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世界は裏でまわってる  作者: 最上 品
107/120

107.トンという、音

2/3

二話目です


 私は上がった気分のままお酌をして回る。


 賑やかな店内は少しずつ落ち着きを取り戻し始めたのだが、厨房は一定の忙しさを保ったまま。


「お手伝い、します?」

「いや、慣れるのが怖い。客席側をそのまま頼む」

「わかりました」


 大将は大将の考えでもって、厨房を回し、おかみさんはおかみさんの考えをもっているのか、私ではなく紫乃さんを呼ぶ。


「紫乃、アンタは――」

「絶対はないよ?でも、多分大丈夫だよ」

「そうかい。じゃあ、こっちの手伝いを頼むよ?若旦那、ウチの紫乃がご迷惑を」


 平謝りするようにおかみさんが頭を下げたが、若旦那は笑顔を返した。


「いいモノを見たので、常連さんも私もむしろ気分がいいぐらいです。でも、いいんですか?」


 内情も知っていると言わんばかりに若旦那が言うと、ちらりとおかみさんは裏の方を見る。

そこにはジッと見上げるだけの子供達が口を真一文字にしている。


「なかなか大胆な」

「ええ。なんとか、やっていける気がしたんですよ」


 優しさがにじんだその声にフッと目を細めた若旦那。

 更に何かを言おうとしたのだが、何も言わせないと言わんばかりに空気に割って入って来たのは紫乃さん。


「おかみさんも、手伝ってという割に、喋っているのかい?」

「大事な共有事項の話をしているだけだよ。全く……誰に似たんだか」


 思わず私の中の皆が「おかみさんだよ!」と声をそろえる。

私にしか聞こえないその声に笑いをこらえきれなかったのですが、その様子を見ていたお客さんや女給仲間にそこまで面白い?という顔をされます。


「紫乃、ちょっとこの場は頼むよ?」

「え、うん?」


 そう言っておかみさんが後ろへ下がると、ごそごそと何かを始めた。


 私はお客さんへお酒を配り、お酌もしたタイミングだったので一度戻って来たところでおかみさんの不思議な一連の動きが丁度見えてしまった。


 子供達を更に奥へと連れて行き、厨房とお店の間のおかみさんや大将しか入れないスペースへと急ぐと、帳簿をバッと開き、そして鉛筆を走らせる。

 その作業は手慣れていて、すぐに書きこみを終えると手持ち金庫をガバっとあけてお札を三枚ほど握る。


「いや、うん……でも……」


 眉を顰め悩ましい顔のおかみさんは口元に手を当てながらも金庫を閉じ、手にもったお札をポケットに入れた。


「ほら、話があるんだろう?」


 そう言うと、手招きをして先輩女給に目線を投げると、コクンと頷く。


「あの、聞こえたかもしれませんが……」

「今日の分、それと祝い、後は見つからないうちにさっさと行った方がいいから、電車賃だよ」


 そう言ってポケットから二枚ほど札を胸元に付きつけるおかみさん。


「こんなに!?」

「本当はあと一枚渡すつもりだったんだけどねぇ、あり過ぎも毒だろうし……」


 おかみさんはそこまで言うと、顔を若干伏せた。


「人一人育てるのがどれだけ大変か、わかっているのかい?」

「――はい。痛い程」

「だったらいいよ。念の為、いつでも帰ってきていいように、今月の給料は末締めにさせて貰うから……そのうち取りにおいで?」


 伏せていた顔をスッとあげたおかみさんの顔は泣きそうに見えた。


「え、でも……」

「私からは行やしないよ。何もない事が一番だが、何かあった時に戻れる場所の一つでもあった方がいいだろう?」


 先輩女給は言葉に詰まった。


「私、勝手に、決めて……」

「知ってるよ。家には寄らないで、そのまま行くんだよ?」

「それだと、ウチの……」


 目を見開いて、先輩女給が再び言葉に詰まる。


「決めたんだろう?女も度胸だよ。振り返ってる暇なんて無いんだ。決めるって言うのは、そういうことだろう?それとも、その程度の覚悟なのかい?」


 優しいおかみさんの言葉に、小刻みに首を振って否定をする。


「だろう?足を引っ張ったり、後ろ髪をひかれたりするのは、何処に行ったってあるんだ。そう言う事は、お前さんの言う通り勢いと度胸で跳ねっ返すんだ。それしか、方法も無いんだから」


 そう言うと、両手を広げるおかみさんに体当たりをするような勢いでガバっと抱き着く先輩女給。

 二人の長い抱擁はお酒のおかわりを取りに来ているみんながかわるがわる見ているのだが、誰一人文句は言わず、どうしても困ってしまった人は紫乃さんにこそっと教えてもらっているのが見えた。


「ああ、そうだ。お店にもう一つ来てもらうためのおまじないをかけておこうか」


 おかみさんはそっと先輩女給を離し、笑顔のまま言う。


「ダメになった時しかウチのお店に来れないんじゃ、コッチも商売あがったりだからね。子供がとか、孫がなんてことは言わないよ。ちゃんと幸せになったなら、おいで。その時はお祝い金が貰えるし、近況報告も聞けるだろう?ただまあ、それまで連絡は寄越すんじゃないよ?面倒事は勘弁だからね?」


 それは、絶縁とは程遠い、未来を歓迎する言葉。


「おがびざん」


 再び先輩女給は涙が止まらなくなってしまいます。




豚肉じゃないんです(笑)


余韻を楽しんで貰いたいようなタイトルに。


まあ、一気に読む場合はあまり気にしないところですけどね。


なんというか、ムズカシイ。


言葉で表現って、悩ましいです。

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