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世界は裏でまわってる  作者: 最上 品
111/120

111.閑話 双葉/くらがりから

本日ここまで

3/3


 人は死ぬ。

 それ自体は摂理だ。

 ただ、戦争はその摂理を曲げる。

 必要のない死。

 不必要な死。


 身近にあるけど、身近に置くべきではないモノが常に付き纏っていた。


 周りの人間が減っていき、次は自分の番と怯え、でもおくびにもそれは出してはいけなかった。


 僕は長男で、家も裕福で、順番はうしろだった。


 なんてことないように振舞って、振舞って、振舞って。


 気が付いたら、怯える必要がなくなった。


 知り合いも帰ってくるようになり、懐かしい話に花が咲くとは思わなかったが、帰ってきた彼らの目はとてつもなく濁って見えた。


 それがとてもとても怖かった。


 会話が噛み合わない。

 何を彼らが言っているのか、理解できなかった。

 あの目は、凶器だ。

 僕の心を強くえぐる。


 そんな折り、逃げ込んだ先でちょっとした光を見つけた。


 高村光太郎の智恵子抄。


 エロスと性、そして向き合う事が苦痛になった死までもがソコにはあった。


 読んで、読んで、読み込んで、少しだけ死が克服出来た気がした。


 だが、死は逃がしてくれない。


 戦地帰りの友はイカレて死んだ。

 突然わめき、怯え、どす黒く濁った目で僕を見る。


「知らない方が幸せだ」


 遺言だった。


 僕は、ただ、それを伝えた。


「ありがとうございます」の言葉が呪いになった。


 克服できるものじゃないと、心根が悟った。


 でも、僕は――私になっても生きていた。


 お腹は減る。

 眠くなる。

 喉が渇く。


 私は、そう……真似をするようになっていった。


 溜め込んではいけない。

 吐き出してはいけない。


 だから、紙に掻きだすようになった。


 どうやら、自分に才能は無いらしい。


 だけど、書くと心が少し落ち着く。

 近くにいる闇が街灯に引っ張られ、温もりが手の平に帰って来る。


 仕事よりも、掻きだす事が多くなった。

 書けないが、掻きだす。

 風呂に入らないと、頭も痒くなる。


 専ら最近は、闇が側で囁く。


「そろそろ、頃合いだ」

「遊びにおいで?」

「終わりは、始まりだ」


 その声は昔よく聞こえていた死神の声に似ている。


 決して、親友の声じゃない。


 だって、親友は決して私を呼ばない。

 手招きだけして、睨んでくる。

 怖さがだんだんと薄れて、曖昧な日が増えて来た。




 あれは多分、朝頃だと思う。


 家に帰るのが億劫で、近所の宮で日を明かし、多少、微睡んだ状態で今日も掻きだしていた。


 才能はない。


「何を書いているんです?」


 そこには強い光があった。

 側にいた闇が一瞬で取り払われ、太陽のような眩しさはあるのに、まるで月のような優しさがあった。

 忘れない様にぶつぶつつぶやきながら、文字を書ききる。


 どうやらこの強い光は人らしい。


「えっと、誰?」


「私は、タエ」

「……タエさん?」


 とても彼女は眩しくて、世界の違う人にしか見えなかった。


「そう。いい詩ね?」

「あ、うん。ありがとう?」

「どういたしまして」


 何故か分からなかった。

 だけど、自己紹介をしないといけない気がしたんだ。


「僕は、双葉。長男なのに双葉なんておかしいよね」


 自嘲を含んだ言い方しかできなかったけど、思っていた返事も顔もない。


「いい名前だと思うよ?」


 戸惑った。

 ものすごく、戸惑った。

 彼女は自分の埒外に居る人だった。


 慌ててこの場から逃げる事しかできなかった。


 信じられなかった。

 自分が信じられないのは今までも、これからも変わらない。


 ただ、ただ、彼女は奇麗だった。


 そして、トパアズいろの香気の意味だけが鮮明に分かった。


 私の意識が鮮明になっていく。


 戸惑って、戸惑って、その日は仕事をする事になった。




 二度目があって、三度目があった。




 高村光太郎に智恵子さんが居たように、私にはタエさんが居て欲しくなった。


 側にいるだけで、私は救われた。


 私の片輪を見つけた気分だった。


 そして、同じぐらい自分の強欲さに嫌気がさした。


 隣にいたはずの死はそっぽを向いて、勝手にしろと寄り付かなくなった気がした。


 会えない時間が不安を増やし、ぽっかりと心に穴があいていく。


 ハッとした時、自分にとても嫌気がさした。


 死ねない死にたがり、生きれない、生きたがり。

 相反する自分の中にいる闇と光。


 もしかしたら、と希望を持ちそうになる自分がキモチワルイ。


 もう、会うべきではないと思った。


 だけど、また会いたいと思った。


 朝に会って、昼にも会って、夜にも会った。

 彼女は奇麗だ。

 釣り合いなんてとれなかったし、引き付けられるような何かもない。


 それでも、会いたいと思った。


 朝、あったところへ行った。

 会えなかった。


 昼、一緒に食事をしたはずのところへ行った。

 会えなかった。


 夜、お酒を飲んだところへ行った。

 会えなかった。


 自分の心の穴が一回りドンと大きくなった。


 ふらふらした足取りで私はタエさんを探した。

 探して、探して、探して、探した。

 見つからない、見つからない、見つからない。


 どうしたらいいのか、分からなくなった。


 何故か頭が痒かった。

慌てて家に帰り、風呂に入った。


「待つか」


 初めて会った、宮に行くことにした。


 多分、タエさんが居る気がした。




会話の大事さは分かっているつもりです。

それでも、人は簡単に救われないとも思っています。


色々と説明したくなる気持ちもありますが、

今回は雰囲気と空気で感じてもらえたら。


ここで終わるわけではないのですが、

少しだけ「重さ」の違う話でした。


どう転がるのかは、読んでくださる方に委ねます。



さて、次回の大安吉日は28日ですね(間違えてないハズ!)

いつも通り六日あるので(笑)少しだけ余裕もあるはず。

ちょっとだけ、ざわざわな心を落ち着かせて執筆に勤しむつもりです(笑)


では、次回大安吉日にまたのご来場お待ちしております。


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