111.閑話 双葉/くらがりから
本日ここまで
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人は死ぬ。
それ自体は摂理だ。
ただ、戦争はその摂理を曲げる。
必要のない死。
不必要な死。
身近にあるけど、身近に置くべきではないモノが常に付き纏っていた。
周りの人間が減っていき、次は自分の番と怯え、でもおくびにもそれは出してはいけなかった。
僕は長男で、家も裕福で、順番はうしろだった。
なんてことないように振舞って、振舞って、振舞って。
気が付いたら、怯える必要がなくなった。
知り合いも帰ってくるようになり、懐かしい話に花が咲くとは思わなかったが、帰ってきた彼らの目はとてつもなく濁って見えた。
それがとてもとても怖かった。
会話が噛み合わない。
何を彼らが言っているのか、理解できなかった。
あの目は、凶器だ。
僕の心を強くえぐる。
そんな折り、逃げ込んだ先でちょっとした光を見つけた。
高村光太郎の智恵子抄。
エロスと性、そして向き合う事が苦痛になった死までもがソコにはあった。
読んで、読んで、読み込んで、少しだけ死が克服出来た気がした。
だが、死は逃がしてくれない。
戦地帰りの友はイカレて死んだ。
突然わめき、怯え、どす黒く濁った目で僕を見る。
「知らない方が幸せだ」
遺言だった。
僕は、ただ、それを伝えた。
「ありがとうございます」の言葉が呪いになった。
克服できるものじゃないと、心根が悟った。
でも、僕は――私になっても生きていた。
お腹は減る。
眠くなる。
喉が渇く。
私は、そう……真似をするようになっていった。
溜め込んではいけない。
吐き出してはいけない。
だから、紙に掻きだすようになった。
どうやら、自分に才能は無いらしい。
だけど、書くと心が少し落ち着く。
近くにいる闇が街灯に引っ張られ、温もりが手の平に帰って来る。
仕事よりも、掻きだす事が多くなった。
書けないが、掻きだす。
風呂に入らないと、頭も痒くなる。
専ら最近は、闇が側で囁く。
「そろそろ、頃合いだ」
「遊びにおいで?」
「終わりは、始まりだ」
その声は昔よく聞こえていた死神の声に似ている。
決して、親友の声じゃない。
だって、親友は決して私を呼ばない。
手招きだけして、睨んでくる。
怖さがだんだんと薄れて、曖昧な日が増えて来た。
あれは多分、朝頃だと思う。
家に帰るのが億劫で、近所の宮で日を明かし、多少、微睡んだ状態で今日も掻きだしていた。
才能はない。
「何を書いているんです?」
そこには強い光があった。
側にいた闇が一瞬で取り払われ、太陽のような眩しさはあるのに、まるで月のような優しさがあった。
忘れない様にぶつぶつつぶやきながら、文字を書ききる。
どうやらこの強い光は人らしい。
「えっと、誰?」
「私は、タエ」
「……タエさん?」
とても彼女は眩しくて、世界の違う人にしか見えなかった。
「そう。いい詩ね?」
「あ、うん。ありがとう?」
「どういたしまして」
何故か分からなかった。
だけど、自己紹介をしないといけない気がしたんだ。
「僕は、双葉。長男なのに双葉なんておかしいよね」
自嘲を含んだ言い方しかできなかったけど、思っていた返事も顔もない。
「いい名前だと思うよ?」
戸惑った。
ものすごく、戸惑った。
彼女は自分の埒外に居る人だった。
慌ててこの場から逃げる事しかできなかった。
信じられなかった。
自分が信じられないのは今までも、これからも変わらない。
ただ、ただ、彼女は奇麗だった。
そして、トパアズいろの香気の意味だけが鮮明に分かった。
私の意識が鮮明になっていく。
戸惑って、戸惑って、その日は仕事をする事になった。
二度目があって、三度目があった。
高村光太郎に智恵子さんが居たように、私にはタエさんが居て欲しくなった。
側にいるだけで、私は救われた。
私の片輪を見つけた気分だった。
そして、同じぐらい自分の強欲さに嫌気がさした。
隣にいたはずの死はそっぽを向いて、勝手にしろと寄り付かなくなった気がした。
会えない時間が不安を増やし、ぽっかりと心に穴があいていく。
ハッとした時、自分にとても嫌気がさした。
死ねない死にたがり、生きれない、生きたがり。
相反する自分の中にいる闇と光。
もしかしたら、と希望を持ちそうになる自分がキモチワルイ。
もう、会うべきではないと思った。
だけど、また会いたいと思った。
朝に会って、昼にも会って、夜にも会った。
彼女は奇麗だ。
釣り合いなんてとれなかったし、引き付けられるような何かもない。
それでも、会いたいと思った。
朝、あったところへ行った。
会えなかった。
昼、一緒に食事をしたはずのところへ行った。
会えなかった。
夜、お酒を飲んだところへ行った。
会えなかった。
自分の心の穴が一回りドンと大きくなった。
ふらふらした足取りで私はタエさんを探した。
探して、探して、探して、探した。
見つからない、見つからない、見つからない。
どうしたらいいのか、分からなくなった。
何故か頭が痒かった。
慌てて家に帰り、風呂に入った。
「待つか」
初めて会った、宮に行くことにした。
多分、タエさんが居る気がした。
会話の大事さは分かっているつもりです。
それでも、人は簡単に救われないとも思っています。
色々と説明したくなる気持ちもありますが、
今回は雰囲気と空気で感じてもらえたら。
ここで終わるわけではないのですが、
少しだけ「重さ」の違う話でした。
どう転がるのかは、読んでくださる方に委ねます。
さて、次回の大安吉日は28日ですね(間違えてないハズ!)
いつも通り六日あるので(笑)少しだけ余裕もあるはず。
ちょっとだけ、ざわざわな心を落ち着かせて執筆に勤しむつもりです(笑)
では、次回大安吉日にまたのご来場お待ちしております。




