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世界は裏でまわってる  作者: 最上 品
117/120

117.いなり蕎麦

本日もありがとうございました

3/3


 いつもより、少しだけ眩しさを感じる朝。


「あ!」


 みーちゃんがいきなり大きな声を上げて、思わずビクンッと立ち止まる。


「冷えた井戸水で顔を洗うの忘れちゃった……。あのお水キンキンでよかったのに」

「いきなり驚かせないですよ。顔洗うくらい、公園の水とかでも出来るでしょ」

「いやいや、井戸水の良さを覚えたら、公園のお水じゃ足りないよ?」


 そんな会話が始まって、しんみりしていたような空気は気が付かないうちに消え去った。


「で、どうするの?」

「いつもより早いけど?」

「まずは、あれでしょ!」


 つっちーが圧を込めて言うと、すぐに乗っかったのはもちろんふーちゃん。


「ごっはっん!」


 ウキウキの声に被せるよう、つっちーが言った。


「始めと終わりは出来るだけ同じがいいかも?」

「始めと終わり?」

「うん、あのお稲荷さんもう一回食べたいのと――」


 みんな大賛成とばかりに声が揃ったので、向かうのは初日に食べた屋台の蕎麦屋。


 この街に数日もいたこともあって、迷いなく真っすぐにその屋台へ。


 いつもの時間よりは少しばかり早いのが気がかりでしたが、この辺りの朝は私達よりももっと早かった。


「蕎麦といなり三つ」

「はいよ」


 威勢のいい声が返って来て、すぐに湯をくぐらせた蕎麦にたっぷりのつゆがかけられたかけ蕎麦が出て来る。


「ウチのいなり、好んでくれたのかい?」

「ええ、とてもいい工夫だと思いますよ」

「そりゃあ嬉しいね」

「ちょっと、行儀が悪いかもしれませんが、許してくださいね?」


 そう言って、二つのいなりをそのまま蕎麦の中に。


「んあ?」


 なんだそりゃって顔の店主を気にせずに、ぐいっといなりを沈めてから蕎麦をひと啜り。


 口の中に出汁の香りがふわりと広がる。


 つゆを啜って、箸を伸ばして沈めたいなりを半分ほどガブリ。

 中からいなりの味が口に広がり、その余韻を余さぬようにもう一度蕎麦を啜る。


 口の中はきつね蕎麦。食感はコロッケ蕎麦に近く、味わいはもっと軽い。


 周りの視線を感じつつも、私は蕎麦を啜り、いなりを食す。


「ぷはぁ、ご馳走さまでした」

「……ああ、お粗末様」

「分けて食べるのもいいんですけどね、思いついちゃったら試したいのが人でしょ?」


 かなり驚いている店主にお礼を言ったら、足早にこの場を離れる事に。




「ねぇ、ざわざわし始めてない?」

「あの程度で?」

「あれ、やりすぎじゃない?」

「別にお金も払ったんだから、どうやって食べたって問題ないでしょ?」


 つっちーが言い切ると、ムスッとした声でひーちゃんが言います。


「私もだったけど、ちょっとみんな吹っ切れすぎてない?自重を忘れたらダメだよ?」


 怒ったフリの態度でいいますが、シラーっとしたみんな。


「棚上げはよくない」

「そうそう」

「資格なし」


 辛辣な仲間からの言葉ですが、ひーちゃんは演技派。

 グサッと言葉が刺さる素振りをみせ、バタンと右前足を伸ばして死んだふり。


「朝ごはん食べて、調子もみんな戻ってきたみたいだから、お姉ちゃんなりの注意なのっ!」

「はいはい」

「知ってるよー」

「わかってるって」


 こういう時だけ一気にみんな仲良くなって、楽しい会話に。



 早足で私達が去ったあと、しばらくしてから――。



「なあ、あの食べ方……なんだ?」


 蕎麦屋の常連がちらりと見ていたのか、別嬪さんが去ったあと、店主に聞く。


「知らんが、かなり良さそうだった。お前さんは――いつものだろう?折角だ、味みてくれ」

「おうよ」


 タエがしたのと同じにではなく、一つだけいなりをのせた、かけ蕎麦を店主と常連が真似をする。

 ぎゅっと押し込み、蕎麦をいつも通りに啜り少しだけ汁に浸したいなりを浮き上がらせるとガブリと噛みつく。


「おいおい、こりゃあ」

「けち臭いからあんまり俺は好きじゃなかったんだが……うめぇな」


 この店のいなりはおからで出来ていて、栄養はあるが、どうしてもポソポソしやすく、単体では好みの差が激しい商品でもあった。

 そして、伸び悩んでいるいなりを今後も出すか、悩んでいる時期でもあったのだが、この組み合わせは店主に光明をもたらす。


「いなり蕎麦ってところか?」

「なんだ、合わせでやってくれるのか?」

「合わせだと、一円引きか?」

「そこはお前、二円ぐらい引いてくれよ?どうせ、いつも余らせていたいなりだろ?」

「馬鹿言ってんじゃねぇ。安くし過ぎたら母ちゃんにどやされる」

「おお、そりゃあおっかねぇな。くわばらくわばら」


 下町で少しの間だけ盛り上がり、いつの間にか消えてしまったいなり蕎麦。


 いなり寿司の中身が蕎麦ではなく、おからいなりが蕎麦に入っているものなのだが、食糧難の時代、これは大変重宝された生活の知恵の味だった。


 そんな味のキッカケは、ふらりと現れた別嬪さんの食べ合わせだったのは今はもう、誰も知らない物語。



書きたい事は色々と。


ただ、何を書いても全て蛇足。


というよりは、色々と書くにはもったいない。


読者の皆様が感じた通りが、正解という事で、各々の楽しみ方をしていただければ幸いです。


あ、でも。質問やお気持ち表明は全然受け付けますので。お気軽に、言いたい事言って下さって結構ですよー(笑)


さてはて、次回の大安吉日は9日ですね。


色々と喋りたい事も喋っていいかもわからないので、何も言わずという事で。


また、次回の大安吉日にお会いできることをお待ちしております。



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