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4―5.完・空色の携帯電話

 『好き』と『嫌い』

 それらは近く、また両者は最も脆く崩れやすい位置関係にある。

 人間っつうのは難しい生き物だ。


―――――

昼休み―体育倉庫

 扉を開くと、中には見覚えの無い少女がこっち向きで立ってた。

 背はだいぶ低いし、履いてる靴の色から一年生だと容易に予想出来る。

「あの……」

 優しい声だった。

 肩で切り揃えられた髪は、どことなく雰囲気があり、しとやかな印象を受ける。

「探してたんだろ?」

「……え?」

「ホラ、オレが預かってたんだ」

 少女の様子を見て、オレはポケットから素早くケータイを出して手渡す。

 多分、これを他人に内緒で受け取る為にわざわざここに来たんだろうな。

 理由は知らねぇけど。

 そうでなきゃ、体育倉庫みてーな場所にオレを呼ぶ理由が見付かんねぇ。

「えっと……ありがとうございました」

 躊躇いながらそれを受け取ると、少女はオレに向かって丁寧に頭を下げた。

 悪い印象は受けず、むしろ品のある振る舞いからは淑女の様な印象を受ける。

「壊れて無かったか?」

「あ……はい」

「じゃ、これでな」

 取り合えず、オレに課せられた任務はこれで終わったみてーだ。

「……あの、ちょっと良いですか?」

「ん?」

 倉庫から出ようとした時、何故か用事を済ませたはずなのに呼び止められる。

 後ろを振り返ると、少女は肌色だった頬を林檎の様に赤く染めていた。

「何か用か?」

「いえ、その……」

 手を前に組みながら、何かを言いにくそうに俯き加減で立っている少女。

 もう用事は終わったはずなのに。

 ……はっ! まさか、ケータイがぶっ壊れてたから何か言われんのかも。

 おいおい、もしそうなったらオレの全財産五千円じゃ無理があるじゃんか。

「あの、シュウヤ君って……」

「あれ? 名前教えたっけか?」

「えっと……ナツハさんから聞きました」

 いつの間にやら。

 でも、携帯がぶっ壊れてたから咎められる訳じゃ無さそうだな。

「わたし、月影ミライと言います」

「つきかげ?」

「はい。月の影で月影です」

 すげー格好良い。

 オレの『安倍』と比べっと、トロとかんぴょう巻きぐらいの格差がそこにある。

「……あの、シュウヤ君」

 雨が強くなっていた。

 耳をすませば、体育館の屋根に水滴が落ちる音だけが聞こえて来る。

「その……シュウヤ君は今、付き合ってる人って……いますか?」

 とても小さな声。

 自慢じゃねーけど、彼女いない歴イコール年齢になっちまってるオレだ。

 どのみち、オレを好きになる女なんかいるわけねぇと我ながら思う。

「いや、独身だよ」

「そ……そうなんですか」

 冗談で言った結果、ミライは堅かった表情を崩して小さく笑ってくれた。

「じゃあ、言いますね……」

 不思議な雰囲気。

 余計な音は聞こえない。

 雨が奏でる調べ。

 音の無い空間。

「……も、もし良かったら……」

 ミライの声がある。

 いつの間にか、心臓が脈打ってた。

 何だ……この気持ち。

 今までに無い感覚。

 恐怖でも、歓喜でも無い感情。

 例えられない気持ち。

(……何だ、これ)

 自分が分からなかった。

 何故、心臓が脈打ってるのか。

 どうして、体が温かいのか。

「……わたしと、付き合って……くれませんか?」

 そうか。

 これが答えなんだ。

 告白される時の気持ち。

 頭が真っ白になった。

 生まれて初めての感覚だった。

「……友達、からで」

 何かを考える余裕は無かった。

 精一杯の言葉。

 それが限界だった。

 心臓が鼓動し過ぎて。

 今にも爆発してしまいそうだった。

 本当に心が張り裂けそうで。

 扉の開け方も忘れてしまいそうだった。


 通り雨。

 空の雫は晴れた。

 誰もいない倉庫の中で。

 オレは一人。

 静かに佇んでいた。


力の強いヤツが勝つ。

そんな時代はもう終わり。

アイツはオレに吐き捨てて。

赤い弾丸打ち込んだ。


…仁義よね。


by安倍シュウヤ

編集・安倍ナツハ

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