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2―1.起・クミと本屋店員の関係

 地球が赤かったら。

『海』や『山』や『川』が赤くて、ロマンチストになりそうだ。

 でも『血』は変わらない。

 どうやって水と血を見分けよう。

 ルミノール反応?

 探偵諸君、健闘を祈る。


―――――

日曜日―朝十時

 何か一階がうるせーと思ったら、親父が一生懸命に寿司握ってる。

 文句の一つでも言おうと思ったけど、あまりに頑張ってるからやめた。

 親父、あんたぁ格好良いよ。

 客を喜ばせる、その一心であんたは寿司に魂を込めているんだよな。

 オレだって、ちゃんと見てるよ。

「おはよう、親父」

「おう! 遅いぜシュウヤ!」

「シュウヤ君、頑張ってるかい?」

「まあ、程々にね」

「偉いねぇ。あんた、ウチのアホな娘にも見習わせてやりたいくらいだよ」

 挨拶がてら顔を見せると、休日だってのに店には沢山の客がいた。

 親父が好きなのか。

 寿司が旨いのか。

 まだ子供のオレには分からない。

 客が、どんな思いで『安倍寿司』に足を運んでくれているのか。

「シュウヤ、ちょいと手伝え」

「ええ! 何を?」

「そこの袋を取るだけだ」

「……それだけ?」

「おうよ! らっしゃい!」

 袋を手渡すと同時、また新たな客がガラガラと扉を開いて入って来た。

 何つー繁盛っぷり。

 そして、親父カッコ良い。

「勝己さん、今日も頑張ってるな」

「まだまだ! 俺ぁやるぜ!」

 どうやら親父の知り合いらしく、親しげに名前で呼んでいる。親父と比べるとどーも冴えねぇ中年野郎ごときが。

 別にヤな訳じゃねぇけどさ。

 オレは、親父を一番尊敬してる。

 織田信長や、日本に仏教を伝えたナントカって歴史の偉人より、親父が偉い。

「親父」

「あん? どうした?」

「頑張れよ」

「……がってんだ!」

 親父は、ちょっと嬉しそうだった。

 まだまだ長生きして欲しい。

 自分勝手かもしれねーけど、オレが一人前になるまで生きててくれ。

 邪魔にならない様、外に出た。

 この時ほど、不良になるってちっぽけな目標が無理だって思うこたぁ無い。

 親父が、すごく頼りになるから。

 喧嘩が強くても。

 どんなに格好良くても。

 不良は、誰からも頼られない。

 親父に口調が似てて、なおかつ性格も親父譲りのお人好しと来たもんだ。

 正直、神に感謝。

 あんま悪くない不良になる。

 ふっ、決まった。


―――――

安倍家―裏庭

 裏口から出ると、我が愛犬『安倍ブライト』が小屋から顔を覗かせた。

「よーしよし、うお、のしかかって……いやいや、そんなに嬉しいのか?」

 こいつにゃ溺愛さ。そりゃもう、かなーり可愛いですから。見ろよ。

 整った顔、立派な瞳。これが雑種なんて信じられねぇな。間違いだろー。

 え? 名字はいらねぇって?

 それはホラ、家族だ。

 ブライトだって、家族の一員だ。

「ちょ……やめぅぁ、そこはアレ、ニオイなんかヤメなさい。ブライト君」

 ……家族の一員だ。

 ブライトの興奮をなだめ、いざ立ち上がった時だった。

「シューウヤ!」

 ドガッ。

 何か頭に当たった。

「お久し振りー」

「いあ……クミか?」

「何よー、その反応は」

 この意図的に間伸びした声、同じクラスの一ノ瀬クミで、まあ間違いねぇ。

 一メートル半の塀から、顔だけちょこんと覗かせてる……う、以外と可愛い。

 今日は髪がストレートだ。

「暇なんだよねー」

「……だから?」

「だから、石投げたの」

 ……石投げた?

 さっきの後頭部打撲、クミが投げた石で引き起こされたって言うのか。

「あ、ちゃんと雑巾で包んだよ」

「いや……そういう問題?」

「うん、安全だしねー」

 にこにこと笑っているクミ。何かイヤな予感が頭を駆け巡る。

「……で?」

「暇ならどっか行こうよー」

「やっぱり……」

 女は、笑顔一つが武器になる。ショットガン並の風穴を開けられた。

 こんなもん、断れるかぃ!

「良いけど、事件はヤメろよ」

「う……分かってるもん」

 落ち込んだ様子で言葉を返す。これで安心しちゃいけねぇ。津波は波が引いた時が一番あぶねーから気を付けろ。

 こいつ、一ノ瀬クミ。こういう外出時には必ず事件が起こる。絶対的に。

 先に言おう。

 クミは、霊感がある。

「心霊ネタは禁止」

「だから、分かってるー」

 オーケー。こういう間伸びがある時は大抵話をスルーしてる時だわぁ。

「じゃ、早く行こーよ」

「待ってな。財布持って来る」

 とにもかくにも、財布がなけりゃ始まらない。覚悟を決めつつ、オレはクミを待たせたまま家に戻った。

 ……なんも起こるなよ。


どんな銃よりも。

派手な爆発物よりも。

とてつもねー威力を誇る。


それは、ヤツの笑顔。


by安倍シュウヤ。

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