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世界は裏でまわってる  作者: 最上 品
112/120

112.湯の底で笑う

本日も三話でよろしくお願いします

1/3



「ところで、今日も……長湯だよねぇ」

「当たり前じゃないですか」


 一笑い終わって、紫乃さんが聞いて来たのですが被せる様に私が言うとまた笑う紫乃さん。


「あ、番台のおかみさんに言えば牛乳が出ますから」

「なんだいそりゃぁ?」

「先を見据えた女なんですよ」


 一瞬だけ目を細めた後、スッと目を閉じ何かを察した紫乃さん。


「そうだろうね。あまり待たせないでおくれよ?」

「約束できませんけど、出来るだけ・ね」


 ウインク一つを紫乃さんに投げて、私は再び肩まで浸かっている体をさらに少し腰を落として顔半分ぐらいまで浸かる様に湯に浸ります。


 私はお風呂の後をほんのり想像すると、ついつい笑顔に。

あまり待たせないようにするために、少しだけ長く、湯に沈むことにする。



「おかみさん?あの子の言っていた牛乳、いいかい?」

「あら、そう言う事?ええ。お金は貰っているわ?」


 何故か変な調子のおかみさんから牛乳を貰って、蓋を開けると腰に手を当ててゴクッゴクッと一気に飲み干す。

 私だって月に一回ぐらいは贅沢をしたい日があって、そういう日は仕事終わりの銭湯で牛乳を飲む事もある。

 今日はそう言う日ではないのだが、頂けるものを拒否する事もなく、風呂上りの美味しい一杯は何とも言えない。


「別嬪さんは?」

「まだお風呂。長湯なんだよね、タエさん」

「なんというか、不思議な子だねぇ」

「本当にね。ただ、本人には言うつもりはないが、あの子は霊験あらたかな気がするよ」

「本当かい?」


 私とおかみさんの視線は自然と風呂場の方へ向くのだが、顔半分まで湯に浸っていて、ほとんど液体みたいに溶けているタエ。

 ただ、別嬪さんのなせる業なのか、ルールやマナーに厳しいのか、髪の毛は頭の上に纏めているので、お化けのようなおどろおどろしさとは無縁。


「なんだろうね、別嬪さんは何をしても別嬪さんなのかね?」

「私には無理だけどね。はぁ、ご馳走様」

「昨日の頂き物もあるし、これ以上は望んじゃいけないが……霊験あらたかじゃぁ何か欲しくなっちまうよ」


 おかみさんは笑いながら、男湯の客から小銭を受け取る。


「お目こぼし、あるといいね?」

「本当だよ。っと、湯の温度が下がってきているからどやしてくるわ」


 ガチャっと扉を開け閉めするとおかみさんは『すぐ戻ります』の札を男湯の方に置き、小走りでお風呂を抜けるように動いた。


「さてと、私も湯冷めしない様にとりあえず服を着ちゃうか」


 お風呂上がりの湯冷まし。


 あまりのんびりしすぎると、腹を冷やす事になってしまうのが困るが、扇風機の前でゆっくりするよりは飲み物や広さのある空間に居るだけで冷える方が私にとっては心地がいい。

 洗った手拭いとは別の手拭いで体を拭いて、一度絞った後に髪に当てて髪の水気も吸わせたら、周りに人が居ない事をしっかりと確認して、いつもの調子で首を強めにぶるぶると振る。

 一応下を向いているので、水気が跳ねるのは横方向だが、あまり行儀のいい事ではない事は分かっているが、止められない行動。

 この動きをするとなんとなくサッパリするのだが、タイミングは悪かったみたいで、番台のおかみさんが返ってきた。


「まーた、この子は。大人になっても、やってるねぇ」

「ありゃ、見られちゃったか」

「まあ、他のお客さんに迷惑……はかけてないけど、そこの雑巾で足元の水は拭いておいてよ?」

「ありゃ、失敬、失敬」


 足元の水を拭く為に置いてある雑巾を絞って軽く足元を拭き、近くの洗面所でサッと手を洗っていると、たわわに実ったモノを隠さない別嬪が堂々と着替え場前で手拭いを使って体を拭いていた。


「あ、おかみさん?牛乳をどうぞ?」

「私かい?」

「ええ。そうですよ?」


 バタバタしながら、おかみさんは驚きつつも、ガラガラと引き戸を開けて一本の牛乳を取り出した。


「これはこれは、霊験あらたかだねぇ」

「何か言いました?」

「いや、風呂釜を見てきたところで丁度喉が渇いていたから、美味しいだろうね」

「それはよかった」


 私は体を拭き終えて、なにも着ていない状態のまま牛乳瓶を取り出して、腰に手を当てて一気に牛乳を飲み干す。

 牛乳がじんわりと体を冷やしてくれた。


「番台の私に気を使う子なんて初めてだよ」

「それはそれは。ようござんした」

「はは、紫乃みたいな変な言葉を使うんじゃないよ」

「私の言葉のなにが変だっていうんだい?」


 紫乃さんは着替えを済ませて、縁側のほとりでうちわを仰いでいたがすぐに私達の所へはせ参じた。


「アンタの言葉は色々おかしいだろうに。落語や舞台や色々と齧っているのはわかるが、けったいな日本語ばっかりだろう?」

「古語や、粋な文化の言葉だよ。これだから学が無い人は……」

「学も大事だが、会話ってのはそうじゃないだろう?」


 勝手におかみさんと紫乃さんが盛り上がり始めたので、私は二人を横目にぱぱっと着替えを済ませてちょっとだけ考えていたこの後の楽しみを頭に浮かべると、ついつい笑顔に。


 今日のお風呂もいいお湯でした。



家のお風呂もいいんですけどね。

たまに行く銭湯やスーパー銭湯などの大きなお風呂は別格です。


湯に溶ける……気持ちいいですよねぇ。


長湯しすぎて……ふにゃふにゃとか。


ああ、温泉という意味で思い出すのは……温泉津温泉。

島根に居た頃何度か伺いました。

源泉が50℃近いのですが、30秒だけ入るっていう普通とは違う入り方。


まだまだ知らない温泉や知らない事、生きているうちに沢山あるんですよね。

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