20.せいきょうと逆位置
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あともう一話
昨日と打って変わって、思っていた以上の盛況な状態の午前。
気がつけば、ちょっとした賑わいの中心に。
「……なんでこんなにお客さんが?」
昨日のお店で宣伝をしてみたり、誰かに話をしてみたり、そう言ったことをした覚えは全く無いのですが……なぜこんなことに?
「億万長者も夢じゃない!」
「お金はあって困らない!」
「でも、本当にナンデ?」
「美味しいモノがこれで買える?あ、でも忙しすぎると……困る?どうしよう?」
みんな自分の都合を考えている様子ですが、何があったのか分からずとも忙しさは時間を消費してくれて、更に稼ぎもいい形に。
「おいおい、こりゃあどうした?」
「あ、大工さん?」
私の一言でそこら辺に居る数名の大工さんが呼んだ?って顔をしてこっちを向いてくれるのですが、私が声を掛けたのは場所取りをしてくれていた親方みたいなこの人の事。
「タエさんよ、大工さんはこの辺りの男衆みんな一緒だ。一応棟梁って呼んでくれよ?」
「ふふ、そうでしたね。棟梁さん。時間的に休憩ですか?」
「おうよ。しっかり働く人間はしっかり休む必要もあるからな。タエさんもしっかりと働いているんだし、ほら、並んでいるのは分かるがちょっとばかり休憩だ。一回散れ散れ」
棟梁さんの一言で、数名ほど並んでいた列も解散。
気を利かせてくれた大工さんの一人がコップに入れた水を持ってきてくれます。
「あ、昨日はありがとうございます」
「いえいえ。元気なお子さんが生まれるといいですね」
「え、ええ。みんなも占いの後からいっそ優しくなって。嬉しいです」
頂いた水を飲んだつもりだったのですが、どうやら水ではなく麦茶だったみたいで棟梁がニヤッと笑います。
「ありがとうございます」
「ここらの大事な人だからな。それぐらいの役得はいいだろ?」
丁度いい休憩をとることが出来、ゆっくりと雑談をみんなでしていたのですがどこの世界にも空気を読まない人というのは居るもので。
「おお?もしや、そこのお嬢さんが噂の占い師さんかな?」
そんな言葉を投げかけて来た男性は、仕立てこそ良さそうだが、やけにテカリがあり縞模様のダブルの背広とどぎつい真っ赤なネクタイというチグハグな紳士風の男性。
「昨日から占いをさせていただいているのは私ですが?」
「では君なのだね?何やら特別なカードを使った占いだと聞いたが」
「ええ、カードで占いをさせてもらっていますが……今は御覧の通り休憩中で……」
「ふむ、すまないがこの通り私は忙しい身でね?すぐに占いをしてもらう事は出来るかい?」
出来るかどうかと言われれば出来るのですが、何というかせっかくの休憩時間を邪魔されているので周りの人達の空気がちょっとだけ悪い感じに。
「お急ぎでしたら仕方ないですね。お値段十円となっていますが、よろしいですか?」
ニコっと笑うのはお客さんの為ではなく、この場の空気をよくするため。その為、声を掛けてきた紳士風の男には目もくれず、周りをスッと見回す形で笑顔を振りまくと、怪しくなっていた空気はいつものただの賑やかさに戻ります。
「ふむ、こんな場所で十円の占いとは……、まあいい。ほら」
そういって十円玉をポイっと机の上に投げてきます。
私はあわてて地面に落ちないようにその十円玉を机の上で跳ねたタイミングでパシッといい音を鳴らしながらキャッチ。
「そんな態度ではお金に逃げられてしまいますよ?」
「ふん、お金というのは私に寄ってくるものだからな。逃げられることはあり得ない」
何とも不遜な物言いですが、お客さんに違いはないので一纏めにしていたカードを机の上にサッと広げます。
「では、何を占いましょう?」
「ありきたりだが、今後についてで」
「分かりました。今後ですね」
スッと目を閉じ、バラバラのカードの上に軽く両手をかざしその両手を机の端まで引きます。
「軽く混ぜ合わせながら、今後を想像して最後に一枚をお選びください」
こちらを睨むような目で一瞥した紳士は両手を使って軽くカードを混ぜ合わせると、端の方にある一枚を選んだみたいで、横に一枚をずらします。
「このカードだ」
他のカードを一纏めにし、机の真ん中にカードを一枚持ってきます。
ペラッとそのカードをめくると、ハッと息を呑む声が聞こえた気が。
そこに書いてある絵柄は星が下でニタリと邪な目つきの狐が水を零している悪辣なカード。
「……星の逆位置」
「星?逆位置?それはなんだね?」
不遜な態度のまま紳士服の男が聞いてきます。
「見た通り、願いは下にあなたが何かを手に入れようとしていたとすれば、それは一生手に入らないという事ですね。更に言えば、このカードは目的を見失うという意味も。……このまま突き進んだ先は、地獄ですよ?」
ほんの少しだけ魔力が漏れてしまったのか、言葉を発すると同時に周りの音が水を打ったかのように静かになってしまいましたが、かなりこれは悪い結果。
「この結果以上の言葉はありません。お疲れさまでした」
それだけ言うと、少しずつ音が世界に戻ったようで、棟梁のお弟子さんがおかわりの麦茶をヤカンごと持ってきてくれます。
「ありゃ、お邪魔しちゃいましたかね?」
「いえいえ。ちょうど占いが終わったところですよ」
その一言で紳士服の男が睨んできますが関係なし。
「こんな子供だまし!馬鹿馬鹿しいっ!!」
そんな捨て台詞一つで紳士服の男は何処かへ行ってしまいました。
この時代だとありえませんが(笑)
現代であれば、ホログラムとかスマホのような映像媒体のカードをつくれそうなので、このぐらいの手品……出来そうですかね?
手品とか、騙される事は好きではありませんが、見ている分には凄いなーって。
コインマジックとか確実にあるはずと思っていても……見破れない。
常日頃の努力の賜物ですよねー。
努力が実る……
いいなぁ(笑)




