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世界は裏でまわってる  作者: 最上 品
100/120

100.噂のはじまり

今日も三話でよろしくお願いします

1/3


 たった一皿が通っただけだったはずなのに、効果は絶大。


 ビールを飲んですぐ、おつまみなどを普通ならば頼むタイミングにもかかわらず、ハヤシライスの注文が連続して入る。

 その中でも、こういう店に慣れている人達はオムレツやコロッケ等も頼み、途端に厨房が一気に戦場に早変わり。


「サダさんはご飯を炊いて、カズヨさんはお酒の補充と、どうしてもの時にあたしを呼んで!」


 紫乃さんの号令一つ。

 戦場が一気に動き始める。


 そして、みんなのギアが一つグンと上がったタイミングで、更に注文が入ってきた。


「常連さんのお肉、一丁」


 女給の言葉に「おう」と大将が応えるが、顔は厳しそうなまま。


 そんな様子を俯瞰視点のように見回している私は、親方衆へと声を掛けた。


「また後で対応するので、少し下がっても?」

「なんだい、やっぱりタエさんはココでも一級かい?」


 フフッと笑顔だけ見せて、私は下がることに。

 去り際の私を皆さんがニンマリとした顔で見ている気がしたのは、多分気のせいでしょう。


「大将、一気に来たのでお手伝いしますよ」

「おう、助かる。だが、常連さんのやつは俺が――」

「ええ。ハヤシの方を手伝いますから、お願いします」


 私がハヤシライスの仕込みをしつつ、大将がいいお肉とハヤシの仕上げ。

 大将はさらにギアを一つ上げたみたいで、凄いスピードで厨房を動き回る。


 そんな大将が作っている常連さんへの「いい肉」料理は、ハンバーグ。

 いや、ハンバーグという名のステーキだ。


 通常のハンバーグとは違い、荒くカットされた肉だけを一塊に戻しつなぎなどを何も入れずに軽い塩と胡椒だけを混ぜ入れて成形し直す。


 その肉を白い煙が上がっている年季の入ったフライパンに置くと食欲を刺激する音と香りが厨房を駆け巡る。


その香りは厨房を抜け、客席まで広がっていく。

そして、客席の喧騒はまた少しずつ静かになっていく。


 肉をオーブンに入れた大将は、時計を確認してハヤシライスを次々と完成させていく。


 紫乃さんの指示で、まるで分かっていたかのように、よそっておいた皿のご飯の横へかけられていく。

連続して完成していくハヤシライス。


 次々と運ばれていくハヤシライスと合間でオムレツとコロッケを作る大将。



 カシャーン!!



 ほんの少し時間が経った、その時だった。

 その音は大将が鍋を置いた音で、何かあったとすぐに分かる。


「マズい!!」


 その言葉にハッとした私も時計を見ると、五分が過ぎていた。


 オーブンに入れた肉をほんの一瞬、私達は忘れていた。

 幸いな事に、オーブン自体の火は弱めだったので焦げてしまうという事は無かったが、それでも火は入り過ぎてしまったはず。


「いや、違う……いいのか」


 それなのに、大将の目は全く死んでおらず、むしろ何故か生き生きし始める。


「大将?」


 音に慌てた紫乃さんが戻って来る。


「タエさん、ちょっとの間ここを任せていいか?」

「……仕上げはしませんよ?」

「もちろんだ。紫乃、ライスを別皿で添えて、後から持って来てくれ」


 コクンと頷く紫乃さん。


 大将は出来上がった一皿を満足そうにじっと見つめ、胸を張って厨房を出る。



「お待たせしました。本日の『いい肉』です」

「ステーキかと思ったが……、これは、本気か?」

「ええ、本気も本気ですよ。今、ライスも持ってきますから――食べて貰えば、分かります」


 自信満々な大将のその顔に満足そうに笑う常連。

 そして、慣れた所作で常連は出して来たソレを口に入れた。


「なんと……」


 その様子を確認した大将は何も言わずに頭を一つ下げて、厨房に戻って来た。


「悪いな、タエさん」

「いえ、ハヤシライスの仕上げが三つ、コロッケは揚げるところから、私はお皿を用意しますね」

「分かった」


 厨房の忙しさは変わらないままですが、客席はかなり賑やかで。



「あれは、なんだ?」

「ハヤシライスじゃないのか?」

「肉の塊がある、ハヤシライス?」


 遠巻きに見ている親方衆もざわめくほどに威力はバツグン。


「お前のソレ、いつの間に!?」

「オムレツに、かけるだと」

「おいおい、コロッケに……ソースじゃないのかよ」


 閃きとは面白いもので、ハヤシライスはソースみたいに使われ始める店内。

 その熱を逃がすまいと、いい顔で笑ったのは紫乃さん。



「今後も、メニューには載らない『ハヤシライス』を頼みます」



 その一言に、店内は一気に静かになった。

 あれ?という顔の紫乃さんだが、さすがに静かになり過ぎてやってしまった?と思ったのか、気まずそうな顔になりかけたのだが、理由はすぐに分かることになる。


「どういうことだい、女給さんよ?これだけ美味いハヤシライスがメニューに載らないって」


 スクッと立ち上がった親方の一人が語気を強めて聞いてきた。


「知っている人だけの料理ですから」

「知っている人、だけ?」

「ええ。誰でも頼める料理ですけど、知っていないと頼めない。男の人って、そういうの好きでしょ?」


 キョトンとした親方の顔はこれからの語り草になるみたいです。


 あるけれど、メニューに無い料理。


 噂の一人歩きは、どこへ行くのでしょう?



もう少しコンパクトに纏まると思っていたのですが、気が付けば百話。

あうあう。長くなってすみません<__>


いい着地を目指して、もう少し気合を入れて頑張ります!


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