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世界は裏でまわってる  作者: 最上 品
31/60

31.閑話 屋台の主人/橋の先に名物を!

ギリギリ今日も1/3となります


 市場で屋台をやっている奴はこの時代かなり多く、その中でも焼きそばは屑野菜を使っても、肉カスなどを入れても具が多いといえば売れるから、ありがたいもんで。

 今日もそれなりに稼がして貰ってはいるものの、こんな状況がいつまでも続くとは思ってはいない。

ただ、なにかを新しく始めるきっかけの一つでもあればいいと、いつも思っていたところかなりの別嬪さんが喧嘩の真っただ中にひょいっと現れ、みるみるうちにスパッと解決。

 いやぁ、見ていて惚れ惚れしたねぇ。

 勿論俺達は見ているだけで、ただボウルを貸してくれと言われたので言われた通りに貸してあげただけだ。


「おいおやじ、見ていたか?」

「ああ。なんか美味そうなモン作っていたな?」

「アレは子供が食べる菓子だろ?見た感じどんど焼きっぽくも見えたが」

「この辺りだと、文字焼きからのもんじゃ呼びだな」


 ああ、いわれてみれば。もんじゃな。

 ただ、あれは子供が遊びながら食うもので、旨いもんじゃ……って、鰹節を入れて出汁を足し、本当はもっと野菜も入れる?

 それで作っていくんだったら、殆どちゃんとした料理みたいなものじゃねぇか。


「ボウルを返して貰うときに聞いたら、もっとソースや醤油も足すし、旨くしたいなら卵や野菜も入れるとかいっていたぞ?」

「卵は……高すぎるだろ?ソレに野菜はまあ分かるが、客に調味料を入れさせるのは……もっと無理だろ?」


 まだまだ物のない時代に偉く贅沢な話をしていると思っていたがおやじは違うものを見ているみたいだ。


「今は、だな。この活気があれば、十年……いや、数十年あれば日本がまた日本らしくなるだろ」

「負けたばかりなのに、やけに前向きだな?」


 俺が問うとおやじが笑う。


「そりゃそうだ。負けてなんもかんも無くなった。背負うものがなくなった人間の強さってものは、ばかに出来ねぇ……」


 目を瞑れば、思い出したくない空気まで一瞬で戻れるが、すぐに目を開けて首を振る。


「……俺の周りは半分以上死んじまったから、俺にはよくわかんねぇな」


 ぽつりと俺が零した言葉におやじは背中を強く叩く。


「死んだ奴等の為にも、前以上にするんだよ。無駄死になんて可哀想だろ」

「そういうもんかね」

「そう言う風に生きてりゃ、また会えるだろうからな」


 そう言うおやじは片手が無くて、なにか戦場を思い出している様子が伺える。


「この辺りは市場があるが、たった橋一つ越えた先のうちらが住むところには名物が無いからなぁ。いっちょコレを名物にでも仕立て上げるのもいい仕事じゃねぇか?」

「コレって、いま言っていたもんじゃか?」


 おやじは手が無い腕をぐるぐる振るう。


「おうよ。元々菓子なんだろ?そうだな――出汁が決め手!!とでも名うって、この界隈だからこそ賑わう飯っていうのもいいだろうが。それと、さっきの兄ちゃんが言っていたような踊り節もいい思い付きだし使わせて貰おうじゃねぇか」


 ちょっとした思い付きにしてはかなり雑で、将来の展望もくそもありゃしねぇのに……何故かその言葉はグッと惹かれるものがある。


「焼きそばはどうするんだよ?」

「同じ具材でやれるだろ?ソレに、さっきの食べ方を見てアレだけじゃ満足いかねぇだろ?」

「だよな。って事は、何個も注文して……」

「だったら、酒があった方がいいな?ついでにこの鉄板を使うんだから、どんど焼きや焼きそばも出したってイイだろ?」


 おやじがニコニコと生き生きと話し始めると、やってやれない気がしないもので。

 ここでやっている屋台がいつまでも続くとは思っていなかったが、地方に戻る軍人も結構いて、こういう屋台の横のつながりって言うのは馬鹿に出来ず、故郷に戻る人達にとって鉄板などは邪魔な荷物になる人も。


「格安で鉄板を引き取って、そこら辺の加工場にもっていって、ああ、後はこたつみたいな方がいいか?低い机で食べるような形だと腰を据えるから、酒が売れそうだろ?」

「それなら冬はワタ入りの掛け布団も用意して、さながらこたつに入り、焼きそばやもんじゃ、どんど焼きが食えるってのは……いいんじゃねぇか?」


 おやじと二人、話が盛り上がってくると何とかなりそうな気がしてくるもので。


「ただ、いきなりあれを食えって言われても、食い方もそうだが、なんだこれって言われそうだから、戦略がちぃとばかし必要だろうな?」

「だったら、さっきの乾物屋の姉さんにうちの店に卸しているって話をしてもらって……」

「それもいいが、この屋台で日本酒置いて、もんじゃを食わせて酒が合うって――だと、少し足りないか?それに市場の人間はチャキチャキしているから、さっきの別嬪さんみたいな一般客を狙う方がいいか」


 鉄板を囲って、酒を飲みながら鉄板の上の飯を食う。

 それは見るだけでもちょっと寄りたくなり、更に美味そうな香りや見た目が市場で他の客の目を引くわけだ。

 まあ、そんな想像通りに何でも上手くいくわけじゃないだろうが、屑の野菜をたっぷりだのなんだのと半分騙した様な事を言う様な焼きそば屋よりは真っ当で面白そう。


「おやじ、俺達コレで一旗揚げようぜ?」

「おうよ。橋の先にも名物を作って、有名になりゃぁさっきの別嬪さんも遊びにくるだろうさ」


 フフッとおやじが笑うと、俺が別嬪さんに一目惚れしていたことを茶化してきたが、その目標は面白そうだと、更に笑って誤魔化します。

 いつか、もんじゃ屋に別嬪さんが来ることを夢見て――いる。








テレビ番組などで「諸説あります」とよくありますが、どちらかと言えば私はとってもそういうのが気になるタイプ。

さらに言えば、本当は〇〇だった!とかいわれるのも、へーって。


そういう意味では、御寺巡りとか神社仏閣巡りも嫌いじゃないという自分の性格に納得が出来たりもします。


ちょっとだけ、挑戦的な試みとしてこんな閑話を入れてみましたが……。


コウだったら面白い、コウだったらいいなー?

結構、そういう気持ちってあったりしませんかね???

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