6―1.棚・図書の巣窟
現実を映す鏡。
それすらも、人間の中身に隠された本質を映し出す事は決して無い。
世界で一番美しいのは誰?
―――――
放課後―図書室
たまには静かな場所も悪くねぇ。
考えてみりゃ、図書室なんて特別な授業ん時ぐれーしか来ねぇもんな。
辞書を片手に勉強してるヤツもいれば、図書委員と話をするためだけにカウンターへ集まってるヤツもいる。
数人だけ。
オレみてぇに目的無く来てるヤツは、この中にいないと思って良さそうだな。
「うんぁ……退屈だ」
回転式の椅子に背を預け、手を頭の後ろに組みながら大きく背伸びをする。
静かな図書室では、普段気にならない椅子の軋む音がやたら耳に付く。
「……本でも探すか」
すっと椅子から立ち上がり、窓に近い本棚の方から探りを入れる。
まず、哲学書ちっくな本の数々。
世界史の授業で、一回くれーは聞いた事がある様なヤツの名前が並んでた。
(姉きは好きだな……)
そんな考えが頭を霞めた。
ここは嫌だから、突き当たりのピカソやらゴッホの分厚い本を横目に、隣の本棚へ足を運んでみる。
(し、心霊……)
いきなり先制攻撃か。
学校であった怖い話みてーな本が、狭苦しいスペースに押し込まれて並べられてた。
(クミは気に入るが……)
頭を霞めたのはその言葉。
こう見ると、二人の好きそうなジャンルの本がバシッと揃ってるじゃんか。
なら……ミライとツバサ、月影兄妹が好きな本もあるんじゃねぇかと思って来る。
(二人は何が好きなんだ?)
素朴な疑問だった。
ミライは知り合って一日だし、ツバサに至っては朝に関西な挨拶を交しただけだ。
ま、今日は部活もねぇ訳だし暇潰しに二人の趣味を予想してみても良いか。
(まず、ミライは……)
一旦本棚から離れ、壁に飾ってある本の並び順を示した表を見てみる。
一番左は哲学書。
その隣は心霊モノ。
これらは、姉きとクミが好きな本と見てまず間違いなさそーだな。
「何やってるん?」
「いや、ちょっとした暇潰し」
「あー部活無いもんな」
「そうそう……ってうわあ!」
隣を見ると、案の定ツバサがいた。
つうか、某マンガよろしくな瞬間移動を軽くやらないで欲しい。
「いつから?」
「本でも探すか、辺りや」
「そんな前に……」
何処にいたのか聞こうとしたが、めんどくさくなったのでやめた。
そんな事より、ツバサが目の前にいるっつー事は手間が省けたかもしれねぇぞ。
「罰として、頼み聞いてくれ」
「は、何の罰や?」
「オレの隣に立った罰」
「そんなん、理不尽やわぁ……」
冗談のつもりが、嫌そうな顔をされた。
ここでツバサを捕えとけば、今日の放課後は退屈しなくて済む。
「じゃ、先輩の頼みだと思って聞いてくれ」
「先輩として見てへんもん」
「何をっ」
薄々気付いていたが。
先輩として見てるんなら、いきなりミライの彼でっかーみたいな言葉は来ねぇし。
「大体、何であんさんは執拗にわいを捕まえようとするんや?」
「う……」
「それに、どう見ても図書室に来る様なキャラとちゃうで?」
「それはお互い様だろ」
意外に鋭いトコを突くヤツだ。
オレが図書室に来たのは、家に帰ってもやる事がねぇからであって読書が好きな訳じゃねえ。
だからって、暇な時に読書する様な気力も持ち合わせちゃいねぇ。
「理由を答えたら、協力するで?」
「……交渉のプロかよ」
「関西をナメたら困りますな」
とは言いつつ、ツバサぐらいなら教えても良いんじゃねーかと心の声が聞こえた。
好みを知っとけば、何かの時に役立つかもしれねぇっつう無器用なりの気配りをしてみたかったんだけどさ。
「実は、ミライについてなんだ」
「ミライにやて?」
「まあ……あいつの好きそうな本くらい知ってても良いんじゃねぇかと思ってな」
「ほんなら、本人に聞けばええやんか」
「そう思ったんだけどよ、いざ聞くとなると恥ずかしくてさ……」
大体こんな理由だった。
「……ツバサ?」
「すまん……ぷ、くくっ……」
「お前……笑うなよ!」
「いや……ちごうて、何でそないに恥ずかしがってんのかと思ってな」
「それは……」
「あんさんはミライの彼氏なんやで? ズバッと聞いてみたらええやん。好きな本は何だよってな」
それだけは駄目だ。
ミライに聞かずに情報を得るには、双子の兄妹であるツバサに聞くのが一番の得策だっつうのは分かる。
「ツバサ……お前も彼女を持つ側ならこの気持ち分かんだろ?」
「確かにおるけど、何で知っとるん?」
「勘だ」
「冴えてんやな」
まさか当たるとは。
「つまり、ミライに聞かずに好みとかを知ってたいって訳なんだ」
「なるほど……それでわいを」
「聞いてくれないか?」
「せやな……」
一年生に頼むのは癪だが、これほどまでミライの好みに詳しい人選なんて他にねぇ。
双子の兄妹。二卵性の双子なのは見た目からして明らかだけど、一緒に生活してる点で考えれば一番の情報源になる。
「ま、良いで」
「随分あっさりだな」
「関西なんてこんなもんや」
「そ……そうなのか?」
そいつは知らなかった。
「まあ、何とか思い出すわ」
「サンキュー。じゃ、立ち話も何だから本棚でも見て回ろうぜ」
「朝の台詞と同じやん!」
「真似てみた」
漫才ちっくな会話を交し、オレとツバサは左の棚から攻めて行く事にした。
目指すは完全制覇。
にしても、ツバサと会ってから一日も経ってねぇのにやたら仲良いよな。
さすが関西だ。
夢を追うのは人次第。
咲くか散るかは運任せ。
後悔だけはしない事。
オレは心に決めている。
…シュウヤっぽいね。
by安倍シュウヤ
編集・安倍ナツハ