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世界は裏でまわってる  作者: 最上 品
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91/127

91.閑話 警察/その場の正義

今日も変わらず三話です。

まあ、タイトルの通り閑話スタートですけどね。

1/3



 大工の一人に引っ張られるようにたどり着いたのは、歌舞伎座裏の一角。


「こいつです」


 遠巻きに人だかりが出来ていて、真っ赤なネクタイに縞模様のダブルを着た男が、呆けたまま地面に座っている。


「ああ、こいつか。わかった、こっちで引き取る」

「お願いします」

「ほら、立て。行くぞ」


 力が入らないままだった怪しい男を二人の警察が両方から腕をがっちりと持ち、無理矢理立ち上がらせると、それまで力の抜けていた足に急に踏ん張りが戻った。


「すぐそこの交番で話を聞くから、ほら、しゃんと歩け」


 警察が怪しい男を連れて行くと、歌舞伎座裏は徐々に人だかりがほどけ、客の呼び込みの声が聞こえ始めた。


 ただ、中には結末を知りたがり、何人かが警察と男を追いかけはじめる。


だが警察も煩わしくなったのか、ついて来る人だかりに振り向いて一言。


「必要になったら、また確認に来るので。この辺りで勘弁願います」


 ここまで言われてはついて行けないと思い、見世物感覚の人達も、そこで途切れた。



「お前は、浅草や上野でやらかしてるネズミだろ?」

「名前だってちゃんと……」

「河岸が違う所で迷惑かけるな。アッチは優しいかもしれないが、コッチでそう言う事はご法度だぞ?」


 交番に着くと、逃げられないようにとピシャリと扉を閉め、逃げ道を塞ぐように外に一人立たせて見張らせる。

それで怪しい男も、完全にマズった事を悟ったのか、目を細めた。


「お優しい忠告は助かりますが……、温情でも?」

「こっちの河岸で二度目は無いんだったら、だな。まあ、口の軽さも災いするかもしれないが……」


 交番のはずなのに、空気はどこか裁きを受ける場に近かった。


「先に言うが、贔屓は無しだ。……ここには三人いる。分かるな?」

「……じゃあ」

「偽札はいらんぞ?これでも国側だからな?」


 ギクッとした表情をわざとらしく浮かべ、胸ポケットからさっき子供に渡した札とは違う札を三枚机の上へ。


「ついでに、その似合ってない赤いネクタイも置いてけ」

「っ……これが無いと、商売で」

「掴まえた事にしてやるって言っているんだ。察しろ」


 怪しい男が警察を睨み、突っかかる勢いで立ち上がろうと動く。


「今更、堅気にでもなれると思ってるのか。はっ、馬鹿言ってるんじゃねぇ」


 悔しさをにじませる顔で怪しい男が立ち上がろうとしたが、警察の一人が怪しい男の靴を強く踏みつけた。


「赤いネクタイ、縞模様のダブル、そして……汚い靴。銀座の人間は格好よりも足元を気にするんだ。下町と同じ事をしたって、こっちじゃ許されない。俺達以外に目もつけられているんだ、わざわざ死ぬことないだろ」


 足の痛さに思わず怪しい男が自分の靴を見ると、警察の靴はとてもキレイで何も言葉が返せなくなる。


「それに、あそこの棟梁連中はお前の想像の上を行く繋がりもありやがる」

「んなっ、馬鹿なっ」


 たかが占いの女一人にコケにされた。その意趣返しのつもりだった。


「警察の俺達が言う事じゃないかもしれないが……負けても、心は負けちゃいねぇだろ?あいつらに目にもの見せてやらねぇと、死んでった奴らに申し訳が……」

「知らねぇよ。勝手に初めて、勝手に負けて、ゴメンナサイも何もねぇだろ。負けたら終わり。盗られるだけで何も言えないのが負けた側だろ!」


 靴を踏まれたまま、捲し立てると胸ぐらをつかまれる怪しい男。


「そこまで言うなら、腐ってんじゃねぇよ。こんな事してんじゃねぇよ。ギリギリでもいいから、真っ当にやれよ。仕方なかった、これしかなかった、そんなの知ってるよ。俺達だって今もギリギリで何とかやってんだろ」


 お互いに何も言えない状態で、流石に強く踏みつけ過ぎたと気が付いた警察が靴を踏むのを止めると、怪しい男は足をプラプラさせる。


 交番の中に、誰も口を開かない時間が流れた。


「まあ、お前に怒りをぶつけても意味なかったな」

「渡すもん渡してなんで痛い思いしなきゃいけねぇ。割に合わねぇよ」


 怪しい男は机の脚を蹴ろうと足を少し後ろに引いたが、先程まで踏まれていた足がズキズキと痛み、そのままゆっくり足を下ろした。


 机の上にあった一枚の札を無造作にポケットへ仕舞った警察の男が怪しい男を一瞥して言う。


「どうする?」


 しばらく黙り、やがて腹を決めた顔になった。


「先がねぇってわかってる所、突き進むような歳じゃねぇよ」


 そう言うと、右手で強く赤いネクタイの結び目を握り、引きちぎらんとする勢いでネクタイを首から外すと、机に叩きつける。


「賢明な判断だな」


 もう一人の警察官が残りお札二枚を掴むと、逆の手で赤いネクタイを持ち上げる。

 ネクタイを握る警察の手に、ぐっと力がこもった。


 この日を境に、この界隈で赤いネクタイの男を見た者はいない。




中々のキャラクターで、作者的にはかなり好きなキャラでもあります、赤いネクタイの男。(あ、人間的な話で言うと、嫌いですし、詐欺師なんてもっと大嫌いですけどね(笑))


出せれば出したいけど……でも、多分もう出る事は無いような気も。


こういう所の取捨選択ってとっても難しいです。


それこそ、作者の私としては分かっていない事がありまして、果たして読者の皆さんはどのキャラクターが気になって読んでいるのか……。

普通に考えると、主人公のタエかなー?とも思いますが、一話限りでも記憶に残るキャラもいるかもしれませんからね。


いいキャラクターが残るとは限らないのが本の中の登場人物達の面白い所です。


でも、アニメもそう考えると一緒だから……強いてあげるなら、「共感しやすいキャラ」がやっぱりこのまれるのかしらねぇ??

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