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世界は裏でまわってる  作者: 最上 品
7/15

7.出囃子のまかない

今日もいつも通りに (?)

1/3


となってます


 新しい居場所ができて、そこが食事を出す店だと知り、私の心は躍った。

さっきまでのハラハラとした緊張感 (?)は萎み、ワクワクした期待感がどんどん膨らんでいく。私のやる気が増すのに呼応するように、お客さんの入れ替わりも激しくなり、ピークの気配が近づいてきた。


「さてと、久しぶりにやりますかっ!」


 私の声に、頭の中でもたくさんの返事が返ってきて、みんなもしっかりとお手伝いをしてくれる準備は出来た模様。


 お客さんの手が上がるタイミングを見計らって、相手の言葉に被せるぐらいのタイミングで「はーい」と返事をし、すぐにお客さんの元へいって注文を受けてはメモに料理名を書き、大将にお願いを。

 私達の動きに負けないと、先輩方もキビキビと動き始め、お店が一気に賑やかに。


「五番さんのコロッケあがったよ」


 大将の言葉にすぐに先輩が動きます。


「三番さんのカリーライス出来たよ、味噌汁はそっちで頼む」

「味噌汁、はーい」


 どうやら今日のスープは味噌汁みたいですが、周りのお客さん達の顔を見る限りこの味噌汁は洋食屋さんでは定番の一品なのかもしれませんね。パンにもライスにも合うみたいで美味しそうに食べているのが見えます。


「十番のオムレツ出来たよ!」


 その言葉でキビキビ動いていた先輩が注文品を持っていこうとしたのですが、厨房に戻る道すがらで先輩を止めます。


「おかみさん、オムレツは十一番です。十番さんはオムライスです」

「ありゃ、本当だ。見間違えちゃったよ。お客さんには順番が逆になったってあやまっとくれ」

「はーい」


 すぐに訂正もでき、お客さん達も忙しい時間帯だと理解しているみたいで目くじらを立ててまで怒る事もなく、その場はスッと落ち着く事に。


「タエちゃん凄いね?」


 食べ終わった食器を片付けながら紫乃さんが声を掛けてくれます。


「丁度となりだったので、たまたまですよ」

「私の目は間違いじゃなかったっておかみさんに言わなきゃ」


 ふふっと笑いながら紫乃さんは厨房に行くので、私もお客さん達の食器を下げにホールに戻りましょう。


 そんな時間が三十分ほど続いた頃、賑やかな空気はそのままに、どこか少し緩い空気が混ざり始める。

その発生源を探してみると、どうやら私達を気にかけてくれた紫乃さんのようだ。


「なんというか、少しウキウキしたような空気に見えるんですけど?」

「あ、タエちゃん分かる?そろそろ出囃子の時間でしょ?」

「出囃子?って、落語とか劇が始まる時の、あれですか?」

「そうそう、だけどちょっと違うんだよね」


 お客さんの流れが落ち着き始めた厨房近くでそんな会話をしていると、おかみさんがひょいと顔を出す。


「出囃子ってのはね、紫乃だけが言ってる言葉でさ。今日の“出囃子パン”はなんだ?とか、“ライスか?”とか言い出すんだよ」

「……パンやライスって、賄いのことですか?」

「そう、要するに“今日の賄い、すぐに出せるのは何?”って意味合いらしいよ」

「ふふん♪よく聞いてくれたね、タエちゃん。出囃子って一番最初に流れるでしょ?だから私の”出囃子パン“は、真っ先に出て来る賄いのことなの」


 なんとも言葉遊びが面白くて、思わず私も笑顔になってしまった。


「へぇ……なんか面白いですね?」

「でしょでしょ?なのに、誰も使ってくれないの」


 おかみさんが呆れたように、でもどこか笑いを含んだ目で紫乃さんを見る。


「そりゃ、そんな言葉、紫乃しか使ってないもんね。聞いたことないよ?」

「私が作ったんだから、まずはここから広めないと!」

「流行るかねぇ……。ほら、今日は大将がパンだって言っていたから、順番に食べちゃいな。味噌汁も一緒にね」

「わーい、今日は出囃子パンだ!」


 紫乃さんは嬉しそうに笑って、手に持っていた食器を洗い場に置くと、そのまま賄いをもらいに、厨房へ向かっていった。


 他の先輩たちもそわそわし始めて、ついに別の先輩が「先にどうぞ」と言ってくれたので、私たちも紫乃さんの居る厨房へ向かう。。



「お金足りなかったけど、やっと夕食だ!」

「何が出るかな?メニューにあったビーフシチューとかハムエッグとかも美味しそうだったけど」

「賄いってそういうものじゃないと思うよ?」

「えー、じゃあお腹一杯、満足するようなものじゃないの?」

「多分、違うけど……この時代のはじめてのご飯が賄いってちょっと……ね?ふふふ、だよね」

「そうだよね。ちょっとだけ“ふふふ”、だよね」



 厨房に向かう足取りは軽く、紫乃さんの鼻歌も響いていた。

彼女はちょうど、お味噌汁を温めているところだった。


「出囃子パンにも合うからねぇ。ここの味噌汁、美味しいんだよー」

「お客さんたちの顔を見ていたので、分かりますよ。でも、もしよかったら……」


 ちょっとだけ、折角ですから。

そう言って私は、味噌汁に魔法をかける許可をもらう。紫乃さんも嬉しそうに頷いた。

 ――さあ、魔法をかけましょう。





出囃子パン。。。美味しそう。


洋食屋さんのお味噌汁って、ちょっとだけ日常と非日常をこう……行ったり来たりしているので、特別な感じ、しませんか?

そんな空気や雰囲気を味わって貰えると嬉しいかなーって、話ですね。


あ、今日も三話程お届けできそうです。


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