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世界は裏でまわってる  作者: 最上 品
11/60

11.閑話 紫乃/不思議の子

2/3 次がありますよー


 ついさっき知り合ったタエはとても不思議な子。

 初めて会ったのに、懐かしい空気を纏っていて今の時代とは違うスレていない空気があり、でも私を蔑むような目もしない。

 そんな空気を感じたから、おかみさんと話をしていた時に助け船を出したわけだったけど、一緒に銭湯まで向かう道すがらは不思議を飛び越え、別の世界に迷い込んだような感じだった。


「タエちゃん?どっちに行くのか分かってる?」

「銭湯でしょ。えーっと、浜湯とか鶴の湯とかはアッチでしょ?」


 何処から来たのかさっぱりわからないタエちゃんは多少の土地勘があるみたいで、指で刺してくれますが、それが正しいのかは私にはわかりません。


「私がいつも行ってるのはやなぎ湯だから……」

「やなぎ湯?えーっと……」


ふと、耳に馴染みのないパリパリッという音がする。

周りを見回しても何の変化もなく、何が起きたのか分からなかった。

そして、タエちゃんを見るとまるで悪戯をして叱られた弟のような表情をしていた。


「やなぎ湯はこっちね。って、何かしたの?」

「え、んーん?なんにも?こっち、こっちね?うんうん。方向も分かったし、私はダッ――と、じゃなくて、駆け足で着いていくね?」

「そんな事言って大丈夫?私は毎日コレで通勤しているから、結構早いわよ?」

「気にしないで?こう見えて体力はあるからね?」


 そうは言われても、自転車と駆け足だとわかれば手を抜く訳ではありませんが、速さが違います。それにこの後に風呂だとしてもわざわざ汗をかく必要もないので、それなりの速さでいつもの銭湯に向かうつもりだったのですが、そんな空気はどこへやら。


 お店を出たら狭い路地をすぐに抜け、この辺りで一番の幹線道路に。

 一人での帰り道は危ないからと言われ、八丁堀の方から行く事もあるのですが、タエちゃんがいるので分かりやすい道で行った方がいいだろうと気を利かせ、幹線道路を北上。

 少し遅い時間とはいっても、まだまだ道路沿いのお店はやっている所も多く、明かりはぽつぽつ程度。それよりも困るのがあちらこちらから上がる燻り火(いぶりび)。そこらへんには煙草をポイ捨てして、しっかりと踏み消していない人もいるので、路上のゴミは散らばっていて、これが残っているとボヤの原因に。


「タエちゃん、煙の所はぎゅっと踏んで燻り火を消してあげて」

「ん?消していいの?」

「消した方がいいのっ!!」

「はーい」


 そんな会話をしつつの北上は日本橋まで続き、橋を渡ったら右へ曲がって住宅街が広がってくるので、少しだけ川に沿って道を曲がった先には目的地であるやなぎ湯が。


「アレだけの距離、ずっーっと走ってタエちゃんは大丈夫なの?」

「体力はあるって言ったでしょ?」


 確かに店を出てすぐに本人が言っていたのは覚えていますが、燻り火を見つけるたびに右に左へと軽快な足取りでキュッと火元をつぶし、そしてそこまで遅くしていない私の自転車に普通についてきていたタエちゃん。


「汗一つ、かいてないの?」

「ふふん。まーねー?」

「私の方がビックリして汗かいちゃったのに?」

「そんなことはいいから、紫乃さん、銭湯だよ。銭湯。楽しみだなぁ」


 無邪気にはしゃぐ姿は子供と変わらないように見えますが、一緒に働いていた時にこれでもかと言うぐらい凄さを見せてくれていたタエと本当に一緒?と思える程今は幼く見える。


「あ、そう言えば……ちょっとだけマズいかも?」

「え?え?なにか私粗相しちゃいました?」

「タエちゃんが粗相したわけじゃないんだけど……お風呂セットをおかみさんから借りて来るの、忘れちゃって」


 今日の住むところもないタエちゃんがお風呂セットなんて持っているはずもなく、やなぎ湯の石鹸はけっこうごわごわになるから、家から持って来たものを使った方が良く、ああそうなってくると手拭いも?確かここはGHQからのお客さんかなにかも来るからってモノが全体的に高いのに……。

 そんな心配をしていたのですが、タエちゃんは後を向いて少し間があってくるりとこちらに向き直ると、その手には一枚の狐柄の手拭いが。


「ふふふ。こんなこともあろうかと、ちゃんと用意してありますよー」

「え?え?手拭い?何処から出したの?」

「秘密ですよ。女には秘密がいっぱい……あるのです?」

「……分かってやっているわけじゃないんだね。まあ、手拭いがあるなら、問題は無いか。石鹸は私のを一緒に使って」


 自分で口に出してみて、正直問題ばっかりな気もしたのですが可愛い笑顔でタエちゃんがこっちを見て来ると、つい許してしまう空気になる。

自転車に鍵をかけて私は番台さんに預けてあるお風呂セットをもらって、ゆっくりとお風呂を頂きましょうか。






いつかかいてみたいと思っていた(?)閑話です!!


いや、色々な物語を読んでいると、この閑話が入る事によってさらに楽しく、サイドストーリーもちょっとだけ楽しめるみたいなあのワクワク感。


……ワクワク感?


……サイドストーリー?


…………うーん?(笑)

そこまでうまい事出来ていませんが、ちょっとだけ視点を変えてみるのもたまには楽しいかと思いまして。


今後どのぐらいの閑話が誕生するかは不明ですが、視点変更回と思って頂けるとわかりやすいかと。



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