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世界は裏でまわってる  作者: 最上 品
104/120

104.しってるあじ

二話目です


2/3


 今度は私がゴクリと唾を飲み、おかみさんに確認をする。


「分からないのかい?」


 さも当然と言わんばかりに、おかみさんは呆れた顔をした。


「ええ、美味しく出来たと思ったのですが」

「美味しすぎだよ。子供の時にこんなに美味いモノ食べちゃったら、うちの料理だって霞んじゃうよ!?」

「……ん?」


 あれれ?と、私は首を傾げる。

 その様子が面白かったのか、子供達が私の真似をして首をコテンと右へ、左へと動かすが、中々可愛らしい様子に思わず私は苦笑い。


「いつもいつも、こんなに美味しいモノが食べられると思うんじゃないよ?今日はトクベツにトクベツがくっ付いた、お祝いだと思いな?」


 おかみさんは優しい顔だが、口調は厳しく子供達に言う。


「二口目は美味しすぎて、食べていいか迷ったんだろう?味見って言うのはそう言うものだ。よく、我慢したな」


 そういって、今度は大将が子供達を褒める。

 半分分かっているのは一番上の子だけみたいで、小さい子達は一番上の子が手を伸ばさない事を真似てただ手を出さなかったみたいだ。


「サバは?」

「まだ、半身ありますけど」

「それも同じように作ってくれるか?多分、注文が入ると思うが、無いモノは作れない。だったら、一口ずつ食わせて、終わらせた方がいい」


 そう言って、紫乃さんに皿を渡す。


「ねえねえ、私達の味見は?」


 大将はゲゲッと嫌そうな顔になるが、お酒を持っていく女給達もねっとりとした視線を投げて来る。


「――わかった、一口ずつだけなら、用意しておく」


 その言葉を待っていましたと言わんばかりに、一部の女給は握りこぶしを作る程。


 そして、紫乃さんが若旦那たちの席へとサバのタタキを持っていった。


 それは、ついさっきの再来。


 ハヤシライスの時と似た空気、近い雰囲気を纏っていた。


「おまたせ、地のモノをタエさんが作ってくれたよ」


 トンッと置くと、軍人さんが怪訝な顔。


「タタキか。藁の香りも無いだろうに……」


 そして、少し残念そうに言葉を零した。


「私が言うのもなんだけどね、食べてからの方がいいよ?タエさんは、一流どころじゃおさまらないからね?」

「一流の上は無いだろう?」


 軍人さんはそう言ったが、若旦那がスッと会話に入って来て言う。


「特級。確か、そう言う検定等級があったな?」

「流石、若旦那だねぇ。よく言葉を知っているね?」

「まあ、な」


 若旦那は誰のせいだと言わんばかりに紫乃さんを見つめるが、プイっと袖にして取り皿を置いた。


「追加のお酒は?」

「タタキは何と合わせるといい?」

「……それはまあ、日本酒。ああ、焼酎も悪くないがやっぱり、日本酒だな」

「冷を、すぐに」


 そう言われて紫乃さんは駆け足で厨房に戻った。



「本場は藁の香りがするのかい?」

「ああ、藁の焼ける香り、パリッと香ばしい焼き、それに……」


 言葉を話しながら、箸を伸ばすとカリッとした触感が手に伝わり、驚く軍人。

 彼は優しい手付きでそれを口へと放ると、ゆっくり目を閉じる。

 その様子がおかしいのか、嬉しいのか、ちょっとだけ離れた位置にあるコップを勝手に持ってくる若旦那。


「はいよ、冷です」


 紫乃は一升瓶を抱きかかえ、若旦那が用意していたコップに零さない様に注ぐ。


「二杯つけてくれ」

「コップ、ありがとう」

「いつもないメニューばかりで、今日は楽しいね?」

「多分……次は無いよ。今だけさ」


 少しだけ若旦那は驚いた顔になって、小さく頷く。

 いきなりざわつく店内、横を見ると――涙を流している軍人が居た。


「え、お、おい。どうした?」

「……こいつは、なんだ」


 目から涙を流し、でも口のもごもごは止まらない。

 不思議な光景。


「藁の香りが魚を締め、噛むたびに中から旨味が口いっぱいに広がるんだ。コレは正に……本物だ。だが、知ってるタタキじゃない。知らない香り、知らない風味、全部、全部違うけど、知ってる味だ」


 支離滅裂な言葉に聞いているこっちがおかしくなったのかと思ったが、紫乃の言葉を思い出せば、考えている場合ではない。

 すぐに箸を伸ばしてみた。


「いただきます」


 切り身を一つ口へ近づけると、ふんわりと甘く香るのはどこか知っている油のような香り。

 口へ入れると、甘い油のような香りは跡形もなくなって、パリッとした食感の奥から魚の脂が口へと広がる。

 さっぱりとした脂はツンとした香りと共に、さらりと鼻を抜ける。

 気が付いたら、口の中は空っぽだった。


 慌てて日本酒に手を伸ばすが、思わずその手を止めてしまう。

 酒でこの口の中の幸せを流す事を躊躇ってしまった。


「これは、凄いな?」


 まるで十年来の友に声を掛けるように軍人さんにぽつりと言うと、小刻みに何度も首を縦に振る軍人さん。


「地のモノじゃなくて、トクベツなものだ。ここまで美味しいモノは、俺は、知らない」


 それだけ言って、コップの酒をちびりと煽った。


 軍人さんは目を瞑ったまま、上を見上げる。

 いつの間にか涙は乾き、その味をこれでもかと噛みしめる様は様子を見ている周りを再びざわつかせるのに十分だった。




旅行などに行ったとき、はじめて食べたはずなのに、なんとなく懐かしさというか知っている感じを覚える料理ってあるじゃないですか。


そんな雰囲気や空気をぎゅっと一話に落としてみたら……こんな感じに。


いやぁ、ムズカシイ!!!


空気、雰囲気、って言語にするとチープになりやすいので、出来る限りキワキワを攻めたつもりですが……どうでしたかねぇ??

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