表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界は裏でまわってる  作者: 最上 品
45/60

45.今夜のひとさじの魔法

3/3

本日ここまで


 スプーン一杯の魔法。

 一番喜んだのは、女給仲間で間違いないわけですがなんと涙を流す子まで現れて。


「え、え?えぇ??」


 昨日とそこまで変わらない工夫であるラードをとった肉カスを味噌汁に入れただけでこんなことになるとは思っていなかった私としては、予想以上の反応に慌てふためきますが、周りの仲間との温度差は激しいモノ。


「美味しいわ」

「沁みるわねぇ」

「もやしの味噌汁ってたまに酸っぱいから嫌だったけど、これなら大丈夫だわ」

「え?酸っぱいって、危ないんじゃないの?」


 うちは貧乏でギリギリダメでも食べるのよ、と笑って誤魔化す女給とドン引きとまではいかないまでも、それは流石にマズいという顔をするのは調理経験のある女性や大将。


「ウチで出す賄いではないぞ?」

「え?ああ、家でやる味噌汁よ。ココの賄いでそんな事一度も無かったわよ?」


 マズイ発言だったと理解した先輩はいきなり両手をパタパタさせて、発言を誤魔化すように変な動きを始める。その感じが休憩時間といういつもの空気に変化させ、場の様子もゆっくりと追いついてきて、賄いを食べ始めていた順番の女給も笑顔に。


「今日の出囃子は?ナポサンド?」


 そんな事を言いながら、片手にお椀をしっかりと持ったまま奥からふらりと出てきたのは紫乃さん。


「よくわかったな。その通りだ」

「ふふん。お昼から揚げ物ばっかり出ていたから、もしかしたらって思っていたけどあったり~♪」


 ニヤッと笑う紫乃さんとそわそわし始めるほかの女給さん達の様子が少し不思議に思っていると、おかみさんも味噌汁を啜りながら話し出す。


「大量には出ないけど、横浜から流れて来た軍人さん達が作ってくれって。えーっと、ナポリタン?とか言ううどんみたいな麺モノを頼む人が結構いてね。その具材の用意が余ると、そのまま今日みたいに賄いになるんだよ」

「という事は、ナポリタンのあまりですね」

「そうだね。まあ、タマネギとピーマンにウチはベーコンかハムだね。それにトマトも使うし、値段が高くなっちゃうけど、好んで食べる人も少なからず居てね」


 毎回大将がしっかりと用意するんだよ。と、おかみさんは小さい声でぼやく。

 この時代の加工肉はまだまだかなり高級品。場所が場所なだけあってお金を出せば食べられるモノの、この時代では安いモノでもないハズ。


「賄いに出すには惜しいぐらいいいモノだが、捨てるのはもったいないとなれば、まあこっちに回すしかないわけだ」

「流石にそのままを全員に分ける事も出来ないから、パンの具材ってわけですね?」

「パンだって安くは無いが、本場の麺を使うよりはかなり割安だからな。って、その様子だとタエはナポリタンを知っているな?」


 大将が聞いてきたので、大きく頷くとその様子に驚くのは他の女給。


「って事は、タエさんはナポリタンも食べた事あるの?」

「え、ええ。私はベーコンよりソーセージの方が好きですけどね」



 勿論何度も食べていて、なんならちょっとパスタを休ませてモッチモチにした昔風ナポリタンの方が好きですなんて、話をしそうになったのですが慌てて私の口を止めるように動いてくれたのは、みーちゃん。



「じ・だ・い!!って、なんで気にしないで手を伸ばそうとしているの!?つっちー!!」

「目の前に美味しそうな賄いがあるのに、手を伸ばさないのは罪。このナポサンドは私のモノ」

「えー、ずーるーいー。ちゃんとみんなで食べよーよー」

「ココでもし独り占めをするのであれば、明日もご飯抜きでいいって事?」


 つっちーとふーちゃんが抜駆けをしようとする事を察して、ひーちゃんがそう言うとビクッと停止する二人。

 ひーちゃんの目が本気だと分かったみたいで、シュンとする二人。

 そして、ホッとしたみーちゃんがタエに向かって、もう一言。


「まだこの時代はそこまで一般に普及していないからね?あと、みんなが我慢できなくなりそうだから早くパクっと食べちゃって?ここで誰かが出たら、多分今度は問題になる……かも」


 シュンとしている二人と同じようにシュンとしたみーちゃんに寄り添いながらいい子いい子と頭を撫でるひーちゃんはやっぱりお姉ちゃんって感じで、脳内も一段落ついたっぽいので、周りにもう一度目を向けます。


「えーっと、色々とまわっているんですよ」

「まあ、タエちゃんいい所のお嬢様っぽくもあるけど、お仕事はテキパキ出来るし……ちょっとだけチグハグだけど……って、さっきちらっと聞いたけど占いが出来るの?」


 紫乃さんがフォローをしようとしたみたいですが、その流れの中で思い出したように確認をしてきます。


「え、ええ。カード占いですね。昨日も今日も昼間は工事現場近くでやっていますよ」

「みーんな気になっているのよね?」


 紫乃さんがそう言って、ぐるりと見回すと大きな頷きを返す先輩達。


「本当は一人ずつ占って、あとは御守りとかを渡していますが……うーん、食べ終わった後――いえ、片付けも終わった後に一気に、占いましょうか」


 片付けはどうするって大将の目が怖かった何て事、ないんですよ?

 おかみさんも笑顔で頷いて、賄いのお手伝いが終わったはずなのに忙しさの予感――。




前回の魔法同様、現代でも美味しくいただけるコクを生み出すラードな魔法の一杯です(笑)


ご存知の方が今は多いとおもいますが(テレビなどのクイズ番組でもよく出るので)

ナポリタンって日本発祥。それも横浜。

たしか、ドリアとかプリンアラモードとかそういうのもここだった気も。


戦後復興で今の日本の下地がどんどん出来て来る、そういう転換点な時代を感じて貰えると嬉しいです。



本日も読んで頂きありがとうございました。

次回の大安吉日もお待ちしております。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ