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世界は裏でまわってる  作者: 最上 品
93/120

93.出囃子らいす

本日ここまで。

3/3


「大将、このお肉は使っていいですよね?」

「構わないが、見てわかる通り――」

「ええ、トリミング……可食部位だけ切り出しますよ」

「トリミング?は何かよく知らないが、牛肉だと――ぐらいは、分かっているよな?」


 私の発言に今更の不安を覚えたのか、決断を鈍らせてしまったので、言葉ではなく技術で見せる事に。


「いつも大将もやっているのと同じ作業よりも、かなり今回はキワを狙いますけど、真似はしないでくださいね?」


 こういう肉は、包丁より先に目を使う。


「キワを狙うのは、ご法度――は、客用だけだな。まあ、おなかを壊されても困るからウチはそこまでギリギリじゃなくていいぞ?」


 大将は少し目を彷徨わせたが、肉の入った箱をこちらへ寄せた。


「心遣いに感謝しますが、賄いに出来るだけ量が欲しいんですよ」


 今日限りの場所。

 最後ぐらい、私なりの無茶をしても――いいでしょう?


 そんな気持ちのまま、箱からクズ肉を取り出す。

 いつもの包丁ではなく、肉切り包丁を借りて、じっくり観察する。


 パッと見て、違和感があった。


 大将が裏まで確かめ、変色していたのは覚えている。だが、傷みはほぼない。


「もしかすると?」


 私の様子に気が付いた大将。


「予想以上だったか?」

「ええ、もしかすると……助かるかもしれません」

「助かる?」


 それはないだろうという目で見てきたので、スッと包丁を入れて変色した部分を削ぎ落とす。


「――手慣れているな?」

「勿体ない事はしない主義です」


 大将は包丁さばきを見て安心した様子だったが、安心してほしいのは、そこじゃない。


「ほら、この通り……中身の色は問題ありませんよ。それに、よく見れば下の方にある肉の脂身もまだ白さが残って、お客さんには出せないかもしれませんが、賄いには……」


 私の言葉を遮るように、大将は身を乗り出し、肉に顔を寄せた。


「この肉なら……いや、確かにいい肉だが、――くそっ惜しいな。あと指二本分あればな」


 大きさが足りないだけなら、工夫一つでどうにでもなる。


「でしたら、提供の説明はこういう風に――、おかみさん?あえてこの言い方――」


 おかみさんも呼んで、確認をしてみると問題はないみたいで、常連客を喜ばせる事が出来ると喜ぶ大将。


「常連さんと数食分、少しおまけしてもらえるなら……あとは賄いで貰いますよ?」

「ああ、存分に使ってくれ」

「全く、落ち込むのを忘れる程仕事に集中して、状況がよくなったら気前のいいことだね」


 おかみさんは「あきれた」と言わんばかりですが、言葉とは裏腹にとても嬉しそう。


「では、ギリギリな端肉と変色が弱い脂身、あとは後ほどのでも使えない部分を貰いますよ」


 端肉とはいっても、ずいぶんな量だ。


「……この辺りは流石に、まずいんじゃないか?」

「いえ、しっかりと火を通しますし、思ったより悪くないお肉でしたよ」


 集まったお肉を使って作るのは洋食屋定番のアレ。


 端肉も脂身も、まずは湯にくぐらせる。

 すると表面の色がさっと変わる。


 その肉をフライパンに押し付けると、ジュッと肉がいい音を奏でる。

 肉が焼けるいい香りに大将は思わずこちらを見る。


 賄い用にはじかれた野菜の山から、使えるところだけを手早く切り出す。

 形の悪いタマネギも、先の黒ずんだニンジンも、ジャガイモは芽をえぐり取れば問題ない。


 炒めた肉と野菜を放り込んだ鍋が、今までにない香りを店内へ広げる。


 客か、女給か、誰かが思わず唾を飲み込んだ。


「大将、このビンの残り貰いますよ」


 返事を待たず、瓶に湯を注ぎ、こびりついたトマトピューレを鍋へ落とす。

 ひと混ぜすると、香りが一段と深くなる。


「こりゃあなんだ、かなり美味そうだ」


 大将は注文の鍋を振りながらも、視線を何度も投げ、こちらを強く気にする。


「あ、少しだけデミグラスソースも――みんなで食べるのでおたま一杯だけ貰いますよ?」


 店の命とも呼ばれるものを使うと私が言ったにも拘らず、強い眼差しで首を縦に振ったのは、大将。


 再び呆れるおかみさん。香りは、もはや暴力だった。


 本当は、もっとやりようもある。だが賄いだ、これで十分。

 足りない部分をラードとマーガリン、ウスターで補い、味の深さと複雑さを出す。

 トロミはちょっとした誤算でジャガイモが立候補。


「客席まで香るのは……なんだい?って、タエさんが作っているのは……今日の出囃子かい?ライス?パン?」

「ええ、出囃子……ライスですよ」


 こればかりは大将よりもおかみさんを確認すると、仕方ないといった顔で頷いてくれたので、今日の賄いはライスを使わせてもらいましょう。


「出囃子ライスっと、楽しみだね」


 さっきまでクズ肉だったそれは、もう店の誇りみたいな香りになっていた。


 私達のお昼が始まります。




今日も読んで頂きありがとうございます。


たまたまですけど、大安が休日に重なりましたね。(ただそれだけですね(笑))


休日だから、読者が増えるかと言われると、そう言う事もなく。


あ、でもこの作者名からは飛びませんが……(笑)、あっちの作者名からこっちに飛ぶことが出来るようになったみたいで、ほんのり読者は増え気味……のハズ。


読んでくれる人が居るって、嬉しいモノです。


さて、また次回の大安吉日……ちょっと先ですけど、お待ちしております。


間が空くので、作者的には内容をしっかりと練ることが出来て嬉しいのですが……ちゃんと反映できているといいなぁ(そこは希望的観測で)


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