7―1.正・魔の羅針盤
万物のサイクル。
全ての命は、時の流れという名の重たい十字架を背負いながら生きている。
その十字架を捨てた時。
命は、命の意味を失っちまう。
―――――
PM五時―家の自室
今日はツバサに迷惑掛けたな。
あの後、やっぱ気が変わっちまってミライの好みは自分で考えるコトにした。
ツバサの言葉を信じて、オレが考えられる一番のプレゼントを渡そうと思う。
ミライの誕生日にでもさ。
「……ヒマ」
それは別として、退屈だ。
ベッドへ仰向けになり、これと言った意味も無く真っ白な天井に視線を送る。
無機質な模様。
まるで、絵の具を伸ばす前のパレットの様に飾り気の無い光景だった。
「シュウヤ。良い?」
……はい来た。青春してます状態の微妙なフレーズ考えてた所に姉きの声が。
ノックしながら、中に入れてくれと言うので仕方無く扉の前まで行き――。
鍵を閉めた。
「まさか……閉めたの?」
「めんどい気分だし」
「……そう」
姉きの話と付き合うには、ちょいとした気力がねぇと身が持たねーと思う。
いつだかの朝も、携帯の爆音で一時的に覚醒してたから平気だった。
けど、今日はとても無理っぽい。
思い出すのがキツイ程、色んなコトがあって脳みそが話を聞く気になんねぇ。
「……シュウヤ」
「何だよ?」
「……意地悪なのね」
扉越しに聞こえる姉きの声。
それは『彼氏の家に来て偶然にも浮気現場を直撃しちまった』風の声だった。
く……これは、間違い無く部屋の中に入れてもらう為の攻撃なハズだ。
いや、しかし……この恥ずかしさにも似た感情は一体どういう風の吹き回しでオレの中に溢れて来るんだろうか。
「……どうしても開けないつもりなの?」
姉きのダメ押しが、躊躇っていたオレの右手をドアノブまで動かした。
オレは、例えるなら浮気した彼氏と同じ行動を取ってるんだろうか。
そうだとしたら……ここで開けねぇのは一人の女を不幸にするのと同じ。
一人で葛藤してると、ガチャッという音と共に扉が勢い良く開いた。
「え?」
とっさの事に反応が遅れる。
ガン! と音を立て、木製の扉はオレの額にジャストミートした。
「いっ……」
「あ、ごめんね」
「……どうやって入った?」
「ピッキング」
額を抑えながら訪ねるが、予想を越える大技を駆使していた事が判明した。
「……で?」
「察しが早いのね」
「ま、一応兄妹だからな」
痛みも引いた所で、姉きがピッキングまでして部屋に侵入した理由を問う。
まー、時間帯から予想するに大それた用事じゃねぇのは分かるけどさ。
「はい。これ」
「何だ?」
「読んでみて」
手渡されたのは、姉き愛用の赤い携帯電話だった。今はメール画面らしい。
『シュウヤー。見てる?
今から学校に来て下さい。
こっくりさんを開きます(笑)』
「……これ何すか」
「見た通りじゃない?」
うーわ、真面目に笑えねぇ。
何のつもりで、カッコ笑いを一番笑えねぇポイントに入れたのか。
しかも、こっくりさんを開くにしちゃー梅雨時の季節は微妙におかしい。
まさに、ツッコミ所が満載のメールだ。
「行くの?」
「行かねえよ!」
軽く怒りながら、姉きに携帯を返す。
「でも……学校は行く羽目になりそうね」
「どういう事だ?」
携帯をカチカチ操作した後、再びオレに携帯を手渡して来た。
『追伸:
何か忘れ物してない?
例えば……』
「例えば?」
クミのメールを眺め、今日の記憶を辿ってみる。
朝のHR。
授業中。
帰りのHR……。
「はっ!」
宿題があった。
確か、明日までに提出しねぇと別の課題になってオレの身に跳ね返って来る。
そいつが宿題より大量だっつう事は、誰に聞かなくても想像が付く。
「……外出して来る」
「頑張って」
哀れむ様な視線を背に受けつつ、制服をYシャツの上から纏った。
……巻き込まれちまうのか。
いや、何とかクミに見付からない様こっそり宿題を持って帰れば良いんだろ。
やってやれない事はナイ。
鳴かぬなら、鳴かぬまま通って見せる。
ロックバンドのボーカルが。
熱烈な曲を歌ってた。
この世界から逃げてやる。
誰にも気付かれねぇ様に。
…大丈夫かな。
by安倍シュウヤ
編集・安倍ナツハ