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世界は裏でまわってる  作者: 最上 品
57/60

57.夜食革命

3/3

本日、ここまでです。


「ん?なんだ……コロッケは冷めているのか?」

「ええ。熱々の出来立てコロッケは美味しいですけど、しっかりと中まで冷めている方がおいしいんです」

「……冷めた方が美味いなんてそんな事ないと思うが、な」


 半信半疑よりは疑いが強そうな目で私を見てきますが、コロッケから脂の旨味がそばつゆに移り始めているのか、かけ蕎麦にはないちょっとだけいい香りが鼻孔をくすぐり始めます。


「ささ、冷めないうちに食べましょう」


 おっちゃんと紫乃さんそしてみょーちゃんに声を掛けて、しっかりと「いただきます」と声を上げてからズズズっと蕎麦を音が出る程強めに啜り、一口だけコロッケを齧ります。

 悲しい事に、二人の言う通りでそば粉が少な目と分かる美味しい蕎麦というにはちょっと物足りない蕎麦ではありますが、空腹という何よりものスパイスがついている状態の私にはその物足りなさが逆にプラスに働き、物足りないという感覚を埋めるように齧ったところからにじみ出たコロッケの旨味が蕎麦に絡みます。


「やっぱり、半分だと緩くなりやすいですね」


 割って齧ったコロッケが入っているのとちょっといい所のコロッケというのもあってか衣もしっかりと大きめのパン粉を使っているので周りが結構な勢いでゆるゆるになりますが、その分旨味がつゆに溶けだし通常だとジャガイモも溶けやすくなるのですが、いまだに形を保っているのはしっかりと中まで冷えているからでしょう。


「なんだぁ、こりゃぁ」


 かなり大げさだなぁと横を見ると、蕎麦を啜りさらにコロッケを一口で半分まで齧っている屋台のおっちゃん。

 個人的にはそんなに齧ってしまうと残りはいつものかけ蕎麦になってしまうので、大事にコロッケは食べた方がいいと指摘したい所ではありますが、食べ方は何がダメなんてことはなく、最終的に美味しく食べられればいいので何も言う事はありません。


 そして、そんな私達とは正反対に、いただきますの声の後から静かな状態になってしまったのが、紫乃さんとみょーちゃん。

 しっかりと蕎麦を啜り、めんつゆも飲み、コロッケも楽しんでいるのは見えているので、この様子を見る限り口に合わなかったという訳ではなさそうなのですが、それにしてもかなり静か。

 何故か、一人飲んでいた客のゴクリとつばを飲み込む音まで聞こえるほどの静けさで、それでもふたりの箸が止まる気配はなく、一定のペースで黙々と食べ続けている。


 周りの様子を気にしている余裕があるのかと言われると、このちょっとした隙間時間はコロッケをトロトロに溶かしてしまう為の時間。

 中のジャガイモが溶け始め、ちょっとだけ入っている肉もつゆの下の方へ落ちかかっている状態。

 あえてこれを待っていたのですが、人によってはわざとコロッケをじゃぶじゃぶと泳がせて、この状態を人工的に作る人も。

まあ、時間がどうしてもない場合はそういう事をしてしまうのも分かりますが、それだと旨味が全体に染みわたらない気がするので、私的には“ちょっとだけ待つ”というこの行為が大事な時間。


「さ、一気にしめましょう」


 蕎麦も少しだけノビはじめていて、色々とグダグダにみえますがそれも含めてのコロッケ蕎麦。

 蕎麦の麺をつゆの下の方へわざと押し込み、その後にもう一度啜ってあげると肉の旨味が追加された蕎麦に変身。

 蕎麦を啜り、つゆを飲み、もう一度蕎麦を啜れば殆ど蕎麦はない状態に。

 あとは汁ごと一気にグイっとお酒を煽るような勢いで器を傾けて飲み干してしまえば、完食です。


「ぷはぁ。……最高ですね」


 小腹を満たすには少しばかり足りない気もします。

でも、いいコロッケだったので問題はなかったはず。

同じタイミングで食べ始めていたおっちゃんを見るとかなり驚いた顔で、空っぽになった器から目が離せないで固まっている。

 更に、隣をみると何も言わなかった二人も満面の笑み。


「こりゃあ、参った。酒に、きつね蕎麦だったな?ケチ臭い事言ってらんねぇぐらい、美味かった」

「今回はいいコロッケのお陰もありますが、そこらへんのお肉屋さんのコロッケでも十分、美味しくいただけます。ついでに言うと、洋食屋さんと蕎麦屋は相性がいいんですよね」


 私の言葉に三人が眉をひそめます。


「コロッケ、カツ、カレー、エビや牡蠣フライなんかもそうですが、蕎麦に合う食材ばっかりなんです」

「コロッケは今食べたけど、カツレツと蕎麦?カレーの蕎麦は良さそうだけど……」


 紫乃さんが真っ先に反応します。


「紫乃ちゃん所は流石にこんな屋台の蕎麦屋には卸してくれないだろう?」


 当たり前だという顔の後、ぶるぶると顔を強く左右に振ってから紫乃さんがイーっと威嚇する。


「普通に、カレーを鍋一杯売って貰って、それをそばつゆで伸ばせば、数十杯分にはなりますし、お肉屋さんもその内カレーを作ったりするかもしれませんから、お肉屋さんの横で商売させてもらうとか、今のままでも出来る事はありますよ?」


「なんと、そんな事だけで?」


おっちゃんにとっては正に目から鱗。

コレは絶対儲け話だと思わず口元がニヤリと緩む。

もっとこの別嬪さんから話を聞かないと損だと思ったおっちゃんがこぼしそうな勢いでコップに日本酒を注ぎます。




コロッケ蕎麦な回がつづきました。


コロッケ蕎麦愛が溢れんばかりにありまして、この愛が少しでも伝われば嬉しいです。


基本的には、立ち食い蕎麦屋さんで食べるイメージですが、コンビニでもありますし家でやってももちろんオッケー。

人によっては懐疑的であったり、コロッケはコロッケ。蕎麦は蕎麦。という人が居る事も重々承知しております。


ナスが嫌いな人に、これ美味いから騙されたと思って……といいたくなるぐらい美味しいナスだとしてもナス嫌いの人はナスは嫌いみたいなので(笑)、コロッケ蕎麦を無理強いさせるつもりはありませんが、そういえば食べたことなかった、とか、嫌いじゃないけど言われてみるとやったことなかった、なんて人にはお勧めです。


騙されたと思って……はあんまり信用のない言葉ですから、私は使わないで伝えたいのですが……


気が向いたら、やってみて下さいな?(コンプライアンスってなにも言えなくてスゲー(笑))


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― 新着の感想 ―
スーパーで半額コロッケを手に入れるか… (冷凍コロッケあげたやつだと、熱々になっちゃう)
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