6.ながれにノって
3/3です
「来るまでは、いいよね?」
……さて、何度目になるかわかりませんが、流れに乗っていれば何とかなるということで今はそのままいる事に。
ただ、この洋食屋さんは入る前から分かるぐらいの賑やかのお店。
私達以外にも奇麗な人も面白い人も色々と居て、退屈しそうにはない空気。
「ねぇあんた、芝浜のおっかさんみたいな人かい?短期かもしれないけど、お名前は?」
「ん?私?……私は、タエよ」
「へー、タエさんか、奇麗だねぇ。どのぐらここにいるんだい?」
「んー、分からないけど……いられる間は出来るだけ?」
「コレだけ奇麗なら、おかみさんや大将も残してくれるよ」
「そうだといいんだけど……」
そんな他愛もない話をしている間に、開店の時間を過ぎ、店内は次々とお客でにぎわい始めた。
ここでの作業は初めてだったので少しだけ先輩方の動きを観察する。
さっきおかみさんが言っていた言葉を反芻しながら、視線を先輩方に向けた。
「お客さんの所に行って注文をとって、メモに書いて大将に通す」――
そして、厨房から出されたお水をテーブルに運ぶ。
一連の流れを理解した私は、気合を入れ直していたところで、女給を呼ぶ声が聞こえた。
すぐにお客さん所へむかうと、ぱっと見て分かるほど上等な服を着たいかにも若旦那と呼ばれそうな男性だった。
「おお?また新しい別嬪さんだねぇ、こりゃぁ。今日のオススメは?」
そんな事を聞かれるとは思っていなかったので一瞬ピタリと止まる。
答えが出ない事は分かっている。
こういう時は聞くに限るわけで。
「オススメですか?……うーん、確認してきます」
「ふふっ、そうしてくれるかな?」
オススメを尋ねられたので、厨房の方に向かいながら、少し大きめの声で確認する。
「大将?今日のオススメ、なんですか?」
「今日のオススメは、新鮮な卵が入ったからオムレツだ」
「分かりましたー」
オムレツだと聞いて、頭の中はわちゃわちゃし始めたのですが今はお客さんに伝えるのが先決。すぐに戻ってオムレツがオススメだと伝えると、注文を頂けた。
もう一度戻り、メモに「オムレツ」と書いて大将に注文を通す。
「オムレツ一つ」
「はいよぉ」
注文が通り、再びどうしようかと考えながら先輩達の観察を再開すると、どうやら注文を受けた人が出来上がった料理を持っていけばよく、一人で何人も覚えられるのであれば、どんどん注文をとっていいと理解した。
そんな感じに理解が深まった頃、戻ってきた若い女給さんがおかみさんに手招きされているのに気づき、ちらりと様子をうかがう。
「あのお客さんは手が早いから、入れ込むんじゃないよ」
「えぇ、シュッとして良さそうですよ?」
「見た目だけだよ。気をつけな」
「はーい」
そんな注意が飛び交う中、女給同士でも「あの人は紳士だ」「こっちの人はプレゼントをくれる」などと話題になり、店内は少しばかり賑やかな空気に包まれていた。
「八番さんのオムレツ上がったよ」
自分が注文を通したモノが出来上がったみたいで、返事をして客席へ給仕する。
そのままおかみさん達の居る所へ戻ると、おかみさんが思案顔で、さっきの子と同じように私を手招きする。
「はい、なんでしょう?」
「なんでしょうって、……あんた、今日頼んでいた子じゃなかったんじゃないのかい?」
「あー、ええ。バレちゃいました?」
どうやら今日入るはずだった女給さんがようやく到着したようで、おかみさんの後ろで小動物みたいペコペコ頭を下げている。
奇麗と言うよりは愛嬌のある可愛らしい子で、少し潤んだ目でこちらを見つめてきた。
「時間帯もギリギリだったし、確認しなかったあたしも悪いけど、言ってくれなきゃ困っちゃうよ?」
「そうですね。ちょっと流れ着いた先だったので、お仕事にありつけるならいいかなって場の流れに乗っかっちゃいましたよ」
「まあ、ウチは御覧の通りだから人が多い分には困らないんだけどさ、どうしたものかね」
どうやら、おかみさんは私達を今すぐに追い出すつもりはなさそう。
けれど、決定権は大将にあるらしく、どうしたものかと考えあぐねている様子だった。
「お邪魔でしたらすぐに出ますよ?」
「なんというかこっちの都合で手伝って貰っちゃったのに、悪いね?」
久しぶりのアルバイトみたいなものだったけれど、店の雰囲気や空気を楽しむこともできたし、ちょっとだけ懐かしさも思い出せて、私としては十分に満足していた。
けれど、そこの間に入ってきたのは、さっき声をかけて来た、不思議系でどこかしっかりしていそうな子だった。
「芝浜のおっかさんみたいなタエちゃん、辞めちゃうの?」
「元々の予定じゃなかったからね」
「えー、おかみさん、タエちゃんの身元が保証できれば大丈夫?」
「そりゃまあ、保証してくれるのなら助かるけど、……紫乃、あんたそんなこと出来るの?」
「私は無理よ。お金があったらすぐに寄席に行っちゃうし……って、そんな話はいいの。ほら、この若旦那なら」
紫乃ちゃんが視線を向けた若旦那は、こちらの賑やかな様子を気にしたのか、半分ほど残っていたオムレツをそのままに立ち上がり、私たちの方へ歩いてきた。
「その子が、どうかした?」
どうやら紫乃と若旦那は知り合いらしく、彼は今にも「子猫ちゃん?」と言いそうなほど柔らかな声で尋ねてきた。
「数日でいいから、一緒に働けたらいいなって」
「ああ。数日間の保証が必要ってことだね?そのぐらいなら、まあいいよ」
「流石っ若旦那。茶の湯の若旦那みたいだぁ」
「茶の湯の若旦那?あれは結構失敗も……いや、まあ、うん。……その辺りはいいとして。数日なら、いいぞ?」
あれよあれよという間に、自分の思ってもいなかった方向に話が進んでいき、どうやら首の皮一枚、つながったらしい。
「そうと決まったら、ちゃっちゃと働いとくれ。若旦那、帰りに大将に伝えておくれよ」
「ああ、もう少しで食べ終わるから、話はその時に」
ちょっとした夕飯を楽しむつもりが――どうやら、もう少しだけここに居て良さそうです。
本日はここまで。
話で言うとやっとなんとなくわかってきたところ。
正直を言えばここまで初日に読んでもらわないと評価もなにもつけられない気がしていましたが……ストックが無いのです(笑)
いつもの事ですが、折角の楽しみになるように……という作者の余計なお世話が本当に余計になってしまったパターンですね。すみません
ストックがあれば話数が増え、無いと一話。かな?
★ポチ、ブックマーク、等々の応援がやる気にもつながります。長い目で見ていただけると嬉しいです。
次の更新も大安になります
よろしくお願いします