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世界は裏でまわってる  作者: 最上 品
10/60

10.果実と「ゆ」

今日もぎりぎり1/3です(笑)




 先輩女給さんの怒涛の演技は凄く、あの手この手でもって傷病軍人さんを篭絡しようと画策しているみたいですが、軍人さんを絆せる確率はかなり低そうに見えます。

 それでも、シベリアでの調理の話がちらっと聞こえてきます。


「いつもと違う場所に連れていかれてよ、そいつもう死にそうで。ロシアの兵士も全員が非人道的じゃなくて、いい奴もいてよ、なにか食わせてやれって。でよ、そいつが食いたいって言ったのは“パイナップル”シベリアだってのに、聞いたことも見た事も無いようなもの食いたいとか言いやがって。ロシア兵も首を振るんだよ、で、そこにあったリンゴを切って、シロップに付けながら煮てよ、これがパイナップルだって食わせたんだ。そしたらよ、そいつ本物がやっぱり食いたいって、その日から逆に元気になってな。一緒に帰ってきたんだよ」


 軍人さんはどうやら調理経験があるみたいに伺える話をしていて、先輩女給さんがお酌をしながら相槌を打っていて、それがいつも以上なのか他の女給さん達がちらっと見ながら笑顔を見せます。


 二人の話に興味は惹かれますが、いつまでも突っ立っている訳にもいかないのでお仕事再開。


 さすがに同じような面倒は繰り返されず、お酒を楽しむお客さんが増えるにつれ、店内の空気もやわらいできた頃に、おかみさんに呼ばれます。


「はーい」

「よく働いてくれて大助かりだよ、タエ?」

「ふふ、それはようござんした」

「紫乃みたいによく分からない言葉を使うんじゃないよ。まあ、それはいいとして、タエの寝床は決まっているのかい?」


 寝床と言われて、ハッとするとおかみさんは丁度その顔も見ていたみたいで、溜息をつくように呆れます。


「宿もまだ決まっていなかったのかい?」

「お腹が減って、このお店の雰囲気においでって呼ばれちゃったんですよ」


 言われるまで何処で寝ようかなんて考えていなかったのですが、ゆっくりと休める場所はもちろん必要。ただ、夕飯の値段でも驚いた通り手持ちはあまりない状態。

 どうするのが正解か考えようとしていると、ひょっこりと出てきたのは紫乃さん。


「じゃあ、タエちゃんうちに泊まるかい?」

「え?いいの?」

「いいよ。引き留めた都合もあるし、部屋は余っているからね」


 今日の私はかなりツイているような気がしますが、おかみさんがこのやり取りを見ていたので、これでいいでしょって顔もしています。


「そうしたら、次のお客さんがおわったらあがりな。あんまり遅いとアレだろう?」

「あー、方向的にウチの方は……。いつもお気遣いありがとうございます」

「いいんだよ。そのぐらいはいつものように持ちつ持たれつさ?」


 二人の会話にちょっとだけ付いていけない状態で、首をコテンとしているとその様子がおかしかったのか、他の女給さんたちに笑われてしまいますが、お店は大繁盛ですぐに次のお客さんが来店。注文を取りに行きましょう。



 気づけば、先輩女給さんと軍人さんの姿は見えず、手招きする紫乃さんに呼ばれて、私は自然とそちらへ足を向けていた――。すると、紫乃さん素早い手付きで私の前掛けを外し、お店に来たときの服に戻します。


「さ、タエちゃん急いでいくよ!」

「え、え?何処にです?」



 ゴロゴロゴロゴロ……ピシャーンッ!!!!

 雲一つない晴れた空、――なのに紫乃さんの口から出てきたのはとんでもない言葉だった。


「そんなの決まってるでしょ、銭湯よ?」


大きな雷が多分数発は私に落ちた訳ですが、いま紫乃さんは何と??



「銭湯?」

「そうよ。この辺りは特に銭湯に通うのもお仕事の一つ……必須でしょう?」


 言われてみれば、ここは降り立った場所に比べて周りのお客さんの装いも所作も少しだけ洗練されているような気はします。


「それとも、タエちゃんは風呂嫌いかい?」

「いえ、嫌いどころか大好きです。話は分かりました。行きましょう!ええ、行きましょう!!」


 思わず紫乃さんの腕を引き、驚きますがさらに引っ張ると思いっきり振り払われます。


「痛いって、タエちゃん。そんなに好きだったのかい?銭湯」

「お風呂は何時間居てもいい場所ですからね」

「いやいや、まあ気持ちは分かるけどさあんまり長湯はできないでしょ?」


 長湯が好きな私としては、その言葉に頷く事は出来そうにないのですが紫乃さんが後ろへと移動すると、そこには自転車が。


「あー、そうか……私は自転車で通勤してるけど、今日はゆっくり歩いて行こうか」

「いえ、私こう見えて足には自信がありますから、紫乃さんに何処までもついていきますよ?」

「ふふ、そんなにお風呂が好きなら、まあゆっくり走るようにするよ?」

「いえ、銭湯が大事なので急いでいきましょう?」


 紫乃さんはそう言って、結構使い古されている自転車に跨ると慣れた足取りで自転車を走らせます。

 私はそれをジョギング感覚で追いかけるのですが、紫乃さんはここまでのスピードで追いかけられるとは思っていなかったみたいで、ギョッとしたあとに大きな笑い声をあげて、二人は銭湯に一路向かいます。







有名な人の史実をちらっと混ぜ合わせてみました。

知ってる人も多そうなので、気になった人が調べてみて下さい(笑)


サブタイトルって、とっても難しい!!!


まあ、一人で昔のように考えているわけではないのでかなり今は楽をさせてもらっていますが、センスが無い私にはとっても難しい作業の一つ。


そんな中でも少しずつタイトルだけでも楽しめるように工夫をした結果が「ゆ」です。

果実と湯でいいじゃない?って思うかもしれませんが……「ゆ」のほうが銭湯の札っぽいでしょ?と。。。


こういうどうでもいいところまで相談しながらたのしんで書いてまーす


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