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世界は裏でまわってる  作者: 最上 品
44/60

44.よやくとヨハク

2/3


 追加の酒注文が入ったので、空いていた徳利をお盆に乗せる。大工さん達から離れ厨房に向かおうとしたところ、途中で先輩女給さんがクイクイっと前掛けの端を引っ張りました。


「どうかしました?」

「ねえ、今の話って……本当?」


 スッと近寄ってきた先輩女給さんが耳元で確認をするようにちょっとばかり目を輝かせて耳打ち。


「今のはな――」

「占いよっ」

「ええ。昼間は――」


 工事現場の裏の方でというよりも先に、グイっと顔を近づけて来る先輩女給。


「今……は、無理だから。賄いの後、なんならお仕事の後でいいから、お願いできる?」

「それは……まあ、構いませんけど。一応、おかみさんや大将に確認を――」

「それは私達の方でやっておくから、絶対に、絶対に時間を作ってくれる?」


 とっても真剣な表情の先輩が出す空気に、ノーという言葉が出せる状況でもなく目を見ながら頷きを返しました。


「ありがとう。楽しみにしているわ」


 目にもとまらぬ速さで現れて、去っていく風のような先輩女給。あの人がいいなら、私も気になっていたのよねと言わんばかりの圧のある視線が一斉にこちらを向く。

 元々、誰かだけを占うなんてことは出来ないとは思いつつも、女給仲間全員を占う……ことは難しそう。


「何かいい方法も考えないと……ダメかなぁ」



 追加のお酒を持って、大工さん達の所へ戻りお酌をしていると周りからも声が掛かり、ある程度忙しい時間を過ごしていると不意にニヤッと笑った大工さん達。


「俺達はそろそろ帰るが、女給さん達に迷惑をかけるんじゃねぇぞ?もし、迷惑をかけられたなんて話でも聞いた時には……」


――ゴクリ。


 そう言って店内をぐるりと一周見回すと、紳士風な男が唾を飲む音を鳴らし、その音が皆も聞こえるぐらい一瞬の静けさが店内を包む。そんな中、この空気を破ったのは一人の女性。


「五月蠅いね?あたしが居るのに迷惑を掛ける馬鹿なんていないんだよ」

「――ココのおかみは流石だな」


 張り詰めた空気という程ではないものの、食事処という空気感ではなかった場をさらっといつもの状態に戻したのはおかみさん。

 大工さん達のお皿や徳利は空っぽで帰るつもりがある事を察したのでしょう。


「五月蠅い客はさっさと出ていきな。もう食べ終わったんだろう?」

「だな。タエさんの酌で飲む酒は最高だったよ。ああ、大将の料理も、お勧めもバッチリだ」


 笑いながらも大工さん達がお会計をし始めると、おかみさんが大工さん達と小さな声で話しているのが聞こえます。


「珍しくお酒の注文が多いからそろそろと思っていたが、助かったよ。ありがとうね」

「いやいや、迷惑かけちゃまずいからな。近場の誼ってやつさ。美味かった、ご馳走さん」


 キップのいいやり取りに目を輝かせる女給仲間もいるのですが、一度戻った空気というのは再び変になる事無く大工さん達がお店を後にしても、次の客がどんどん入り昨日以上に賑やかな時間を過ごすことに。


 忙しい時間は時を忘れるもので、二時間程の入れ代わり立ち代わりの客達を捌き、入ってくるお客さんより出ていくお客さんが多くなって来た頃、おかみさんが声を掛けてきた。


「いい客を持ってるね。さっきは助かったよ」

「ええ。本当に大工さん達には大助かりです」


 少しだけ思い出すように目を細めて返事をする。

「で、今日も悪いけど賄いに一手間、みんなが欲しいってさ」


 おかみさんがちらっと他の女給仲間を見ながら、私が頼んでいるわけじゃないって顔で言います。


「あー。はい、じゃあちょっと客席を抜けますね?」

「頼むよ」


 テーブルを他の女給仲間に任せ、厨房に入るとジッと強めに大将が見てきます。


「ラードを今日も入れるのか?」

「そのつもり……だったのですが、今日のオススメのコロッケってラードを作ったって事ですよね?」


 お客さん達べた褒めの今日のオススメのコロッケは何と言ってもラードで揚げるから衣まで美味しいわけで。


「そうだ」

「じゃあ、くず肉……まだ多少残っているのでは?」

「ああ。全部コロッケに入れると中から脂っこくなっちまうから、半分は残っているぞ」


「よしっ」


思わず出た声と、小さくガッツポーズをしながら、それが欲しいと伝えると本気か?という目。


「今日はラードではなくこっちを貰いますね」

「肉の脂が浮くぞ?」

「ええ、具材代わりとコクがでますし……って、味噌汁の具は?」

「昼に思ったよりも出なかったから、残ったもやしだ」


 もやしに残りのくず肉がみそ汁の具となるわけですがもやしがあるのでしたらさらに一手間加えた方がいいハズ。


「ちょっと包丁を借りますよ?」

「それはいいが、何するつもりだ?」

「そのままの大きさだと流石にデカすぎるので、もう少し細かくするんですよ。ラードをとった、くず肉をね」


 くず肉を小さくしていけばひき肉のような感じにかなり近くなるのでもやしと相性も良くなるはず。まあ、大将の言う通り、入れすぎても脂っこくなるだけ。なので、飲む人のお椀に追加でスプーン一杯だけ。今日のお味噌汁も美味しくいただきましょ。







書いている時、大体お腹減ってます(笑)

いや、空腹は最高のスパイスですねー。


まあ、空腹すぎるとそれはそれで頭が働かないんですけどね(笑)


いい塩梅って、難しいナ~

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