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【短編小説】とうめいかんのある女

掲載日:2025/12/28

 しばらくの沈黙を破り、作業着の男が目も合わせずに訊いてきた。

「どんな女が好きなの?」

 それは本来なら単なる雑談でしかない。

 どんな女が好きか?おれが訊かれた内容はそれだけだった。

 訊いた相手だって別にそんなのは何だって良く、その内容に関しての適当な話をして時間を潰したいだけなのも分かっている。

 別に知り合いにそう言うのがいるから紹介するとか、真剣に話している訳じゃない。


 それはわかっている。

 好きな芸能人だとかセクシー女優だとかスポーツ選手、マンガやアニメのキャラ、またはもっと他にある特徴──巨乳だとか身体が高いとか、鎖骨が綺麗とか──を挙げても良い。

 だが。

「透明感のある女、かな」

 おれの口を突いて出たのはその一言だった。


「透明感?どう言うこと?」

 雑談を求めて訊いた相手はスマートフォンから顔を上げて少し怪訝な顔をおれに向けた。

「上手く言えないけど」

「なに、綺麗系ってこと?」

「可愛い系よりは綺麗系が好きだけど、顔だけじゃなくて」

 全体的な印象の話なのだ。

 清潔感のもっと上、みたいな感覚が近い。

 お前みたいな薄汚れた作業着の真逆だよ、と思ったが口には出さなかった。


 それを知ってから知らずか、作業着のクソ男はニヤニヤと笑って言った。

「あー、ナチュよりS-1とかPRESTAGE系か」

「え?」

「いや、こっちの話。で、肌が白いとか?」

 作業着はすぐさま話題を引っ込めた。

 知識も瞬発力も無いと馬鹿にしているのかも知れない。


 おれは気持ちを切り替えて話を続ける。

「まぁ黒いよりは白い方が好きかな。健康的な小麦肌も良いけどね」

「そんでアレか、とうめいかんっつーと、シュッとしてて長い感じか」

「うん、小さいよりはそうだね」

 背丈は同じくらいがバランス良い。

 まぁ、小さくても構わないけれど。


 それを聞いた作業着は、少し考えてから

「そんで少し猫背か」

 と言った。

 また何かのネタかボケのつもりだろう。

 ウンザリするが、愛想笑いを向けた。

「いや、姿勢は良い方がいいかな」

「そうか?リニア反対なのに?」

 作業着が真顔になっている。

「え?」

 戸惑ったおれの反応を見ながら、作業着はさらに

「あとアレだな、桜海老好きか」

 と言うと、手にしていたスマホをテーブルに置いた。

 画面にはソープランドの会員専用予約ページが表示されている。


 情報量の多さについていけず、おれは軽いパニックになりながら

「え?」

 と言うのが精一杯だった。

 不親切な会話だ。

 この男は独り善がりに話をしているだけで、全く会話と言うキャッチボールをする気が無い。

 相手が返しやすい話を振る、それが会話の基本だろうに。

 


 おれのムッとした気配を感じ取ったのか

「いや、こっちの話」

 そう言ってまた話題を引っ込めようとした。

「海老は好きだけど」

 そうはいくか。乗ってやる。お前の下らない会話に付き合ってやるよ。

 おれがアバレモードになりながら言うと、作業着は

「くるまえびは所属が違うしな」

 と言って再びスマホを手に取った。


「え?」

「いや、こっちの話」

「……」

 何だと言うのだ?

 このクソ野郎はさっきから何の話をしてるんだ?

 おれが物知らずで気の利かないやつだと言いたいのか?

 大体、どんな女が好きかなんて話題を──

「そんでアレか、炬燵に蜜柑とお茶みたいな感じか」

 作業着はスマートフォンを見たまま言った。


 透明感のある女性と、炬燵に入って暖まりながら蜜柑やお茶を飲む自分を想像した。

 素晴らしい。

「うん、洋風よりは和風が好きだね。黒髪ロングなんて鉄板だろうけど」

 透明感のある女は黒髪ロングに限る。

 だが作業着はまたしても

「白くてネバネバしたアレも好きだよな」

 などと意味不明な事を言う。


「え?」

「山芋な。自然薯?とろろ?何でもいいけど、旨いよな」

「あぁ、うん」

「もっと言うと縦揺れが激しい感じか」

 もう真面目に話をしようとするのも馬鹿馬鹿しくなってきた。


「さっきから何を言ってるの?」

 もうアバレモードでいるのも阿呆くさい。アキレモードだ。

 本当に下品で不潔だ。

 その下品で不潔な男は薄笑いを浮かべている。そして

「とうめいかんの、ある女について」

 と言って笑った。


 おれを馬鹿にしている。

 その笑みはおれを馬鹿にしているのだ。

「俺が言ってるのは、透き通る様な感じのする大人の女性って感じのひと」

 いまで言う……いや、女優だとかアイドルなんてのは所詮が虚像だ。

 裏では色々しているのだ。薄汚い裏切り者だ。この目の前にいる作業着みたいに汚れている不潔な存在だ。


 だが作業着は相変わらず薄く笑いながら

「東名間だよな」

 しず……ぉ……かな女、と言って笑った。

「うん……?」

「どれだけスルーされてもムキになって怒ったりしない」

「……ん?うん」

「ヤりたい感じも素直に受け止めてくれる」

「……そう言う下品な事を言わない人かな」

「山葵は小ぶりでピリリと香る、ってな」

「え?」

「こっちの話だ、色々違うがな」

 男はゲラゲラと笑って煙草に火をつけた。


 ついでに言うとおれ煙草を吸わない女が好きだ、と言おうとしてやめた。

 雑談は嫌いだ。

 すぐにセックスだとか言い出す、こんな下品奴に透明感の何が分かると言うのか。

 おれは静かな部屋で、二人がそれぞれ好きな事をしながらのんびり過ごしたいのだ。


 セックスとかは……セックスとかは、よく分からない。

 でも相手がしたいと言うのなら俺もやぶさかでは無い。


 おれは陽茎の先から透明感のある汁が垂れていくのを感じながら、隣を歩く下品で野蛮な男に気取られないよう最新の注意をして歩いた。

 腹が立って仕方ない。

 何より腹が立つのは、合流した女たちが全くおれの方を見ないことだ。

 クソが。おれは透明感なんて求めちゃいないんだ。

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