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世界は裏でまわってる  作者: 最上 品
3/12

3.きたえ

3/3


「よし、決まったし行こうっ!!」


 ふーちゃんが一人張り切って飛び跳ねると、慌てたのはつっちーだった。


「まだ、机も椅子も作ってない」

「そんなの着いてからパパっとやればいいじゃん?」

「……ただでさえ怪しい占い師が、その場で机と椅子を作りだしたらどう思う?」


 つっちーの真面目な顔の一言に、ふーちゃんはピタリと固まった。

少し考えたあと、誰も来てくれない未来を想像したのか、口をガクガクさせながら、必死に首を左右に振った。


「わかった。すぐ作ろう……。あれ?でも着いたらポンッて出すのも怪しくない?」

「そのぐらいは、……手品でしょ?」


 つっちーは無表情のまま、じっとふーちゃんを見つめる。それだけで十分な圧だった。


「……あー、うん?そうなの?」


 ふーちゃんは小首をかしげたまま、ひきつった笑みを浮かべる。納得はしていないけど、つっちーの無言の説得に押された形だった。


その様子がおかしかったのか、他の尻尾たちもくすくす笑い出す。ふーちゃんは照れたように頬を赤くし、誤魔化すように笑って見せた。


そんな中、つっちーだけは「むむむ」と真剣な顔になり、さっきヒイラギに使ったのと同じ魔力を込めて、境内の土を机と椅子の形へと練り上げていく。


「ちょっと嵩張るけど、ポケットに入れれば大丈夫」

「だな!」


 細かい事を気にしても仕方ないと悟ったのか、ふーちゃんは満面の笑みで即答した。


 そして一行 (?)は、神社を後にした。

 向かう先は、人通りがそれなりにあって、それでもあまり怪しまれずに済むような場所。


 まずは一本だけ裏道を抜けて表通りへ出てみると、人の姿が少し増えていて、なんとなく商売に向いていそうな気配があった。けれど、道端に座り込んでぼんやりと遠くを見つめる人や、ぶつぶつとうわ言のように何かを繰り返している人も多く、「ここじゃ無理かな」と、思った。


 それならいっそ、と人の流れに身を任せて歩いてみる。

 どこへ行くのかは自分でも分からなかったが、流れに沿って進んでいくうちに、いつの間にか骨組みがむき出しになった、広い工事現場のそばまで来ていた。


 木槌が何かを叩く音、一輪車が軋む音、そして職人たちの掛け声が混じり合っていた。その一方で、さっきも感じたいい香りが鼻をくすぐる。

ようやく腰を落ち着けられそうだと思った、その矢先、――大声が飛び込んできた。

 あまりにも突然だったせいで、思わず耳がぴょこんと飛び出してしまう。けれど幸い、周囲の人達もみな声のした方を振り返っていたので、見られずに済んだ。ほっと胸を撫で下ろす。


「二個目も行くぞ!」


――ガシャーン!!


 また重たい何かが地面に落ち、足元がかすかに揺れる。それでも少しは慣れたのか、今回は耳が飛び出さずに済んだ。


「さっきから言うのがおせぇ!落とす前にしっかりと言えよ!この野郎っ!!」


 怒鳴り返す声が飛び、そのやり取りに思わずひやひやとするのだが、どうやらここではそれが日常茶飯事のようで、周りは気にする様子もない。


「なんかさっきからいい香りしない?」


 ふーちゃんの声にみんなもうんうんと頷いた。焼き魚の香ばしい香りと味噌汁の暖かそうな湯気が混じっている。

 どうやら昼が近づき、周りのお店は活気づき、職人たちも昼休みの準備にそわそわし始めたようだ。


 キョロキョロと辺りを見回していると、背後から勢いよく声が掛かった。


「おい、そこの姉ちゃん、こんなところで何してるんだ?」


 振り返ると、昼休みを早めにとったらしい職人が、にこやかに笑いながら近づいてきた。


「占いです」


 落ち着いた声で笑顔もつけて言葉を返す。


「でも、何もないじゃねぇか。どうやってやるんだ?その占い」


 さらに微笑み、右手の人差し指をそっと口元へ持ってきて「しー」っという動きをして、その右手を右ポケットへ入れる。


「こんなこともあろうかと、用意しておきました」


 まるであつらえたようなセリフを言いながら、ポンッと飴玉でも出すかのようにポケットから机と椅子を取り出し、何事も無かったかのように椅子に座る。

 職人は目を開いたまま、まるで時間が止まったように立ち尽くしていた。


 職人がまだ驚いている内に、ポケットからさっき手折ったヒイラギを取り出し、机の上にそっと立てかけた。これで準備は整った。


「ね?占いできそうでしょう?」

「お、おう。すげぇな姉ちゃん!こんなすげぇ姉ちゃんならアイツを見てもらってもいいかもしれねぇ。姉ちゃん、名前は?」

「私?タエですよ」

「おう、だったらよ、タエさん。ウチの職人の一人さ、妙に不幸背負ってるようなやつがいてよ。一度みてやってくれねぇか?多分そろそろ飯食い終わって、こっち来ると思うんだ」

「ええ。構いませんよ」

「べ、別に疑ってるワケじゃねぇんだよ?でもよ、なんか――目ぇ離したらスッと消えちまいそうでさ。すぐ連れてくっから、頼むからここにいてくれ!」


 そう言って、職人はどこかへ走っていった。


「やったね、早速お客さんゲット!」

「あとは……怪しまれないように、“占いっぽいこと”をするだけ、かな」


 みんなもどこかワクワクした様子になっていた。





三話目まで読んでいただきありがとうございます。

タエたちの日常をこれから一緒に楽しんでいただけると幸いです。


気持ちとしては別作品同様、毎日更新を目指していますが、

約束通りプロットに沿って悩みつつ試行錯誤もしながら進めている為、

更新頻度はゆっくりめになります。

ですが、途中で投げ出すことはありませんので、気長にお付き合いいただけると嬉しいです。


ちなみに、今回の更新は赤口でしたので、

縁起を考えて昼のてっぺん三時間を選びました。

次回の更新は「大安」でお会いしましょう。

出来る限りの運を込めてお届けします。

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