3―1.夏の風に咲く桜
卒業式で先輩を見送る時。
終わって三日すると、あの涙は何だったんだって位にどうでも良くなるよな。
―――――
休日―朝九時半
爽やかな朝ってのはこれだ。
窓を開けて、心地良い風と雲の隙間から顔を覗かせる太陽のコラボレーション。
「爽快。って感じだな」
こんな日はのんびり過ごしたい。
自分の部屋で窓の側。ぼんやりと昼辺りまで過ごすのもまた風流な感じかもな。
「……いかん、暇だ」
その計画も長く続かなかった。
「誰か来ないか……」
暇しない環境にいる時は、こうやってぼんやりするのが逆に大変なのか。
前は気楽だったのに。
まあ、それだけ環境にも馴染めて良い友人を持ったって事なのかもしれないな。
「良い天気よね」
「そうだな。ってうわ!」
背後にいたのは姉きだった。
「いつ入ったんだ?」
「爽快って感じだな。からよ」
「最初からですか」
「まあね」
相変わらず気配を消せる様で。
「それより。暇なんでしょ?」
「まあな。ぼんやりする予定だったんだけど気付いたら暇になってた」
「なら、誰か誘っちゃえば?」
オレの隣に並んで姉きは言った。
「待ってないで、自分から遊ぼうぜって電話してみるのも良いんじゃない?」
「……そうだな」
どうして今まで気付かなかったのか。
暇なら、向こうが来るのを待ってないで自分から誘ってみれば良いんだ。
「やってみるか」
「誰に電話するの?」
「そうだな……ミライに」
話しながら携帯を取り出す。
アドレス帳を開いて、ミライの電話番号を選ぶと通話ボタンを軽く押した。
「じゃ、私は宿題があるから」
「ああ。頑張れな」
「のろけ話。期待してるわよ」
「やかましいっての」
意地悪な笑みを浮かべて、姉きはオレの部屋から去って行った。
呼び出し音が途切れる。
「はい。もしもし」
電話口から聞こえたのは、紛れも無くミライの優しい声だった。
「もしもし。オレだ」
「……シュウヤ君ですか?」
「ああ。ごめんな、急に電話して」
「いえ、あの……」
何故か戸惑っている様な気がする。
「もしかして、忙しかったか?」
「……き、急にシュウヤ君から電話が来たもので、びっくりしてしまって……」
「……驚かせちまったか」
どう返して良いか分からなかった。
話してる時とは違う、心の準備が出来ていない場合の会話は緊張するものなんだ。
「あのさ、どっか出掛けないか?」
「……二人でですか?」
「んーと……ミライが希望するならあいつら誘っちまうけど、どうする?」
「……誘いたいです」
「じゃ決定な。二人にはオレからきっちり連絡しとくから心配すんなよ」
「はいっ。ありがとうございます」
少し明るい返事だった。
「じゃ、十一時に公園でも集合するか?」
「あ……あの、シュウヤ君を待たせるといけないので私がそちらの家に向かいます」
「分かった。それじゃな」
「はい。失礼します」
静かに耳を離して終話ボタンを押す。
「何か、緊張しちまったっ!」
電話が終わると、以前には感じなかった緊張感が如実に伝わって来ていた。
まず、どうしてミライの方をオレの家に来させる様な真似をさせちまったのか。
そして、心配すんなよって台詞を吐く気障なキャラに変わってる自分がいた。
「終わったみたいね」
姉きが部屋に入って来た。
「な……姉き、盗み聞きしてたな?」
「違うわよ。そこに立ってたらたまたまシュウヤの声が筒抜けて聞こえただけ」
「それが盗み聞きだっての!」
突っ込んで、ふと姉きが喋り始める。
「頑張って来なさいね。女の子に取っては他人がいても、シュウヤとのデートが何よりも大切なんだから」
「そういうもんなのか?」
「うん。ツバサ君やクミちゃんを呼んだのは勇気を分けて欲しいからで、本当ならシュウヤと二人きりで過ごしたいって考えてるはずよ」
「……な、なるほど」
そうとしか言えなかった。
何故なら、そんな心を理解できるならミライが初めての彼女じゃないはずだから。
「あ、こんな話してる場合じゃねえ! 二人を誘うから姉きは退室してくれ」
「そうね。シュウヤのせいで宿題が進まないんだからその分頑張って来るのよ?」
「え、オレのせい?」
「じゃね」
「っておい!」
言葉虚しく部屋を出た姉き。
っと、こんな事に労力を使うんなら二人の電話に体力を温存しとくべきだな。
まずは連絡取って、それから外出用に身支度を整えなきゃなんないから。
急ぐか、少し。
シュウヤ「えー、もうすっかりお馴染のコーナーになっちまってるけど……」
クミ「自己紹介ですねー?」
シュウヤ「ってクミ! いつの間に?」
ナツハ「今日はクミちゃんの番だからね。私が連れて来たのよ」
シュウヤ「ルール無用だな……」
ナツハ「何か言った?」
シュウヤ「いやいや、別に」
クミ「それじゃー、時間も無いみたいなので始めちゃいますかー」
ナツハ「うん。どんどん進めちゃって」
クミ「ではーいきます! ナンバー二番一ノ瀬クミ、身長は156センチですねー。小さいとは言わないで下さいよー?」
シュウヤ「オレとは……17センチ差か」
ナツハ「私とも8センチ。やっぱり背が低いって良いわよねー」
クミ「次に、髪は黒色ですが肩までありますねー。ナツハさんよりは短いですよー」
シュウヤ「姉きは髪長いよな」
ナツハ「そうかも。肩なんて簡単に越えちゃってるし……確かに長いわね」
シュウヤ「気付かなかったのかよ?」
ナツハ「うん。あんまり気にしないから」
クミ「そしてですねー、シュウヤとは同級生ですー」
シュウヤ「それは有名だな。多分」
ナツハ「私は三年生なのでよろしくね」
シュウヤ「なに便乗してんだよっ!」
クミ「区切りの良い場所なのでー。これからもよろしくお願いしますねー」
ナツハ「清き一票をお願いします」
シュウヤ「……選挙?」