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世界は裏でまわってる  作者: 最上 品
113/120

113.ひとことの余波

二話めですよー

2/3


「お二人共、喧嘩はそのぐらいで……」

「タエさん?違うよ?」「別嬪さん?ソレは違うわ」


 二人の間に入る様に私が言うと、一気に四つの目が私を見てきます。


「これは意見のすり合わせで、喧嘩とは違うんだよ」

「そうそう。この程度は喧嘩とは言わないよ?」


 あれ?私がおかしいの?ってぐらい、紫乃さんも番台のおかみさんも当たり前の顔で私を見てきます。


「まあ、喧嘩じゃないのでしたら、いいです」


 腑に落ちないという顔を私がしているのですが、二人にはそれが面白かったみたい。


「ね?いい子だろう?」

「ああ、本当にね。ここに座っていて奢られたのも初めてだよ」

「だったら、ソレ。取っておいてもいいんじゃないかい?」


 紫乃さんの言葉に笑顔になるおかみさん。


「そうだね。でも、うーん……」


 何か悩み始めたのですが、取っておくと言っているのはどうやら牛乳瓶だと分かるので、当たり前な事を言ってみます。


「もし取っておくなら、一輪挿しにしてみては?」


 つい数秒前と同じぐらい、いやさっき以上の速さでまたも視線が集まる事に。


「それだ」

「っていっても、花なんてねぇ」

「別にそこまでかしこまらなくてもいいじゃないですか」


 私の言葉に目をぱちくりとさせた二人が大笑い。

 その笑い声に女湯のお客さんも思わずこっちを見てきます。


「一輪挿しの花に悩める……。戦争はとっくに終わっているんだねぇ」

「忙しさでついつい忘れちゃうね」

「洗濯もいいけど、着飾るのも大事かもね?」


 何故かみんな少しだけしんみりした空気があった後、私の方を見てきます。


「この別嬪さんが言うんだ。私達も頑張らないとね」

「いや、花を愛でる暇はないけどね……」

「心持ちの話さ」

「よーし、わかった。あたしも女だ、明日朝一で買ってくるよ」


 何やら賑わう女湯方面ですが、私一人ついていけない状態でいると紫乃さんが笑ってきます。


「タエさんのお陰でみんなやる気になったのよ」

「そうなのです?」

「そうなのよ、ありがとうって」


 そんな会話をしていると、若い女性が一人ジッとこっちを見ている事に気が付いた。


「なにか?」

「いや、別嬪さんのその体つきがこう、外人さんみたいで整っているなぁって」

「あー、それは……あれですよ」


 言葉が出なかったわけではなく、今はまだない横文字を言いそうになって慌てて言葉を飲み込みましたが、この時代でも栄養のあるものを、と視線をめぐらせると、目の前の空き瓶に目が行きます。


「ちゃんと栄養を取っているからですよ。例えば、この通り牛乳もそうですし、紫乃さんの働いているお店のような所の美味しいご飯も大事ですからね」

「……そうなのかい?」

「今はまだ食べるものにも困る時代ですが、当分の間は変に搾取されない限り、頑張りが報われますからね。とりあえず、牛乳は正義ですよ」


 そんな事を私が言ったものだから、女湯の皆さんが財布と相談を始めます。


「毎日は無理だけど、アレだけたわわに実るなら、安いモノだね」

「あたしはあんまり好きじゃないけど、目指すのも悪くないかもね」


 ここの銭湯は女給さんも多く、キレイどころが揃った銭湯。

 お湯に浸かっている間もチラチラと視線はあっても気にしないでいたのですが、どうやらあの視線は彼女たちだったのでしょう。


「牛乳頂戴」

「私も、貰うよ」


 何人も牛乳を頼むと、キュポンと蓋を開けゴクゴクと牛乳を飲み始めます。


「美人は一日にしてならず。まずは牛乳からってかい?」

「ウチのお店でも、乳臭いのは嫌だって客もいるけど、男は格好良く、女は別嬪にって謳い文句でもやったら、売れるかもね?」

「こっそり噂の一つでも流すかねぇ」


 戦後復興の下町で、脱脂粉乳や牛乳が好まれないながらも爆発的に広がるきっかけは夜の銭湯のこんな一幕から広がるなんて――この時はまだ、誰も知らない。


 さらに、おかみさんの牛乳瓶にも、妙な噂が残ることになる。


 一輪挿しとして花を挿すと、枯れる事無くずっとキレイを保ってくれるという魔法のような牛乳瓶。

 知らないうちに消えてしまったという噂の瓶は、この次の日から銭湯の番台の上で、いつも花を一輪楽しませてくれていて、季節の花を長く楽しませてくれたという。

――その瓶は、この日のモノだといわれている。



 お風呂上りはこんな感じのバタバタに巻き込まれつつも、牛乳が飛ぶように売れ始めたので、紫乃さんと逃げるようにさっさと銭湯を出ると、紫乃さんが自転車の後ろへ乗る様に指示してきたので、あえて自転車を強めに押してスピードをつけてから横座り。


「いきなり加速させるのは無しだよ」

「でも逃げましょう、って顔だったじゃないですか」

「当たり前だよ。私は当分あそこで牛乳飲めないんじゃないかい?」

「別にお風呂上りじゃなくても、牛乳は牛乳ですよ?」

「……言われてみるとそうだね?」

「まあ、お風呂上がりの方が美味しく感じますけどね」

「どっちなんだい、全く」


 二人乗りの自転車は紫乃さんの家に向かってスピードを上げていきます。


今は結構都会だと見かける事が減っている牛乳瓶。


近所にあった自販機も時代の流れには逆らえず、撤去されてしまいました。


まあ、完全になくなったわけじゃないんで(笑)、腰に手を当ててグビッとまだやれるんですけどね(ニヤリ)


脱脂粉乳の味は嫌いだったという方々、クジラ肉は飽きたという方々、今は昔です。

色々と時代と共に味や他様々も変わりましたね。


世の中のキッカケなんて、大体この程度の「大したことない」話が……。なんて、ロマンチックに考えすぎですねー(笑)

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