62.湯けむりの月
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しっかりと温まりなおすには結構な時間がかかり、結局昨日と同じぐらい長くお湯に浸かっていた形に。
「みょーちゃんの事見て貰ってすみません」
紫乃さんと一緒に番頭に居た人に頭を下げた訳ですが、大したことが無くてよかったよと逆にみょーちゃんの心配をさせてしまいます。
ここのお湯の温度は私にとって凄く心地のいい温度というのもあって、なにか恩返しの一つでも出来ればと考えていると、そういえば別嬪さん?と、声を掛けられた。
「別嬪さん?」
私の後ろに人は居らず、紫乃さんはみょーちゃんを連れてもう外に出ようとしているので、選択肢から外れます。
はて?と一瞬で周りをキョロキョロ見渡してみますが誰もおらず、首を更にかしげる。
すると、お前さんだよ。と、言われ……驚いた。
「自覚が無いのが玉に瑕かねぇ?」
「あー、ええと、私でしたか」
時代的に少し垢ぬけている私がたまたまそうみられているだけでしょう。
「そうだよ。昨日貴女が入った後から、湯の調子がいいってさ。別嬪さんってのはいるだけでご利益があるのかね?」
笑いながら質問をするように聞かれますが、多分それは私の魔力が漏れたから。
誤魔化さないとマズイ気もしつつ、同じぐらい申し訳ない気持ちもあったのですが、今の話の流れを聞く感じ、むしろ良かったとも聞こえます。であれば、やりようはあるわけで。
「あはは、私が入った程度でよくなるなら嬉しいですけどね。あ、そうだ、でしたら……」
ポケットの中からヒイラギの枝を一本取り出して、左手に持ちます。
右手で葉っぱを一枚ギュッと握り込むように外し、視線が右手に移っていることを確認したら、左手の枝はスッとポケットにしまいます。
右手をおもむろに上に持ちあげて、葉っぱが落ちないように気を付けながら月の光に当て、緩くもう一度握りなおす。
相手の目線に合うように右手を下げてから、小指からそっと指を開いてあげると、手のひらの中には一枚の木札。
「もしよければ、これを」
「……驚きだね。手品ってやつだろう?」
目の前で見ていたにもかかわらず、何が起きたのかさっぱりわからない顔の番台さん。
でもその木札は何かオーラのようなものを持っている気がして訳は分からなくとも素晴らしいモノだとなんとなく分かってくれているみたい。
「ちょっとした手品です。お騒がせしたお詫び……と、いいお湯のお礼って事で」
「いいのかい?」
「ええ。大したものではありませんから」
恭しく受け取る女性にまた少し罪悪感を覚えますが、今の木札には月の光から魔力を受け、お湯に少量の魔力を混ぜ、ちょっとだけ肌艶の調子が良くなるようにお願いしたもの。
「必要がなくなったら、そのうち消えますから」
「手品っていうのはそういうモノなのかい?」
実際は違うのですが、この時代ならこのぐらいの説明で多分大丈夫なハズ。
そして、必要なくなったら消えるようになっているのは本当で嘘はないのでこのぐらいは範囲内でしょう?
「ええ。あと、もし気に入ったのであれば、たまにでいいから月の光を浴びさせてあげると、喜びます」
「喜びますって……木札が?」
「この国には、八百万の神様が……いますでしょう?」
本当は魔力を受けて……と説明をしても多分伝わらないのであれば、こういう時こそ万能な神様の出番。
「なるほどねぇ。こうやって、お月様をみせればいいのかい?」
女性は木札の表、丸い大きな月の中にある優しい目をした狐面を月に掲げる。
すると、まるで本当に月から光が降ってくるみたいに、微粒子のような光が木札へと吸い込まれていった。
ただ、これがしっかりと見えているのは私だけ。とっても綺麗なんですけどね。
「ええ。簡単でしょう?」
何も無かったように、笑顔を返しましょう。
使うか使わないかも自由。使わなくなれば消えてなくなり、大事にされて必要とされれば、そのまま残りますが出自もよく分からないモノがそうそう長く残るはずもなく。
「お客さんの湯あたりをみていただけなのにねぇ」
「いい行ないに、応えるものがあっただけですよ」
そういうものかね?と、首を傾げますが、そろそろ待ち切れなくなった二人が私を呼びに来そうな気配を感じたので、この場を後にしましょう。
「多分明日も来られるかな?」
「それはそれは。お待ちしております」
「ふふ、今日もいいお湯でした」
「お粗末さまでした」
フフフっと、お互いにお上品な笑いを返し合いながらお店を出ると、自転車の横で今か今かと動き出さんばかりの状態の紫乃さん。
「みょーちゃんは、大丈夫?」
「ちょっとだけ、のぼせただけなので。この通り」
私のやっていた力こぶの真似を早速して、元気いっぱいだと見せてくれるみょーちゃん。
「で、えーっとまずは私の家……で、本当にいいのかい?」
「ええ。占いの結果はあまり吹聴するものではないので、みょーちゃんの結果はみょーちゃんだけが聞いた方がいいので」
「……まあ、信用はしているけど本当に大丈夫かい?」
女二人が歩いていい時間とはあまり言えない時間帯。
紫乃さんの心配も分からないはずもなく。
「どうしてもダメそうでしたら……そうですね。屋根伝いにタタタっと街を駆け抜けますから。それだったら、変な人に会わないでしょう?」
「タエちゃん?屋根伝いにタタタって、それはタエちゃんが変な人だよ?」
「あれ?そうなっちゃいます?」
私達のやり取りにこらえきれなくなって、みょーちゃんがくつくつと笑います。
映像で自分が見たいと思えるように頑張ってみました。
普通に、占いもしてもらいたいなー?
いや、ただ見てもらうだけでも自分の人生コロッと変わるのかなぁ?
それも含めて、出会いなんでしょうねぇ。
自分で書いているのに、なんかちょっと凄かったです(読み直してみたら)(笑)




