8・夏休みの羽音
『黒色』
何を混ぜても、変わらねー色。
そんな、周りに流されねぇ人間になれたら良いなって思う。
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二時間目―LHR
特A級に楽な授業だ。
LHRっつうのは、主に勉強以外の事を決める時間だったりする。
例えば、学校の教育についてどう思ってるかアンケートを取ったりだ。
んで、今回は約二ヶ月後に迫る文化祭について案を出したりしてるってワケ。
まー当然ながら、真面目に答えてる生徒は前に立ってるヤツだけ。
学生なら経験あるよな?
オレもぼーっとしてるんだ。
「えー、じゃ他に……」
毎度お馴染、黒い出席簿を持った先コーが真剣に内容を考えてる。
余談だが、あいつを忘れたヤツぁ話番号1のトコをちゃちゃっと探してみてくれ。
オレが寝てた時、バコッと頭を叩きに来た先コーだ。黒い出席簿でもって。
「シュウヤ、お前答えてみろ」
「はぁ……オレ?」
「そうだ」
指名された。
気のせいなのか、あの先コーは困るたんびにオレの事を当ててる。
静かな教室で、オレの椅子が鳴った。
「えー、まあ……」
「なんだ、何も無いのか?」
「しかし……」
発言意欲は、黒板を見たら消えた。
定番中の定番が、ほぼパーフェクトに書き出されてる。
「……カブりました」
「何だ、不良になるんだから男子対抗の喧嘩って言うんじゃ無かったのか?」
「んなワケねーよ!」
「……まあ、座れ」
文化祭でんな事やったら、確実に学校がぶっ潰れるだろが。
先コーの冗談は絡みにくい。
つうか、焼きそばとか定番が出てんだからソイツに決めちまえと思う。
悩むだけ無駄だ。
「じゃあ、この中から多数決……」
「ちょっと良いですか?」
その時、クラスの女子がおもむろに手を上げて席から立ち上がった。
「何だ」
「自作の映画ってどうですか?」
「……映画?」
「はい」
先コーは意外な顔をしてる。
文化祭で映画上映なら分かるけど、自作を放映するクラスが過去にあったろうか。
「……皆はどうする?」
先コーの曖昧な問いに、クラスが相談ならぬ雑談にザワザワと騒ぎ出す。
よし、ここで言わなきゃ名が廃る。
「良いんじゃねぇ?」
「……」
クラスが沈黙した。
「斬新でさ。卒業間近の三年くせぇ真似だけどやったら楽しいと思うぜ?」
「……だそうだ」
クラス全員に確かめる。
しばし沈黙の後、どこからか納得の声がいくつか上がり始めた。
「よし、多数決で決めるぞ」
埒が明かないと気付いたらしい。
軽く咳払いをし、黒板の前に移動して赤いチョークを手に取る。
「じゃ、映画以外の奴!」
そっちが先かよ。
あまり手は上がんなかった。
こいつは、手をどっちにも上げねぇヤツが沢山いそうな気がする。
「次、映画をやりたい奴!」
思いは杞憂だった。
クラスの半分以上が、手を綺麗に上げてくれた。数えるまでも無かった。
「よーし、決定だ!」
そう言った瞬間、チャイムが鳴った。
先コーに挨拶を済ませ、十分ばかりの休み時間に突入する。
意見を言ったのは久し振りだ。
で、それがクラスの半分以上に納得されるなんてのは更に久し振り。
もとい、初だな。
「シュウヤー」
「あ、クミ」
クミが挨拶よろしく来た。
その隣には、いつの間に知り合ったのかミライが付いて来ている。
「……シュウヤ君、どうも」
「何照れてるんですかー」
そう言いながら、ミライの肩をぽんと叩くクミ。すげー仲良さそうだ。
「女って、いつ知り合うんだ?」
「それは内緒だよー」
「……ふーん」
そう言われっと気になる。
「それより、文化祭の催し物決まったー?」
「ぼちぼちな」
LHRは、他のクラスでも同じだ。
クミのクラスでも、文化祭の催し物を決めてたらしい。
「ミライはどうだったんだ?」
「あ……まだです」
「クミは?」
「同じですねー」
やっぱ最初はこんなもんか。
もしや、最初のLHRで決まるコトって奇跡に近いんじゃねぇかと勝手に予想。
「じゃ、帰りまーす」
「いや早っ! 何しに来たんだ?」
「暇潰しですねー」
笑いながら話すクミ。
「ミライちゃんはまだいるー?」
「え、あの……」
ミライまでからかう始末。
もしや、二人だけにするつもりでミライを連れて来たんじゃねぇか。
「えと……帰ります」
「帰んのかっ!」
ツバサ風のツッコミ。関西弁が移っちまわなきゃ良いけどな。
「じゃねー、シュウヤ」
「で、では……」
帰るのも早かった。
今更だが、ほんとーに何の意味があって来たんだと思わずにはいられねぇ。
文化祭。
直前には夏休み。
この環境で、退屈という名の二文字は存在しないコトを激しく痛感した。
ふわふわ空舞う青の羽。
ワルツに合わせて踊る蝶。
疲れた体を野花に預け。
ゆっくり眠って良いんだよ。
…眠そうですー。
by安倍ナツハ
編集・一ノ瀬クミ