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世界は裏でまわってる  作者: 最上 品
110/120

110.ほどける夜

本日二話目です

2/3


 考えてみると、お店から銭湯までの道を一人で歩くことは初めてで、いつも隣には紫乃さんが居てくれたので、ほんのり新鮮な気分。


「おっふろ!おっふろ!」

「あの銭湯も趣があっていいのよねー」

「風呂上りは、二本ね!」

「コーヒー牛乳の気分なのに……」


 でも、私の中はいつも通りの賑やかさがあるので、寂しさとは無縁。

 そして、いつもは自転車の横を並走しますが、今は一人歩き。

 ……面倒な事は突然やって来る。


「お?別嬪さんが歩いてるぞ?」

「ねぇちゃん、一人で歩くなら一緒にお供してやろうか?」


 場所柄もあってか、酒に負けた男に絡まれそうに。


「ごめんなさいね。間に合っていますし、この後も予定があるので」


 そう言って、手のひらをひらひらとさせながら動かす。

 男達はその手の平に視線を吸い込まれるように見つめているので、わざとらしく手の平をくねらせ、最後に下から上に向かって追い払うような動きを大げさにする。


「おいおい、って……」

「あれぇ?別嬪さんは?」


 男達が手の平に視線を集めていたので、ひょいと素早い横移動をして視線の先から居なくなってしまうと、男達が私を見失う。

 そして、そんな男たちの様子を斜め後ろの辺りから見ていたところ、男達はどうやら酔いが醒めた様子。


「今の別嬪さん……枯れ尾花か?」

「いやいや、そんな事……あるのか?」


 二人共見失ったという事実だけがあるわけで、どうやら私は幽霊とされた模様。


 だったら、とほんの少しだけ後ろから驚かしてみたい気持ちはあったのですが、タイミング悪く紫乃さんの気配が結構なスピードで近付いてきている気がしたので、男達はそのままにして、約束をしている銭湯へ私も慌てて向かう事に。

 タタッとこの場を後にすると夜の街につむじ風が一つだけフッとあらわれたとか。



「やっぱり、居たね?」

「紫乃さんが自転車を本気で漕いでくる気がしたので、慌ててきましたよ?」

「いつもの道で来ているはずだから、追いつくと思ったんだけどねぇ?」

「負けませんって」


 お互いに顔を合わせたら、ついつい笑い始めます。

 紫乃さんは私に何か言いたげな顔ですが、折角目の前に銭湯があるのに、ここで駄弁るにはもったいないので、さながら私は王子様の振りをして、紫乃お嬢様をエスコートするように右手を広げ、銭湯へ誘います。


「あら、嬉しいわ」

「どうぞ、お嬢様」


 プッと噴き出したのは番台のおかみさん。


「なんだい、そのやり取りは」

「お風呂でゆっくり喋りましょうって話ですよ」

「長湯して、あたるんじゃないよ?」

「心得ていますよ」


 少しだけ多めに私がお金を出すと、おかみさんがお釣りを出します。


「あ、面倒なので風呂上がりの牛乳代、三本分です」

「そう言うのは先に言っておくれ?」

「ですね」


 再び三人で笑った後、慌ててクルリと後を向き、ポケットから手拭いを取り出す。


 ここからはゆっくりできる時間。


 紫乃さんから石鹸を借りるのもいつもの流れで、体を洗っていると後ろの端では今日もおばちゃんが洗濯をしています。


 体を洗って、ここからがお風呂の本番。

 お湯に浸かって一日の疲れをお湯に溶かしこみましょう。


「いきかえるぅぅぅぅ」


 一日はこのお湯に浸かる為にあるといっても過言ではない程、私の身体は溶け、まるでスライムのような水に一体化したような状態に。


「……本当にタエちゃんはお風呂好きねぇ」

「この為に生きていますからねぇ」

「言い過ぎじゃないのかい?」


 紫乃さんの目がスッと細く私を捕らえますが、私は変わらないまま。


「あんなことをいきなり言うもんだから、慌てちゃったけど……あれでよかったかい?」

「十分ですよ。ちゃんと今日じゃなくて明日清算するんですから」

「それならまあ、いいけどね?」


 ちょっとだけ紫乃さんの視線が厳しくなります。


「お給料は子供に使って欲しいってアレ、ハヤシライスの話も含んでいるんだろう?」

「当たり前じゃないですか。子供なんてタダで育つハズ無いんですから」

「それにしたって、だろう?」


 紫乃さんの厳しい目がそっと優しさを取り戻す。


「私の取り分はポケットにあった百円札一枚で十分ですよ」

「……そこまでお見通し、なのかい?」


 私がお店を後にした後の事くらい、なんとなく想像はつく。

 おかみさんの優しさと似通った大将が何も私にしないハズも無い訳で。


「後で渡すよ?それは受け取るんだろう?」

「当たり前じゃないですか。まあ、牛乳は奢りますけどね」

「それっぽっちかい?」


 紫乃さんが真面目な顔で言い返してきたので、コクンと私が頷く。


「大根役者におひねりはちょっと……あげられませんよ」


 驚いた顔の紫乃さん。


「――それは、子供をダシにして有耶無耶にしろなんて、いきなり言われて。すべての女は女優でも、上手い下手はあるんだよ」

「そう言う事にしておきますよ」


 プッと噴き出したのは、どっちが先だったか。

 楽しい夜がお風呂場から再び始まります。




お風呂回再び(笑)


作者的に自然体でパパっと書ける事が多いお風呂回は助かる部分もあるのですが、逆にすらすらかけていると設定の矛盾などのアラが出やすい時でもあるので、一応注意していたりします。


そして、次の話はいつも通り「閑話回」なので、今回の本編は実質ここまで。


短くてすみません<__>


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