表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/38

2.それぞれの信念

 個人的なんだけどさ。

 小説より、映画化された映像の方が見ててスリルある展開になってんだよな。


―――――

PM六時―自室

 今日はツバサが遊びに来てる。

「結局さ、ツルんでる奴らって集団じゃなきゃ何も出来ねぇんだよな」

「せやな。自分の弱い所を他人で補ってる点はわいらと変わらんけど、それで傷つけられる奴がいるんなら……」

 何かコマンドっぽい物を入力。

「許す事は出来へんな」

「あっ! 究極技は反則だろ! しかも不意打ちって……」

 テレビ画面には負けの文字。

 真面目な話と思いきや、しっかりとゲームに集中していたりするツバサ。

「逆転勝利やな」

「この……もう一戦頼む」

「良いで」

 キャラを選んで開始を押す。

「さっきの話やけど、あんさんは不良のグループに入らないって決めたんやろ?」

「ちょ……まあな」

 ノーガードで連続技を受けた。

「何で入らないんや? あんさんみたいに強かったら率いる立場になれるはずやのに」

「オレは嫌だよ。周りにいる奴らと傷を舐め合いながら不良演じるより、自分で生きていく方がずっと強い不良だろ?」

「信念があるんやな」

「まあな。っておい!」

 またしても画面に負けの文字。

 文字通り瞬殺だった。

「ツバサ、誘導尋問っすか?」

「そんなつもりは無いんやけど、無言で格闘ゲームすんのも嫌かと思ってな」

「いや、別に」

 話に集中しちまうオレは、どう頑張ってもツバサに勝てない様な気がする。

「あ、そろそろ帰る時間じゃないか?」

「せやな。まあ近所やけどな」

「徒歩五分だっけか?」

「こんだけ近いのは楽やで」

 笑いながら鞄を背負うツバサ。

 学ランで学校帰りとは、どうやらツバサの家では明確な門限はねぇらしい。


―――――

PM六時十五分―玄関

「じゃ、また明日な」

「ほなな。楽しかったで」

 挨拶を終えて玄関から出るツバサ。

 その時見えたのは、外が薄暗くなっているのと雲がやけに黒い光景だった。

「ふう……疲れたな」

 久し振りに賑やかな日だった。

 充実した感覚。上手く表せないけど足りなかった隙間を埋められた気がする。

「けど……楽しかった」

 思えば、これだけ本音を話せたのはツバサが初めてだったのかもしれないな。

 価値観が同じ友達。

 見付からないと思ってたけど、案外近くにいたりするんだな。

「わー! どいてどいて!」

 ばたばたと廊下を走る姉きに、オレの思考は脆くも砕け散った。

「な、何ですか……それは」

「良いからどいてっ!」

 オレの隣を横切って扉を開ける。

 素早く靴を履いて、何やら手に持っていた鉄製の灰皿を逆さまにした。

 地面からは白煙が上がっている。

「あー、危なかった……」

 心底安心した様な表情の姉き。

「…………姉き、お笑い?」

 ようやく出た言葉は意味不明だった。

「ううん、失敗よ」

「失敗っすか」

 地面から立ち昇る少量の白煙。

「で、何したんですかね?」

「暇潰しなんだけど、味付け海苔に入ってる食べられませんって袋あるじゃない」

「乾燥剤だっけか」

「そ。あれに水をかけたの」

「……そしたら?」

「化学反応が出たわね」

 どんだけ危ない暇潰しだよ。

 それは、何処かのTV番組でやってそうな真似しないで下さい状態じゃねーか。

「やっぱり危ないわね」

「うん……下手すりゃ火事だな」

 納得した様に地面を眺める姉きだった。

 っていうか、分かってんならどうして危険極まりねぇ行動を取るのか謎だ。

 それが、姉きらしさって事かもな。

「ツバサ君は帰ったの?」

「ん。ああ、ついさっきに」

 いつの間にか白煙は消えていた。

「随分賑やかだったけど、もしかして恋の話で盛り上がってたの?」

「いや、何か不良の話だった」

 家の中に戻って来る姉き。

「不良の話?」

「価値観の問題だけどさ。ツルんでる奴らは一人じゃ何も出来ないって話だった」

 靴を脱いで台所へ向かう。

「価値観ねー。シュウヤもそんな事を語り合える年頃になったんだ」

「あっ! 子供扱いするなよ」

「うん。もう大人になったもんね」

 灰皿を台所へ置く姉き。

「私は良いと思うよ」

「何が?」

「そうやって話し合う所。お母さんもお父さんも、そうやって立派になったから。シュウヤも大人の仲間入りって感じね」

「んな事……オレは子供だよ」

 お湯の流れる音が沈黙を消した。

「ツバサ君やミライちゃん、クミちゃんと知り合って、シュウヤは大人になった」

「…………」

「恋愛も経験したし、価値観が同じ人とも巡り会えた。普段は経験出来ない様な心霊の世界にも踏み込んだりした」

 湯沸かし器のお湯を止める。

「私達は、一人じゃ生きて行けない。自分以外の人達と知り合って、足りない部分を学んで、一歩ずつ大人になる為に進んで行かなきゃならないの」

 灰皿の水滴をタオルで拭った。

「私も、シュウヤも、地球にいる全員がそうやって大きくならなきゃいけないのね」

「そう……だよな」

 姉きは色々な事を知っていた。

 オレには無い部分を持っていて、子供のオレには近付けない人だと思っていた。

 でも、違ってた。

 姉きには姉きの良い所、オレにはオレの良い所がきちんとあるんだよな。

 それが、たまたま尊敬出来たり自分の性格に合わなかったりするだけ。

 好き。

 嫌い。

 だけど、自分の考え方次第で、嫌いを好きに変える事が出来るかもしれない。

 もしかすると、そいつが自分に取って足りない部分を持ってるかもしれない。

「あ、言い忘れたけど……」

「何?」

「お父さんには内緒ね」

 指を鼻に当ててポーズを取る。

 そうか。

 実験失敗したから、灰皿から白煙出してたなんてバレたら怒られるよな。

「ああ。言わねーよ」

「お母さんにもね」

「……約束する」

 それは心配しすぎだよ。

 とは突っ込まず。オレだって姉きの立場だったら内緒にしてくれと頼むから。

 そういや、オレも最初はツバサの性格に少しだけ抵抗感があった気がする。

 でも、今はそんな気持ちは消えた。

 姉きが伝えたかったのは、そういう事だったのかもしれない。

 どこか心が暖かくなって、これから生きて行くのが楽しくなる様な一日だった。

シュウヤ:さすがに自己紹介か?

ナツハ:そうかも。あんまり先延ばしにするとシュウヤだけ場所取れないからね。

シュウヤ:それ困る。

ナツハ:じゃあ行くわよ。名前は安倍シュウヤ。身長は173センチで体重は58キロ。特に身体的特徴は無いわね。

シュウヤ:ちょっと待った! 何で姉きがオレの代わりに言ってんだよっ!

ナツハ:だって、喋りたいから。

シュウヤ:そんな理由?

ナツハ:欲望に忠実でしょ?

シュウヤ:まあ何つーか、とにかく不良に憧れる高校二年生として覚えてくれ。

ナツハ:趣味は犬と遊ぶ事。他にも色々あるんじゃ無いの?

シュウヤ:後は景色を眺める……って不良のイメージが消えるからやめて下さい。

ナツハ:それで、不良になろうとしてるんだけど大体は空回りしちゃってるのよね。いじられキャラだったりするし。

シュウヤ:そうなんだよ。最近は突っ込んでばっかりだしな。

ナツハ:優しいのよね。シュウヤは。

シュウヤ:何か言ったか?

ナツハ:ううん。別に。

シュウヤ:まーそんなわけで、次回は誰が自己紹介をやらかすんでしょうか。

ナツハ:次回をお待ち下さいね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ