2―2.続・クミと本屋店員の関係
水道から『茶』が出たら。
飲む分には良いけど、醤油ラーメン作る時ぁ耐えらんねぇだろうな。
化学的に何色だよ。
そういや、日本のどっかにゃ水道から茶が出る学校があるらしい。
……暇な時探してみるか。
―――――
朝十時半―玄関先
親父に外出すると言い残し、オレとクミは実家から出れた。まずはオーケーだ。
うん、手足もバッチシ付いてる。
妄想だけど、家から出る前に心霊イベントで死んじまうかと考えてた。
暴走車にぶつかるとか。
通行人が何か変になるとかな。
クミの天性心霊能力はハンパねぇ。
それは、望んでねぇのに自ら浮遊霊を引き寄せちまう……らしい。
だが、クミから出る強力なオーラがありゃあ霊とやらも離れちまうだろう。
……多分。
自信なんてアリマセン。
まずは、目的地決めるとすっか。
「どこ行く?」
「別にどこでも良いよー」
「あ、一番困る」
「シュウヤが決めて」
オレの隣でにこにこ笑ってる。うむ、完全に可愛いですけども。只の遊びなのに、デートみたいに見えるっつうの。
何で笑ってんのか分かんねぇけど。
……まさか、いや、次の瞬間霊が見えているとでも言い出したりして。
「デートじゃ無いよな?」
「うん」
はっきり言うかい。
「じゃあ、本屋でも行くか」
「そうだねー」
非常に楽天的な返しだ。すげえ親しみやすいんだなと今更ながら感じる。
正直、反対されっかと思ってた。
二年生に進級してから、グループ活動で仲良くなったけど、こうやって二人で遊びに出んのは過去に無かったな。
「行こー、シュウヤ」
「うあ! 腕引っ張るなよ」
「だって遅いんだもん」
玄関で立ち話してたら、クミが早く行こうと言わんばかりに手首を掴まれた。そのまま引っ張られる……い、以外と力強ぇ。
「クミさん」
「え?」
「手握ってますよ」
「うん。だからどーしたの?」
やっぱ無関心ってか。うむ、そこまで純粋でなきゃ男の家なんて平気で来ねぇな。
「ぜんぜん平気?」
「うん。だってシュウヤだよー? 今だ彼女の一人もいない癖にー」
「やかましい」
「本当の事でしょー?」
……ぐはっ、返す言葉が無ぇ。
オレは恥ずかしい。
クミは平気。
フツー逆じゃねぇか。
「よぉし! そこまで言うんだったら今日はオレが仕切ってやらぁ!」
クミの束縛を払い除けて話す。このままじゃ埒が明かねぇ。ファイトだオレ。
「じゃ、任せるよー」
「オーケー、行こうぜ!」
まずは元気に行くとすっか。
漫画みたく、ライン状の影が額に被さってる絵なんて嫌だからな。
「あっ」
「わ、どうした?」
「……本屋、逆だったー」
「……そうだな」
最悪な出だしだ。我ながら。
くるっと振り向き、いざ行かん。
―――――
朝十一時―本屋
とか思ってるうちに到着。さすがに日曜日だけあって、人がごっちゃ×2だ。
どのコーナーも、満員電車みてぇに寿司詰め状態になってやがる。
「シュウヤ、あっち行こー」
「ん、どこにだ?」
「あれあれ」
嬉しそうに指差した先は――。
『心霊・超常現象』の棚。
「……アレ?」
「ネタじゃ無いよー?」
分かる。真面目な目だから。
「オレは大丈夫か?」
「何が?」
「いや、もしかして浮遊霊に取り付かれちまうんじゃねぇかなーって……」
「平気だよー、何かあったら任せて」
泥棒を見て縄をなう。クミは霊を呼ぶコトがたまにあるから言ってみた。
前の話だが、教室に霊が来たらしくぶつぶつと長いお経を唱えてた。
しかも、オレの隣の席でだ。
かなり怖かった。
あん時、クミの意識はブッ飛んで冥府に旅立ってたと断言出来る。
……っと、店員に『お前ら入り口で何やってんだよ』って目で見られてらぁ。
「まあ、良いよ」
「ホント? 早く行こー」
「ちょ、いて! ま、また腕を……」
タイム、肩がゴキッと鳴った。
クミは見た目によらず力がある。
可愛いし背も低い。
これで彼氏がいねぇらしい。
……冷静になってる場合かっつの。
客の間を抜け、オレとクミは心霊・超常現象の棚に足を踏み入れた。
一歩踏み出し死の世界。
行く宛ての無い旅に出る。
リセットボタンは有り得ない。
あの世の道は一方通行。
…何考えてんだよ。
by一ノ瀬クミ
編集・安倍シュウヤ