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7―5.涯・魔の羅針盤

 不良の生徒。

 そう思われてるヤツでも、心のどっかには暖かい優しさが隠れてるんだぜ。

 ただ、どうしようもねぇ照れを隠す為に不良を演じちまってるだけなんだ。

 良く見てみろ。必ずどっかに優しいトコが隠されてるはずだからさ。


―――――

PM六時―廊下

 上靴の音が反響する。

 オレと、オレの後ろにいる二人の靴音が無人の校内に冷たく木霊していた。

「クミ、いたか?」

「いますよー」

 クミの姿は見えない。

 ただ、声だけでいるかどうかを確認するしか方法が無かった。

 ミライは、オレの両肩に手を乗せながら進んでっから問題ナッスィン。

「静かだよな」

「そうですね……」

 普段は賑やかな学校も、今だけは不気味な静寂に支配されてた。

 虫の調べ。普段なら気に止めねぇ声も妙に懐かしくなる様な空間だった。

「クミ」

「何ですかー?」

「面白い事言ってくれ」

 こんな場所で歩き続けると、雰囲気に押されて気分すら憂鬱になっちまいそうだ。

 だから、笑いを求める。

 ある意味本能的だ。さらっとエゴイストなんて言ってもらっちゃあ困るぜ。

「……そのフリは、お笑い的に言うとスベる方程式に当てはまってますねー」

「大丈夫。方程式は自身が決めんだ」

「……格好良い台詞も、何だかプレッシャーに感じる今日この頃なんですー」

 げんなりとした声で反論するクミ。

 目的は、過ぎる時間をなるべく長く感じさせずに進むって事にある。

 クミに考えさせて、オレとクミの間にいるミライを退屈させねぇ様にする。

 そうすりゃ、少しは精神的に襲い来るプレッシャーも和らぐだろ。

 まあ、クミは別のポイントからプレッシャーを感じてるみてぇだけどな。

「…………そうですねー」

「別のに変えるか?」

「……変えて貰えるとありがたいですー」

 予想より悩んでたから、とにかく退屈しねぇ物にお題を変えるコトにした。

「しりとり。クミ」

「離愁(意味:別れの悲しみ)」

「……鬱(うつ病の略)」

「……墜落(死に直結)クミ」

「苦痛(苦しい、痛い)」

「う……雨季(不快な季節)」

「……き、急死そのまま待った!」

 どうして、こうも暗いフレーズがオンパレードで続々と出て来んのか。

 これじゃ逆効果じゃねぇかよ。

「し……死。ミライちゃん」

「やめろっての!」

 クミは続ける気満々だった。

 しりとりなんか中止して、さっさと校舎から出ねぇと先コーに見付かっちまう。

 そう考えてると、携帯電話が照らすライトの先に十段程もある階段が見えた。

「階段だから気を付けてな」

「うん。もし何かあったらシュウヤを下敷きにして落ちるから平気ー」

「……オレは身代わり人形か」

 そう言い、自分の足元を慎重に確かめながら階段を降りて行く。

 沈黙。

 それを破ったのは、何処かの扉がけたたましく閉まる大きな音だった。

「うおっ!」

 二階から聞こえた音。

 方向で考えると、どうやら職員室の扉を誰かが勢い良く閉めた音らしい。

「クミ、悲鳴上げるんだな」

「びっくりしたもんー」

 初めて聞いたかもしれねぇ。

 クミが、大きい物音に驚いてわっと小さい悲鳴を上げたのなんてさ。

 慣れてると思い込んでたけど、普段は見せねぇ所も持ってるんだな。

「足元に注意しろよ」

「お互いにねー」

 今気付いたけど、校内にいんのはオレら三人だけじゃ無かったんだ。

 ここで騒いだら、警備員に見付かって警告されんのと変わりねぇ。

 小走りで、職員室がある階の階段を忍び足のまま一気に駆け下りた。


「ねー、シュウヤ」

「どした?」

「何か、視線感じるー」

 それは、無事に階段を下り切って一階に付いた瞬間の言葉だった。

 霊感のあるクミを疑うのは、この場合よした方が良いな。

「どこら辺だ」

「さー?」

「……分かんねぇか」

 周りに視線を走らせる。

 窓の外には、墨で染められた様な色の雲と小さな月が浮かんでいるだけ。

「あと少しだ、行こう」

「冒険ちっくな台詞ですねー」

「そうか?」

 まあ、突っ込まれてみれば冒険という単語はそれほど間違っちゃいねぇな。

 下駄箱が近い今だから、お化け屋敷みたいで楽しかったって言葉が易々と吐ける。

 けど、教室から出た時はおっかなくてミライの前だから少し強がってた。

 もうすぐ。あと数メートルで忌々しい雰囲気を放つ夜の学校から出られる。

「はぁ……助かったよー」

「楽しかったな」

 下駄箱に辿り着き、押し寄せた安心感から口々に安堵の言葉を洩らす。

 瞬間、角から人影が飛び出した。

「うわっ!」

 それに驚愕し、完全に油断していたオレだけが声を上げながら後ろに飛び退く。

 恐る恐る顔を上げると、正面に立っていたのは他ならぬミライだった。

「な、ミライ?」

「酷いですよ、職員室の前で私だけ置いてけぼりにするなんて……」

 泣きそうな声で話すミライ。

 思わず、良心がちくちくと痛む。

「わーごめん! 気付かなかったんだ!」

「……どうしてですか?」

「だって、オレの肩にミライの手が乗ってる感触があったから……」

 言葉を殺す。

 そんな訳はねぇ。

 オレらは、確かに三人揃ったまま教室から下駄箱まで一緒に来たはずだ。

 クミとはお互いに言葉を交してたし、ミライは無言だったもののオレの肩に置かれた手の感覚が今でも明瞭に残ってる。

「わっ! シュウヤー」

「何驚いてんだよ」

「きゃ! 肩に……」

 二人が何故か驚いている。

 月明かりが傾き、オレの左肩だけが月光の元にその光景を照らし出した。

「うわ! 何だこりゃ!」

 肩口を触って確かめる。

 そこには、不気味に生暖かい液体がべったりと染み込む様に付着していた。

 Yシャツが皮膚に張り付き、それが何とも言えない奇妙な不快感を伴っている。

「……これ、水ですよ?」

「え……水?」

 ミライが肩を確認し、念を押す。

 何かすげー生暖かいから、血じゃねぇかと一人で慌てたコトは絶対内緒だ。

「そういえば、ミライちゃんはどこで私達とはぐれちゃったんだっけー?」

「えと……職員室の前で転んだ時です」

「職員室?」

「はい」

 思わず寒気がした。

 あの時、オレの肩に手を乗せて一緒に階段を降りたのは誰だったのか。

 そして、クミがまとわり付く様な視線を感じた先は一体どこだったのか。

 その答えは、ここに存在する暗闇に紛れてくれそうにも無かった。


偽りの泥を塗り固め。

黒い毒素を巻き散らす。

見た目は綺麗な花だけど。

腐った中身にご用心。


…ダークな詩。


by一ノ瀬クミ

編集・安倍シュウヤ

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