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世界は裏でまわってる  作者: 最上 品
79/90

79.ただしいキョリ

1/3


いつも通りの一話目です


 そっと頭を撫でている時間は、そう長くは続かなかった。

けれど、一定のところを越えると、少しずつ現実に戻っていく感覚がある。


 どうやら先に正気に戻ったような感じになったのは双葉さんだったみたいで、よくよく顔を覗くとかなり顔を真っ赤にして、俯いている状態。

 それを私も自覚すると、流石にちょっと子供をあやすようにし過ぎたという気持ちもあって慌てて頭から手をどかします。


「つい、撫でてしまいました」

「い、いえ。嬉しかったです」


 そう言って、双葉さんは少しだけ名残惜しそうな顔でぼそりと言いました。


 ただ、今の双葉さんにかけるべき言葉はなかなか難しく二言目が喉から出たがりません。


 そんな状態というのもあって、微妙な空気が私達を包み始めたのですが、手が頭からしっかり離れて双葉さんの頭が軽くなった事が発端となって、再び双葉さんはバランスを崩し、今回は私も少しばかり普通の状態ではなかったので、自転車が倒れるのを止めることが出来ず、ガシャンと大きな音が夜の街に響く。


 突然のその音は一気に私達を変な空気から現実に顔をひっぱたいたかのように戻してくれて、若干の火照りを持っていたように見えた双葉さんの顔も一気にしまった顔に。


「少しばかりですが、役に立ったらよかったんですけどね」


私の予想をはるかに上回る暗いナニカを抱えていて、短時間でどうにもこうにも出来なかったのは困ったもの。

 別に諦めたとかそういう話でもなく、次の機会で……と思ったのですがそれは自分としては中々珍しい気持ち。


 確かに双葉さんに、知り合いの面影を重ねる部分は多少あれど、ここまで入れ込む予定は元々無かったので、とても不思議な気分。


「いえ、かなり。楽になりましたよ」

「そうだと、いいんですけどね」


 お世辞と言うよりは、気を使わせての一言。

申し訳ないという謝罪の気持ちが込み上げてきたのですが、同時にこの時代の男の人なので立てる部分は立てた方がいい気が。

 迷う時間は一瞬ですが、立てる方を選びます。


「じゃあ、楽になってよかった……と、いう事で」

「ええ。ありがとうございます、タエさん」


 倒れた自転車を戻したら、少しだけさっきよりはいい顔になった双葉さん。

 スタンドを再び下げて、チラッとこちらを見て来るのは「送りますよ」という合図でしょう。


「よろしくお願いしますね」

「ええ、ゆっくり、ゆっくり、行きましょう」


 双葉さんがもう少し一緒に居たいという空気を言葉にこれでもかと混ぜ込んでいるのがありありと分かる発言でしたが、フフッと私は笑って、ええ、とだけ答えると私もスタンドを下げて、横を一緒に歩いて紫乃さんの家へと向かいましょう。



 ゆっくりとした足取りにはなりながら、双葉さんは最近読んだ本の話や新聞の面白かった記事の話、他にも詩人というよりは今後は歌の世界が詩をもっと洗練させるだろうなどと、彼独自の目線での最近の話をしてくれて。

 少しだけお互いに遠回りをしている事を理解しながら、自転車を抱えた夜の散歩はそろそろ終わりが近付いてきます。


「すぐそこの角を曲がれば、です」

「……もう、ですか」


 とても名残惜しそうに、まるで捨てられた子犬のような目で双葉さんは見てきます。


「多分、また機会がありますよ」

「でも、僕は、もっと……」


 捨てられた子犬が雨に濡れるようなアップグレードをした気が。

どうしても自分の中にある庇護欲をこう……そそられるというか、くすぐり上手というか、色々な気持ちが刺激されるわけですが、ぐっと我慢も必要で。


 私自身があまり感じた事のない感覚。

 もしかしたら、この感覚は遠い昔に味わった事のある名前をあまりつけたくない思い出の一つに似ている気持ち?なんて、思いが一瞬よぎった気がしたのですが、気のせいでしょう。

 そこまで強くはないけど、ジッと見つめるような視線を双葉さんに投げます。


 そんな私の視線にジッと双葉さんが見つめ返してきたので、名残惜しい気持ちを抑え、ここはしっかりとやり切った方がいい行動をする事に。



 いつもとはかなり違う行動をとりましょう。



 することは簡単でたった一つ。


 紫乃さんの自転車を左手に持ち替えて、自分の右手、人差し指をそっと自分の唇にくっつけた後、そのまま双葉さんの自分と同じ位置の唇にピタッと当てて口を一度閉じさせます。


 突然の動きに慌てた双葉さんはゴクンと唾を飲む音がこちらに聞こえてくるほどに緊張しているのが伝わってきます。


「寝ていない時にも人間、夢は見るモノです。双葉さんは今日一日、狐に化かされたのですよ。ただ、どうしても夢にしたくないのであれば――――。ね?いいこでしょう?それ以上の言葉は、いりませんから」


 私の言葉の途中で指に触れている唇が何かを発しようとしたことは察しましたが、それでも双葉さんは口を噤んだまま。


 遠くで自転車のベルが鳴る音が聞こえると、双葉さんが大きく頷いてくれました。






楽しい時間ってなんであんなに早く過ぎるのでしょうね?

そして、逆に面倒であったり嫌な時間ほど長く感じるのも……同じように何故だろう??


相対性理論について考えているわけではないのですが……人間って不思議。


ちょっとだけ甘酸っぱい風


楽しんで頂けたら幸いです。

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