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7―2.表・魔の羅針盤

 予言だとさ。

 隕石が落ちて来て、火星が幸せの内に統治するとか何とかほざいてたよな。

 やめてくれ。

 明日が分かんねぇから、色々な楽しみがあっから人生は楽しいんじゃねぇか。

 結末を知ってんなら、人間同士の物語を紡ぐ意味なんて無くなんだろ。

 未来を決めんのは自分なんだよ。


―――――

PM五時半―下駄箱

 上靴を地面に投げ置く。

 バンと響く靴音。普段なら目立たねぇ音でも周りが静か過ぎて響いてる。

 この時間なら、部活もねぇ訳だし誰も校舎内に残っちゃいねーだろうな。

 ……ま、クミはいるらしいけど。

 外から見ちまったが、オレの教室と職員室の二ヶ所だけ電気が付いてた。

 待ち伏せ。

 これっきゃ考えらんねぇ。警視庁とか張り込みよろしくな方法を取られた。

 しかしまー、宿題取りに行かなきゃなんねぇ訳だし回避も無理っぽいな。

「やだな……」

 自然と言葉が口から洩れた。

 だが、これがてめーの考えてる本音なのかと聞かれたらどうだ。

 解答拒否。

 いや、頼むから色々思案する前にこれだけは断言させてくれ。

 乗り気じゃねぇんだ。

 でもな、嫌な気もしてねーんだよ。

 何でか分かんねぇけどさ。

 ホント、これに加えてミライに対する自分の感情すら分かんねぇんだもんな。

 自分のコトが理解出来ねぇ。

 まあ、考えて分かんならとっくの昔に答えが見えてるはずだもんな。

 んな事より、こっくりさんをやるに当たって精神的な疲労はヤバいはず。

 何も考えんな。

 取り合えず、今は廊下を大人しく進んで教室に辿り着く事が何より大事だ。


―――――

五時四十分―教室前

 異様にしーんとしてる。

 いや、むしろ『しーん』という擬音がどっからか聞こえて来そうだった。

(いるのか?)

 擦りガラス越しに、教室の中を覗く。

 影。制服特有のぼんやりした形のシルエットが不気味に浮かんでた。

(いたか……)

 これで『実は誰もいないのでこっくりさんは中止だZe!』みたいな考えは三秒の間で粉微塵にぶっ潰されたわけだ。

 この場合、中にいんのはクミと考えた方が例に習って自然だろーな。

(やめっかな……)

 扉の前で腕を組む。

 けど、宿題を忘れた時の酷い課題の量を想像した瞬間に答えは決まった。

 扉に手を掛けて横に引く。

「でねー。あ……」

「シュウヤ君」

「おっす」

 何か、盛り上がってた会話をオレが中断させちまった気がする。

 机を挟んで座ってたのは、最近対面が多いクミとやや控え目のミライだった。

「一応来ましたが」

「待ってたよー」

 二人の近くへ腰を掛ける。

「どうも……シュウヤ君」

「おうっ」

 親指を立てながら、恥ずかしがってるミライへさりげ無く笑顔を送る。

 まあ、オレのキャラクターが違う気がすんのは気にしないで置くとすっか。

「うわ……気味悪っ」

「どこが?」

「外の景色とかさ」

 そう。教室から見た外の景色は不気味が二乗出来る位に見事な風景だった。

 まるで、暗い洞窟の中に取り残されちまったかの様な孤独感を感じる。

「何も感じない派?」

「慣れてますからねー」

 この場合、本当に慣れてんのか単純に鈍感なのかは気にしない様にした。

「霊もいないしー」

「……それは良かった」

 さらりと怖い台詞である。

 もう、クミは何者だよと考える気持ちも失せてしまったのは自然な流れだった。

「シュウヤ君」

「ん?」

「これ、預かってました」

 ミライから渡されたのは、オレが忘れた宿題であり学校に来た理由の根元。

「え……何で持ってんだ?」

「えっと、これを預かっておけばシュウヤ君は必ず釣れるらしいので……」

「……オレは魚か」

 律儀に説明するミライ。

 で、にこにこ笑いながら眺めるクミ。

 ……推理。どうやらこの作戦を考えたのはクミで間違いねぇみてーだな。

 つうか、ミライがやるわきゃねぇ。

「作戦成功ですねー」

「……はい」

 普通に白状した。

「釣ったな?」

「そんなー、私はただシュウヤが逃げない様に宿題を預かってただけだよー」

「それを釣ったって言うんだよっ!」

 刑事よろしく怒鳴る。

 もちろん、怒りじゃなくクミの純粋な行動に対する思慮から来てんだけどな。

「そんな事しなくても良い」

「どうしてですかー?」

 んなの決まってるじゃんか。

「クミに必要とされてんのに、オレが逃げる理由なんて無いだろ?」

「……シュウヤ君」

「ま、理由は変だけどな」

「語りますねー」

 クミは『言うときは言うじゃん』的な笑顔を浮かべてオレの肩を肘で数回突いた。

 我ながらくさかったな。

「じゃ、始めますかー」

「いよいよだな」

 クミが先立ってカーテンを閉める。

 外の景色は遮断。一瞬で蛍光灯の明かりだけが唯一の光源になっちまった。

 唾を飲み込む音が、嫌に大きな音になって鼓膜に伝導するのが分かる。

 恐怖は無かった。

 むしろ、この場でこっくりさんを行ったらどうなんのかっつう好奇心の方が強い。

 人間、集団になっと身近に迫る恐怖ってのは感じにくくなるもんだな。


銀の刃が突き刺さる。

不思議と痛みは感じない。

悲痛に歪んだ義母の顔。

あなたの気持ちですものね。


…怖いっつの。


by一ノ瀬クミ

編集・安倍シュウヤ

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