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世界は裏でまわってる  作者: 最上 品
61/90

61.閑話 銭湯のおかみ/カマか人か?

1/3

いつも通りでよろしくお願いします


 ウチは代々下町の銭湯をやっている。


 空襲には遭ったものの幸いにして銭湯である店の方は戦火から免れてくれたおかげで、今も商売を続けられている。

 戦後の折、少しずつ物価が上昇しているのもあって、仕入れる木材の値段が容赦を見せない。

 カマにはよくないが、他の店と同様に多少そこら辺の燃えるモノを入れてもいいだろうと思うのだが、先代の爺ちゃんがこれだけは守らにゃいかんと入れられてもせいぜい木片まで。二言目には、コレは焼却炉じゃないと雷が落ちる。

 そんなうちの店にはGHQのお客さんも来るようになり、外人さんが来るのなら安心だと昔の憲兵さんと同じような働きをしてくれているのか、客足も少しずつ戻ってきていて、凄く儲かるわけではないが、ぼちぼちとやれている。


「それにしても昨日のお嬢さんは別嬪だった」


 番台をしている私がそんな話をすると、昼間を担当していた戦地帰りの息子が残念がる。


「遅番にしておけばよかった」

「遅番は基本的に女がしないとね。ウチは女性のお客さんが多いんだから、お前みたいな若いのは流石に……ね」


 店によっては男が番台に立つこともあるが、ちょっとうちの息子はスケベすぎて信用もない。


「なあなあ、爺ちゃんはその別嬪さん、ちらっと見たのか?」

「カマの温度とにらめっこだ。……見てもせいぜい、温度計……だけだ」


 何を馬鹿な事言っていると、湿った薪の匂いのする息子の頭を軽く引っ叩く。


「母ちゃんよ、別嬪さんはどえらい奴か?」


 思わず私は大きく頷いた。


「白魚のようなツヤツヤの肌、何ら恥じる事もないような気前の良さでチャキチャキっとしたイイ女だよ」

「……それは、母ちゃんに似ているって事か?」

「ああ!?なんだい?母ちゃんは別嬪じゃないっていいたいのかい?」


 うちの息子も言うようになったじゃないか。帰って来たばかりの頃は塞ぎこんでいたが、人間考えないで動いていれば何とかなるとは言ったもんだ。

 腕まくりをしてみせると、慌てて飯をかっ食らう。


「カマ見て来るわ!!」

「こらぁ、逃げるんじゃないよ!」


 まだそれほど時間は経っていないが、帰ってきた当初を思い出せば今の息子はかなりいい状態だろう。わがままかもしれないが……他の戦争帰りの人達みたいにはならないで欲しいと願うばかりだ。


「で、その別嬪さんを……わざわざ話題に出すなんて、どういう風の吹き回しだ?」


 爺さんが私に聞いてきた。


「いやね、昨日の夜営業が終わって、今朝の朝風呂と昼もそうだったみたいなんだけどね、女湯だけ肌がツヤツヤになったって、客が言うもんだからさ」

「……男湯の方では聞いてないぞ?」

「だよねぇ?何かウチの湯でトクベツな事はしていないだろう?」

「カマも触らせていないのに、水に細工なんてできやしないだろう」


 そうなんだよねぇ。と、悩むのだが今朝から何故か女湯の調子が良くて、それに何かきっかけがあるとしたら、思い当るのは別嬪さんだけ。

 ただ、たった一人の客が湯に浸かっただけでそんな効果があるとは思えないわけで。


「まるで狐にでも化かされたような気分だよ」

「化かす狐があの戦火を抜けるか?」

「……だよねぇ」


 少しだけしんみりした空気になりながら、私も夕飯を済ませたら番台に戻りましょう。


 昨日より少し遅い時間に、頬を赤らめながらも紫乃ちゃんと一緒に別嬪さんが来店。

今日はさらに友達まで連れて来て、昨日と変わらずいい脱ぎっぷり。

 そんな様子を番台から見ていると、奥の方で女性陣がひそひそとは言えない大きめの声で噂話を始めた。

 その噂話はあの別嬪さんの話みたいで、どうやら銀座で占いをしているらしく、世の男どもが平伏すようにわざわざ占って貰う程。


「平伏してまで占って貰う……ってのは言い過ぎだろうけど、アレだけの美貌だったら、男どもが放っておかないのは頷けるね」


 噂話って言うのは、大体が嘘八百。本当の割合なんてほんの少しだろうけど、アレだけ綺麗だとやっかみもあるんだろう。

 ウチで湯に浸かっている間ぐらいは静かに疲れを癒して貰えると嬉しい、なんて思っていたら、番台の下の所が鈴を鳴らす。


「ったく、何をうちの息子はやってんだい……」


 この鈴は客のいる洗い場や奥のカマの方で何かあった時に鳴る呼び鈴みたいなもの。

 ちらっと男湯を覗くが変な所はなさそうで、すぐに女湯も同じように覗くとのぼせた客がいる様子。

 あんまり贔屓するつもりはないけど、雑でいいから少し涼めるように休める場所を作ってあげると紫乃ちゃんが渡してきたので、お友達を受け取る。


「冷めちゃっただろう?温まりなおしてきな」

「みょーちゃんの事、よろしく」


 今日連れて来た子はみょーちゃんって言うのかい。

 横にした女の子は幸せそうにのぼせていて、男には見せられないような変な笑い方をしているのが面白い。


「……バカ息子はのぞき見していたみたいだね。ったく……変な所ばっかり爺さんに似ちゃって」


 カマを見るという言い訳も、怒られずに女湯をじっくり見られるからという理由だと孫娘の私が知らないハズないと分かりそうなものだが、男というのはしょうもない。


「息子には拳骨一発。爺さんにしっかりと基礎から叩き込んでもらって、本人が嫌がっても、この店を継がせるしかなさそうだね……」


 戦地帰りで甘やかしていたけど、そろそろいいだろう?

 ただまあ、ココを継がせるなら……ほかの店とは違う何かでもあったらいいんだが……あの別嬪さんなら、何とかしてくれないかね??




家のお風呂とは違う、銭湯のお風呂。

広さなのか、家の人以外がいる事がなのか。

なんか、いいんですよねぇ。


家にお風呂あるのに、銭湯いくの?って思うかもしれませんが、たまーに行きます。


休日の行き先がスーパー銭湯とかもちょっとした小旅行気分でありなんですけどね。


普通の銭湯も普通の銭湯の良さがあり、スーパー銭湯はスーパー銭湯の良さがあります。


あ、覗きは犯罪ですよ?時代的にとかあったりしそうだなーって……コレは完全な創作ですからねっ!!!

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