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6―2.棚・図書の巣窟

 不可能を可能に。

 最初から出来るヤツなんて、世界中のどこを探してもいねーんだ。

 限界まで諦めんじゃねぇ。


―――――

放課後―図書室

 哲学書がずららーっと並んでる。

 こう見っと、授業で習った三大哲学者とそれ意外の名も知らねぇヤツらが全員同じに見えて来っから不思議だ。

 まあ、人間の本質を捕えてる点で言えば哲学者達は筋が通ってんのかもな。

 何を言いてぇのか理解不能だけど。

 どうせなら、もうちょい高校生にも分かりやすく書けねぇもんかなー。

「アウグスティヌス……か」

 哲学者ってさ、良くあんだけ難しいコト考えて頭の中パンクしねぇよな。

 人間の本質を見抜いて、その先に一体何を見つけちまったんだろーか。

 そいつは、アウグスティヌス本人に聞いてみねぇと絶対分かんねぇ。

 それか、オレ自身が哲学者として人生を歩んで行く……って、そんな青春をぶっ潰す真似は死んでもイヤだっつの。

「何してんねん」

「え?」

「表情が変やで?」

 ぼーっと考えてると、怪訝な表情をしたツバサに横から声を掛けられた。

「どこがだよ」

「どうもこうも、あの世に半分逝きかけてたような顔だったやんか」

「失礼な……」

 どうやら、オレが物事を深く考えてる時はツバサの言うそれに似てるらしい。

 だが、オレは冗談を言われてヘコむ程に弱っちい精神力じゃねぇ。

「ツバサだって考えるだろ?」

「何がや?」

「例えば、哲学者は自己流の思想を唱えた先に何を見い出したのか。とかさ」

「それは無いわ」

 以外に即答だった。

「わいは自分自身の考えで行く。そう心に決めてるんや。昔から……」

「……過去に何かあったのか?」

 遠くに注がれる目線。

 こう見えて、ツバサも何か深い過去を持っているんじゃないかと思った。

「せや、昔から……」

「……昔から?」

「昔から頑固だったからや」

「……ん?」

 一瞬返答が遅れた。

「シリアスで来る思うたやろ」

「……罠かよ」

「わいは高一やで? 漫画みたいに深い過去なんか持ってるわけ無いやん」

「そ……そりゃ安心だな」

 忘れてた。

 ツバサはこういうヤツだった。

 人を操るのが上手く、それでいて惑わせた相手に不快感を与える事が無い。

 っていうか、オレがコントロールされやすい性格だけなのかもしれねぇ。

「んな事よりも、ミライが好きそうな本を探す手伝いをしてくれよっ!」

「人に物を頼む時は?」

「……お願いします」

 どこまでこの調子だよ。

「じゃ、探そか」

「ホント頼む」

 本当に操るのが上手い。

 この調子なら、オレが自分で探した方が良かったんじゃねぇかと思った。

(耐えろオレ……)

 自分に言い聞かせる。

 本を読む事。

 それは、ミライが持つ趣味だった。

 オレは本を読まねぇけど、気に入ったジャンルの小説なら最後まで読破する。

 つまり、大きな範囲で計っちまえばミライとオレの趣味は共通してた。

 なら、どうしてミライ本人に好きなジャンルを聞けねぇのか。

 自分でも分からなかった。

 どんな考えで、ミライの好きな本をツバサから聞こうとしてんのか。

 自分の事が分からなかった。

「なあ、ツバサ」

「なんや?」

 本棚を探っていたツバサを呼ぶ。

「あのさ……お前だったら、彼女にプレゼントを渡す時に何を考えるんだ?」

「何や? いきなり」

 不思議そうな顔をしていたが、今回は素直に答えてくれた。

「せやな……わいなら、まず彼女が気に入る様なプレゼントを考えるな」

「……勘でか?」

「せや。彼女に聞いたらアカン。どんな安い小物でも、自分で考えられる最高のプレゼントを渡せばそれが彼女に取って一番の宝物になるんやで」

 ツバサの台詞。

 それは、恋に無器用なオレに取って神のお告げより大切な言葉だった。

「……じゃあ、オレがミライに好きな本を聞けない理由って何か分かるか?」

「ホント無器用やな」

「……悪いかよっ」

 自分が一番分かってる。

「それは簡単や」

「本当か?」

 自信満々なツバサの表情。

 オレ自身も分からない疑問。

 どうして、ミライにこれほどまで簡単な質問を投げ掛けられないのか。

 それを、ツバサは得意気な様子で一番簡単な質問だと言い張ってる。

「好きなんや」

「え?」

「だから、あんさんはミライの事が好きやから恥ずかしくて聞けないんやて」

 ミライが好き。

 好きだから聞けない。

 そう考えれば、オレの中にあるモヤの様な感覚が綺麗に説明出来る。

「好きなのか?」

「わいに聞かれても……」

「あ……そうか」

 天秤は傾いて無かった。

 今までは。

 たった少しの期間で、ミライに対する考え方が確実に変化している。

 重さが変わった。

 ……好きになった?

 あの日まで、名前も知らなかった月影ミライという一人の人間を。

 ……本当に分かんねぇ。

 心の迷路は、大きく渦巻きながら果てしなく迷宮を紡いで行くのみ。

 その音色は、図書室に飾られた古時計が奏でる針の調べに良く似ていた。


飢えと苦痛が支配する。

異界へ体を招かれた。

辺りに飛び散る液体は。

聖歌の響きに良く似てた。


…勝てません。


by一ノ瀬クミ

編集・安倍シュウヤ

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