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世界は裏でまわってる  作者: 最上 品
105/120

105.あじのこたえ

3/3


本日ここまで


 私は同じフライパンを使って、先程と同じ作業を繰り返す。

 その様子をじっくりと見ている大将が、鼻を引くつかせた後、瞠目した。


「そう言う事か」


 大将は一人納得顔になる。

 それを見たおかみさんが、肩をちょいちょいと叩き確認をしている。


 そんな二人の様子を横目に、私はサバのタタキを再び作り上げ、味見分とお客さん達に出す分を拵えた。


「追加の注文って、無理だよね?」


 タイミングはばっちりで、お酒を注ぎ終えたばかりの紫乃さんが厨房に確認に来たが、大将の予想は的中。

 ただ、この半身でサバはおわり。

 チラリと大将の方を確認すると、おかみさんも大きな頷きを見せ、私をジッと見て来た。


「サバはそのまま出してくれ。ああ、後……コレもさっきと一緒でメニューには多分載らないが、そうだな……若旦那と今日の連中にだけは『自分でいい鯖を持ってきたら』作るとでも伝えてくれ」

「本気かい?」


 大将の言葉におかみさんが驚く。


「暇なときだけとも言ってくれると助かるがな」

「ウチで扱えなかったからって、家にサバを持ち帰る旦那が喜ばれると思っているのかい?」

「――そこまでは考えてなかったな」


 全く、呆れると言った顔でおかみさんが提案したのは事前連絡の話。

 そしてそれをいち早く伝えるべきだと思ったみたいで、紫乃さんが私の前にあるお皿をかっさらう。


「じゃ、そのように!」

「いつでもできるとは限らないと口を酸っぱくして言っときな!」

「はーい」


 元気な返事を紫乃さんは返しながら、取り皿と一緒に客席へ向かおうとして、くるりと踵を返す。


「コレは、タエさんのおごり?」


 紫乃さんの声に反応したのは大将。


「だな!」


 紫乃さんのウインク一つが飛んできた。


「ごちそうさまっ!」


 私の心を打ち抜くには威力が高すぎる一撃ですが、少し分かっている子供と分かっていない子供達は何ともな表情で笑った。




「はいはーい、タエさんからご馳走を分けるので、ありがたく頂くよーに」


 まるでアトラクションでも始まるような空気を紫乃さんは醸しながら、取り皿を置いてサバを一枚だけタレに漬けて置く。

 その所作は繊細ながらも、丁寧がにじむ。


「タエさんのおごり?」

「ですって。もし、しっかりと食べたい場合は、自分でいいサバを持って来て、大将やおかみさんと交渉して下さい」


 その案内を聞いて、奥の方の親方衆の一人が立ち上がった。


「って事は、コレもさっきのお囃子ライスと一緒かい?」


 少しだけ紫乃さんは嬉しそうにするが、訂正も忘れない。

「ハ・ヤ・シ・ラ・イ・ス!ね!」

「おう、そうだった、そうだった」


 まるで名前をみんなにしっかりと覚えさせるための仕込みみたいなやり取りを目の前でするわけだが、その様子を客も女給も楽しそうに盛り上げる。

 人によってはすぐに名前を忘れそうだがどうしたらいい?と女給に言うと、紙を一枚千切ってそこへひらがなの「はやしらいす」と書かれたものを渡す女給も。


 そして、サバを客に配り終える頃には裏に一度は女給達も戻っていて、サバの味を知っていた。

 この日、サバのタタキを食べた客達が定期的にこのメニューを求めるようになるのは、まだ先の話。




 そして、洋食屋なのにサバを持っていくとタタキが食べられると有名になる事は無かったが、月に一回だけ肉メインの洋食屋にサバが出る事があるという噂だけがいつまでも囁かれることになったのは、多分このことがキッカケだろう。




「驚いた顔をして、どうしたんだい?」

「いや、このサバのタタキの美味さの秘密が分かってな」

「それで、目を見開いたのかい」


 おかみさんが言うと、大将は耳元へと口を寄せた。


「この旨さの秘密は、俺が使い倒したフライパンだ」

「なんだって?」

「あのフライパンは俺が毎日、毎日オムレツ専用で使い倒しているフライパンなんだ」

「ああ、こだわっているアレだね?」

「おうよ。で、アレにはここで店を始めた時からのバターがしっかりと染み込んでいるんだよ」

「……だから、甘い香り、風味があって、私達が知らない味でも、懐かしさがあったってのかい?」

「多分な」


 思わず大将は天を見上げた。


「それにしても、そこまで大事なモノをよくもまあ、アンタも渡したね?」

「恩返しの一つぐらいが、この程度で済むならと思ったんだがな……」

「恩返しどころか、コッチがさっきから貰ってばっかりじゃないかい?」

「ああ。それも、返せない程膨らんで、どうしたら……」

「続けるしかないね。私達は」

「……だな。いつでも戻ってきていいように、帰る場所が一つでも増えて、悪い事なんて無いからな」

「アンタにしてはいい事言うね?明日はこれじゃあ雨でもふっちまうんじゃないかい?」


 雨の言葉に強く反応したのは子供達。


「アンタたちはもう、雨の心配はしないでいいんだよ。ただ、当たり前に思うんじゃないよ?ちゃんと、覚えておく事が大事だからね?」


 おかみさんの言葉に、子供達はジッと目を見てきた後、少し経って頷きをみせた。




何というか、三話構成でココの所書いていますね。

いや、悪い事ではないのですが……一話にぎゅっと押し込みすぎると、上手くいかず。

でも、零すには惜しい部分を細くするとこんな形に収まるみたいです。


料理の余談にはなりますが……バターを敷いてタタキを作ってみたらクドクなりました(笑)

やっぱりバターの染み込んだフライパンがいいみたいです。

……まあ、私はバター風味好きなのでオッケーでしたけどね!(笑)


さて、次の大安吉日は……17日ですね。


本日も読んでいただきありがとうございました。

次の大安吉日にまた来ていただけるよう願っています。


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― 新着の感想 ―
そろそろ麦の収穫の時期なので、作付けしてる人に 藁焼きしたいからすこしわけてくーださいってお願いすれば…(ᕑᗢूᓫ∗) 敷き藁用のは、米のだけどしばらく置いてあるからなぁ… どっちのほうが美味しいのに…
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