5.月影兄妹との糸
運命は、自分で切り開け。
有名な言葉に、今回は思い切っておかしいんじゃねーかと言ってみる。
運命も、ちょこっと位は決まってても良いんじゃねえかと思う。
で、オレらが努力すれば予め決まってる運命が背中を押してくれる。
そう思うんだ。
……変とか言うな。
―――――
通学路―朝の風景
昨日と変わらねぇ朝。
馴染みの街並み。
日常こそが幸せか? いつもと違う非日常なら至近距離にちゃんとあるぜ。
「何か、緊張するな」
「そうですね……」
オレと並んで歩いてるのは、昨日の放課後に告白された月影ミライだ。
一応、体育倉庫でメールアドレスを交換したのは普通な流れ。
そんでもって、夜に何回か何十回かメールをやりとりする内に気付いた。
ミライは、オレん家の近くに住んでる。
忘れたヤツもいると思うけど、安倍寿司に来た客の中にミライのお母さんがいた。
余談だが、マジで忘れちまったヤツは話番号2―1を確認してみてくれ。
んなわけで、登校時間になりゃあぶらっと互いの家に立ち寄る事も出来る。
「本当、緊張するわぁ……」
「……二回目ですね」
「そっか?」
もはや覚えてねぇ。
周りから見れば、普通にカップル同士が登校してる様に見えてるはずだ。
が、しかし! 昨日に負けねー程心臓がドキドキ鳴ってんのはオレだけか?
正直、ぶっ倒れそう。
緊張もあるし、初めての経験だから何やって良いか分かんねぇってトコもある。
「ちょっと、驚いててさ」
「……何がですか?」
「……いや、な。オレのどこを好きになってくれたのかなーと思って。さ……」
「……」
一瞬で沈黙。
思わずドキッとする。
「……怒らせちまった、か?」
「……あの、昨日喧嘩しましたよね?」
「え?」
俯いたまま問われる。
ケンカ……う、陰口を浴びせてたヤツを殴っちまったって行動の事か。
まさか、見られてたとは知らなんだ。
ケンカっつうより、しゃしゃり出てったオレが悪い様な気がすんのは、自分の中だけに留めとこう。
「……殴りました、一人」
「やっぱり……そうでしたか」
こりゃ嫌われたな。
同級生を殴るヤツなんて、どう考えても好かれる訳ねぇ。
「……驚くかもしれませんが、シュウヤ君のそういう所が好きです」
「……ん?」
「ナツハさんから聞きました。シュウヤ君は正しい理由無しに人は殴らないって……」
いつの間にやら。
このノリは二回目か。
何と無く、姉きが言ってたバックアップ作戦の効果かと考えてみる。
それだ。完璧。
「……陰口を言ってたからさ」
「同級生にですか?」
「ああ。それでカッとなっちまって、つい……」
もう隠せねぇ。
っつうか、はっきりバレてんなら隠す必要性なんかねーもんな。
「……私は、別に良いと思います」
意外な台詞だった。
「シュウヤ君が注意してなければ、同級生はずっと陰口に苦しむ事になってましたから……」
「……」
「だから、シュウヤ君は一人の人間を助けてあげた事になると思うんです」
一人の人間。
ミライは言った。
「……そうか。そうだな」
「はいっ」
一人の人間を助けた。
どっちが悪いとか、そんな事は深く考えなくても良いんだ。
「ごめんな。暗くさせちまって」
「いえ、元々ですから」
「そ……そっか?」
自虐的な発言だった。
けど、真顔じゃなくて冗談ぽく表情が変わってたから心配ナッスィン。
「じゃ、行くか」
「そうですね」
行くかとは言ったけど、既に現在進行形で歩いてんだよな。
こんな話してる間も、学校の登校坂を上ってる最中だったりするんだが。
もはや、自分の頭が何を考えて喋ってんのかすら理解不能になっちまってる。
「おお、ミライやないか!」
背後からの関西弁。
突然の事に、オレとミライはほぼ同時に後ろを振り向いた。
「あ、お兄ちゃん」
「奇遇やな」
ミライの隣に並んだのは、茶色く日焼けした肌と短めの髪が印象的な少年だった。
関西弁が、妙に雰囲気と合ってる。
「へぇ……あんさんがミライの彼でっか」
「誰だ?」
「これは申し遅れました。わい、月影ツバサと言う者です」
頭を下げながら言うツバサ。
どうやら、一年生だから敬語を使うみてーな考えはねぇらしい。
まあ、その方がオレも気が楽だけどさ。
「兄妹なのか?」
「あーまあ、双子なんで」
「でも、似てねぇな」
「ははは、良く言われますわ」
笑いながら話すツバサ。
実際、二人は天使と悪魔みてーに果てしなく似てねぇ。
ミライの方は、おしとやかな雰囲気と華奢な外見から淑女の様な印象。
対して、ツバサの方は関西弁と日焼けした肌からいかにも元気な感じを受ける。
「まー、こんな所で立ち話しも何やから、早いとこ行きませんか?」
「いや、自宅感覚かよ!」
「中々良いツッコミですやん」
「だろ?」
さすが関西だった。
「あの……行かないんですか?」
オレらの様子を見て、呆れた表情を浮かべたミライが言う。
本当に似てねぇ二人だ。
「せやな、行こか」
「もう……遅刻するよ?」
「だから、悪かったて言うてるやろ」
「言ってないってば!」
漫才の様なやりとりを見つつ、オレも二人の後を付いて行く。
見ていて飽きない二人。
それが、月影ミライと月影ツバサの似てない双子の兄妹だ。
桜の舞い散る公園を。
僕は一人で歩いてる。
彼女はもうすぐ風の中。
思いを花弁に乗せていた。
…切ないですー。
by安倍ナツハ
編集・一ノ瀬クミ