3―3.夏の風に咲く桜
好きな数字は7なんだ。
7時7分を見れたら幸せな。
―――――
食堂―昼十二時
食堂に寄るなんて久し振りだ。
そして、何故にレストランへ寄らずに食堂に来ちまったのかはクミの策略。
アイツは本当に奇想天外なヤツだ。
「はああ……」
「どうした? ツバサ」
「さっぱり恋が進展せえへんな」
「な……ごほっ」
ツバサの発言に、思わず飲んでた水を盛大に吹き出しちまう所だった。
「つ……いきなり何言い出すんだよ」
「アホ。気付かへんか?」
「だから、何が」
「わいらが飯食うためだけに、わざわざミライとあんさんの席を離す訳無いやろ?」
確かにそうだった。
オレは、何故かクミとツバサの誘導で男子と女子のグループに分けられてる。
真ん中に通路があって、左側がオレとツバサで右側のテーブルにクミとミライだ。
「んで、その心は?」
「その心は、あんさんの胸に聞けばええ」
「自分の胸ねぇ……」
ツバサの言葉に少し考えてみる。
「あ。分かった」
「なんや?」
「この前貸した百円だろ? 時間が経ったから返せなくてわざわざ離れて……」
「……真面目に考える気あるんか?」
「あるよ。何なんだ一体」
結局はツバサの意図が分からなかった。
ふと横を眺めれば、クミとミライがテーブルを挟んだまま座って盛り上がってる。
「あんさんとミライの事や」
姿勢をツバサの方に向き直す。
「ミライの奴、あんさんからまだきちんとした告白されてないって悩んでたで?」
「……」
言葉が出なかった。
オレ自身、ミライとの関係があやふやなままだって事を忘れてる訳じゃない。
けど、ツバサの表情は真剣だった。
「本当に好きと思ってるんか、ミライにきちんと証明してやるんや。今日が最後のチャンスと思って、言ってみたらええ」
「……ツバサ」
「何や?」
「お節介なんだよ」
「……何やて?」
怒った様に目を鋭くするツバサ。
「お節介なんだよ。いつもいつもオレとミライの事に干渉しやがって」
店員に聞こえない程度の声。
「確かに、クミや姉きもオレ達の仲を深めようとしてくれてる。その事に関しては怒ってないし、むしろ感謝してる」
黙って話を聞き続けるツバサ。
「けどさ、必要以上の無理はやめてくれないか? 頼むから……オレに任せてくれ」
沈黙。
店には、オレ達が入った時と変わらない賑やかさがある。
「……オレが悪かったわ」
「え?」
「必要以上に無理強いはせえへん。でも、程々に応援してもええやろ?」
呆気に取られる。
怒り、それが掻き消された。
嘘だったのかもしれない。
ツバサの応援をお節介だと思う事が、自分自身のミライに対する逃げだった。
オレは、ミライから逃げた。
告白すんのが怖くて。
「……ごめん。ツバサ」
「応援もしなくてええんか?」
「いや、違う。ツバサの言ってた事が、間違って無い事に気付かされたんだ」
「……すまん、何言ったか忘れてしもた」
「え、忘れたのか?」
「すまんな」
「記憶障害かっての」
台詞は嘘を付いてるかもしれない。
それでも良かった。
自分の気持ちが整理出来た。その実感さえあれば、他に何か必要なものがあるか。
「ちょいとすいませんー」
クミに向こう側から呼ばれたんで、平常心を装いつつ、何事かと言葉を返してみる。
「注文しないんですかー?」
「……注文?」
お互いに顔を見合わせる。
「そうですー。さっきから店員さんが近付きにくそうにしてましたよー?」
「……出てたんやな」
「負のオーラってヤツか」
どうやら殺気は出てたらしい。
通りで、さっきから誰も注文を取りに来ねえと思ってたら。そういう訳か。
「早くして下さいねー」
「ああ。分かった」
呼び出しボタンを押した。
余韻が、妙に響いた気がした。
その無機質な音が、生きたハーモニーを奏でていた。
――答えは。
もう、近くにある。