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世界は裏でまわってる  作者: 最上 品
8/18

8.魔法のこく


2/3

でーす


 紫乃さんが温め直した味噌汁に掛けた魔法は、後で説明するとして一緒に出て来た出囃子パン――もとい、賄いのパンはパッと見るとかなり豪華。

 コッペパンの内側だけ焼き色がちらりと見え、外側は普通にみえたのでフライパンなどでカリッと内側を焼き、その間に半分ぐらいの大きさのコロッケが挟まり、さらに少しだけ何かが掛かっています。


「おお。タエちゃんとか初めて組が居るから今日はちょっとだけ豪華なパンだ」


 大将やおかみさんは何も言わずに気を使ってくれているみたいで、喜びながら紫乃さんが賄いを食べ始めるのですが、近くに居てもいい音が。パリッとシャクっと、パンはカリカリ、コロッケは揚げたてで思わず涎が。


「んん!?凄い、凄い。タエちゃんの魔法、凄いかも!!」


 次は自分の賄いが出ると思って待っているのですが、それより先に紫乃さんの声が色々を止めます。


「お味噌汁、おかわりいいです?」

「紫乃にしては珍しいね?もう一杯までだよ?」

「はーい」


 そう言いながらも、たっぷりの量を紫乃さんがとっていくと何かを感じたのでしょう。同僚の女給さん達が、私たちの番を飛ばしてスッと横から賄いを取っていきます。


「大丈夫。ちゃんと残すからね?」


 全然その目は大丈夫そうじゃないのですが、首を縦に振るしかなさそうで慌てていると、大将は気にしていなかったみたいで、すぐにパンを渡してくれます。



「やーっと、今日の一食目だね」

「うんうん。なんか凄くいい香りだから、パクっといこう!」

「ちょっとだけ懐かしい香りもするね」

「これならお味噌汁の魔法も効くよねぇ」



 頭の中でうちの子達もワクワクしているみたいだったので、思い切りぱくりと一口。


 パンはカリカリで熱々だけど二度揚げなのかちょっとだけ油多めのコロッケは少しこってりが強めかと思ったのですが、ちょっとだけついているデミグラスソースがお肉無しのコロッケをググっと引き上げてくれる味。


「おいひぃ」


 ソースがたっぷりだったらもっといいのにと思ってしまうぐらい美味しいソース。

 お店の大黒柱だと分かるぐらいに美味しいソースだと思っていると、いつの間にか食べ終わった紫乃さんがひょっこり顔を出してきます。


「今日みたいに初めての人がいる日だけ特別に大将がドミグラスソースを出してくれるの」

「ああ、これがドミグラスソースですか」

「ありゃ、タエちゃんはやっぱり知っているのね?」

「まあ、ええ」


 この時代で考えると最上級に美味しいソース。ただ、もっと先の時代の料理を知っている私ですが、時代に合った美味しさだというが分かり、これ以上はないほど美味しい事が理解できます。


「それにしても、あの魔法凄かったよ?」

「ああ。ちょっとした魔法ですよね?」

「そうだけど……ほら、あの通り」

「え?」


 二人の視線の先には空っぽの雪平鍋があって、スプーンを使ってもう一口でもいいからなめさせてというぐらいの外の女給さん。そして、その騒ぎは流石に厨房から見えているので、大将も出て来たみたいで。


「俺の味噌汁に何かしたのはどいつだ?」


 ギンッとした鋭い目つきでもって女給を睨みます。

 そのタイミングでスッと目を外したのは紫乃さん。

 ですが、それを大将が逃すはずもなく、音もなく近づくと首元をひょいっと掴み、まるで猫を扱うように持ち上げます。


「えー、私じゃなくてタエちゃんよ?大将の料理に味をうつような真似するはずないでしょ?」

「その割には楽しそうにしていたのを横目で見たが?」

「あちゃー……ということで、タエちゃんゴメン。守れなかったよ」


 よよよ、と泣き真似をしながらチラッとこっちを見て来るのですが正直そこまで大した事をした記憶は無く、ちょっとだけ魔法をかけたつもりだったのですが、まずかったみたいで。


「初日で色々するのはまあ仕方がないが、あれはどういう事だ?」

「お味噌汁に魔法をかけた事ですよね?」

「そうだ。俺も一口だけ味をみたが、旨くなってた。この厨房にあるモノだけであの味が出るのか?」


 大将の目は自分がよく知っている料理をする人の本気の眼差し。

 嘘を言うつもりなど元々全く無いのですが、コレはちゃんと説明をしないとマズそう。


「ちょっとだけ、そこにあったラードを足したんですよ」

「ラードを?……味噌汁に?本気か?」

「ええ。まだお味噌汁があるようでしたら、脂がたっぷり浮くほど入れたら勿論ダメですけど、少しだけ入れる分にはコクが出るんですよ」


 そんなこと聞いたことないぞと言う目で見てきたのですが、現実の魔法なんて実はこんな簡単なモノで。

 一人前でやるのはちょっと分量が難しそうだったので、パンの最後の一口をパクっと口に入れて、そのままさっきと一緒で寸胴の味噌汁を雪平鍋におたま数杯分入れて、中火にかけ、スプーンでラードをすくって味噌汁の中で溶かします。


「このぐらいですから、一杯ずつに足すのはちょっと味の調整が難しいと思いますけど、このぐらいの量だったりすれば、いいコクがでますよね」


 大将はかなり驚いた顔でこっちを見てきます。








この時代の事をあれこれと調べてみたのですが、本当に物資が少ないのです。

戦後という時代もあって、あれもこれも足りない時代。

そんなおり、ラードは本当に魔法かと思うぐらい美味しく感じたかなーって。


実際、揚げ物などを揚げるときにラードがあるだけでちょっと美味しくなります。


今でも使えるちょっとしたテクニック……かな?(笑)


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