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世界は裏でまわってる  作者: 最上 品
98/120

98.ふえるものと、ながれるもの

もう一話ありますよ

2/3


 昼から夜へかけての時間帯の移り変わりというのは、黄昏時という名前を貰うぐらい不思議な時間帯。

 日が落ち始めれば、賑やかさが湧き、昼とは空気の違った楽しさがある。

 そんな時間に移ろい始める頃、駆け込んできたのは一人の客。


「今日も、やってるかい?」


 肩で息をしていて、両膝に両手を置いて、とても食事をしに来たという風には見えない客。

 風貌もキチっとした感じはなく、よく見れば職人風だが、かなり若い。


「暖簾を出す前だから、まだだけど、もうしばらくすれば開けるよ?」

「そう、かい。……じゃあ、もうひとっ走り行ってくるから、頼んだっ!」

「頼んだ?って……今のは、なんだろうね?」


 紫乃さんが首を傾げるが、横にいた私にも何が何だか分からない。


「席の予約、ですかね?」

「予約ったって、そんなにかしこまった店じゃないけどねぇ?」


 奥に居る大将に、ねぇ?と聞くと、微妙そうな顔。


「まあ、来るっていってるんだ、ドーンと待ってればいいんじゃないのかな?」

「そうなりますかね」


 よく分からない客が来て、夜のお店の開店時間が十分程繰り上げになったのですが、夜営業が始まっても何もいつもと変わりはないまま。

 ただ、先程の「頼んだ」の言葉だけが耳に残っていた。

それから三十分ほどは、何事も無かった。


 初めに来たのは、軍人さん。


 お店の前で女給さんが待っている所に、少しだけ厳しめの顔をしつつ挨拶をしてくれたみたいで、ぎゅっと腕を取って奥の方の席へと案内を女給がはじめる。


「昨日は済まないね。今日はゆっくりしていっておくれ。……すこしはサービスもするから、さ」


 女給の言葉に何とも言えない顔をしていると、暖簾を分けて常連の若旦那がさっきぶりなのに戻って来た。


「おやおや、昨日の。今日は早めで間違いなかっただろう?」

「ああ、昨日は……その、ご馳走になった。宿まで済まない」

「いいのいいの。お国の為に頑張った人を蔑ろにしちゃぁ、男が廃るってものよ。……今日はゆっくり出来そうかい?」


 会話がそこで始まってしまい、女給が引く手が弱まった。


「……若旦那、何しに来たんだい?」


 紫乃さんが若旦那をキッ睨むと、こりゃまいったと舌を出す若旦那。


「今言った通り、昨日の飲み友達さ。気になったんで、確認に来たまでさ」

「そうかい、そうかい。じゃあ、折角だ。今日もご馳走になっちまいな」

「……全く紫乃は、嫉妬深いねぇ。そのぐらいは構わないが、だったら……昼のアレを早速出してあげたらどうだい?」


 やんややんやと会話が続きながらも、注文を受け取って、軍人さんと若旦那が奥へ行くと毛色の違う賑わいがお店の方に寄ってくる気配。


 流石に賑わう時間でも、オカシイ空気だと感じた一人の女給がお店の外に確認へ行ったかと思うと、ものの数秒で帰ってきた。


「な、なんか、凄い人数がっ!」

「何かのお祝いでもやるつもりかねぇ」


 賑やかな事は日常茶飯事。


 報告誤差でもあったのかもね、と言い捨てる。


「紫乃、こっちに燗酒。あ、お冷も。後は……何か食べたい物でもある?」

「地の物があれば」

「出身は?」


 そして、言葉通りに仕事に精を出す紫乃さんだったが、先程の若い男がまたも駆けて店に飛び込んできた。


「ふぃぃぃ。一等賞!」


 まるでマラソンランナーがゴールテープを切ったかのような晴れ晴れとした顔で、言っている言葉の内容は子供そのものみたいな事。


「いらっしゃい?」

「戻って来るって言っただろう?」


 肩で息をしながらも、決め顔で紫乃さんに言い放つ。


「頼んだ、しか聞いてないよ?」

「あっれー?そうだったっけ?えーっと、じゃあ、親方衆がひぃふぅみぃ……殆ど来るから、席を頼むわ」

「殆ど?ちょっと待ちな、何人だい?」

「えーっと、あんまり数字には強くないんだよ……」


 そう言うと、子供の様に指折りで数字を数え始めるが、その動きをどう見ても片手だけの人数の可能性はなさそう。

 それを察した紫乃さんが慌てて厨房へと駆け込んだ。


「いらっしゃいませ」


 代わりに、私が一歩前にでてペコリと挨拶をすると、おお、と声を上げながら喜び、バッと両手を差し出してくる若い男。


「あの、握手しても、いいですか?」

「握手ですか?」


 突然の言葉に私の中のみんなが笑う。


「ええ、別嬪さんとは聞いてましたが、どえらい別嬪さんですよねぇ」


 聞いていた、そして親方衆。

 その二つが私の中でピンと一本の線に繋がると、かなりこれはまずそうな気配。


「ちゃんと予約とれてるか?お前はいつもそそっかしいんだから、お店の方々に迷惑かけてないだろうな?」


 その声と一緒に店内に入ってきたのは、親方衆の一人で私も見た事のある人。


「挨拶して、頼んでおいたんで、大丈夫みたいです」

「本当か?困惑している顔にしか見えないぞ?」

「あっれー?オカシイっすね」


 スッと親方の目が私に向いて、目線で合図を送ってきたので私は目を閉じながら首を小さく左右に振る。


「どうやら、また迷惑をかけたみたいで。ええと、この後大人数ですが、いいですかね?」

「場合によっては順番になるかもしれませんが、すぐにご用意しますね」


 お昼もバタバタしていましたが、今日の夜も変わらずバタバタする事になりそうです。




どこにでもおっちょこちょいっているもので。


作者としては助かりますが、ありえない様なおっちょこちょいは出来るだけ出したくないというジレンマも。


なかなか、難しいモノです。


でもこういう感じの空気でお酒飲むのはやってみたいなぁ。


そう言う憧れをギュッと詰め込んで今回は書いている形ですね。


憧れはいいけど、不自然はダメ。


いい塩梅ってムズカシイ!!!

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