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世界は裏でまわってる  作者: 最上 品
1/12

1.始まりの匂い

はじめまして、もしくはいつもお読みいただきありがとうございます。

今回の新しい作品は、他の作品を知っている方なら「あっ」と感じる部分もあるかもしれません。

文字数は控えめにして、サクッと楽しんでいただけるよう心がけました。

どうぞ、ご贔屓によろしくお願いいたします。


 パリンッ


 音がした。


 どうしてか太陽が降り注いでいて、眩しいはずが無いのに……と困惑しながら左右を見回す。

 鼻をくすぐるのは、少しだけ嫌な臭い。



「ここは?」


 不意に強い風が吹き、どこからともなく一枚の紙が顔に張り付いた。


「変な匂い……って、コレ、新聞……紙?」


 クシャクシャと何度も使った跡のある新聞紙をピッと伸ばし、上の方を見るとそこには『昭和』の文字が。


「地球?それも日本?昭和って……スマホない時代?」


 ぎゅっと強く握りしめていたはずの新聞紙は、再び吹いた風にさらわれ、あっけなく飛んでいく。


少しだけ驚き、口をぽかんと開けた。


 視線の先にあったのは大きな橋。それがぱっくり割れている。


「あの橋、動くの?」


 少し考え、そっと歩みを進めた。

 もっとよく確かめたくて、橋の上まで行ってみることにする。


 橋の上まで上がってみると、思っていた以上に人はいた。

 けれど、どこか皆顔を伏せるように歩いていて、声を張り上げる人も笑う人もいない。

 その静けさが妙に落ち着かなくて、ついじっと人々を見つめてしまう。


 リヤカーを引いていた男が、視線に気づき、こちらを一瞥して眉をひそめた。

 普段なら黙って通り過ぎるのだろうに、その顔に一瞬戸惑いが走る。


「危ないよ、姉ちゃん」


 言うとすぐに視線を逸らし、そのまま荷を引いて去っていった。


 返事も出来ず見送っていると、橋は中央部分をくっつけ、人の流れが動き出す。

そのまま押し流されるように橋の上から動き始めた。


 歩みを進めるうちに、いつの間にか漂う香りが変わっていく。

視線を彷徨わせていると、遠くから少しだけ喧噪が聞こえた。


 焼いた魚や出汁の香りが、風に乗って鼻先をくすぐる。


「らっしゃい!」


 そんな声も混ざりながら、自然といい香りの方に誘われていく。


「そこの姉ちゃん、蕎麦にするかい?」


 屋台の親父が箸を片手に声をかけて来た。

 思わず「はい」と返事しかけた言葉を、グッと飲み込み、首を小さく左右に振る。


「なんだい、冷やかしか」


 そう言いながらも、親父はどこか残念そうに目を細めた。


 ちょっと焦って喧騒から逃げるように通りを抜けると、急に人気も無くなる。

 さらに一本裏へと入ると、さっきまでのざわめきが嘘みたいに遠のき、風の音だけが聞こえる静かな場所に出た。


「お金、無いと食べられない」

「蕎麦もよさそうだったけど、焼き魚も美味しそうだった」

「全部食べれば、問題ない?」


 一人で会話をしているように見えるが、その口調はコロコロ変わり、よくみると瞳の色も一瞬ずつ違っている。


 ……そんな様子を、道の向こうから小さな子供がぽかんと口を開けて見つめている。

 それに気づいた瞬間、驚いた私はぴょこんと耳を飛び出させてしまい、慌ててその場をそそくさと立ち去った。


 人気のない角を一つ曲がったところで、ようやく胸に手を当てて深呼吸をする。


「驚いて耳がでちゃった。あぶないあぶない」


 頭の上にぴょこんと出ていた耳はスッと跡形もなく消えてしまう。


 周囲を探るように視線を空に向けると、ちょうど良さそうな場所を発見。

 今度は見つからない様に注意しながら移動をして、小さな神社の境内へ。

静かな風が通り抜ける木陰に腰を下ろし、ほっと一息ついた。


「とりあえず三日間。凌ぐのは簡単だけど……」

「うんうん。さっきのを見ちゃったら、体験したいね」

「それは分かるけど、ね?お金持ってないよ?」

「どうせ三日だったら、好き放題してもいいんじゃない?」

「「「「「ダメッ!!!」」」」」

「……冗談にそんな怒らなくてもいいじゃん」

「ふーちゃんの冗談は冗談に聞こえないの!」

「ひーちゃんが怒ってる。あれ?つっちーは?」

「無いなら、稼ぐしかなわね」

「みーちゃん?何でそんなにやる気なの?」


 つっちーが珍しく口を開く。


「食べる事は生きる事。生きる事は食べる事。美味しいモノが待っていたら……食べないなんてもったいない」

「いつも喋らないくせに、珍しいじゃん?」

「食べ物は、待ってくれない」


 つっちーの一言に、みんなが一斉に頷く。その流れにつられて、自分も気がつけば首を縦に振っていた。


「じゃあ、どうやって稼ぐ?」

「手っ取り早くば――」

「却下っ!」

「まだ何も言ってないでしょ!」

「どうせ下らない方法でしょ。真っ当に稼ごうって話をしているの」

「……むぅ。真っ当って、全然知らない場所で簡単に稼げるものなの?」

「さっきの感じ、私達の知っている時代よりも前みたいだから、色々と甘い部分もありそうだし、占いでもしたら稼げない?」

「そんな事出来るの?」

「信じる者は~救われる~?」

「占う人間がそんなバカじゃむりなんじゃ?」


 頭の中のわちゃわちゃした会議はいい形で着地点を見つけてくれているみたいですが、さてはて、占い。

 かしこみかしこみ?

 手相を見てみる?


「何となく成功しそうなイメージが湧きませんが?」

「いつも通り、何とかなるでしょ?」

「それよりも、お蕎麦や焼き魚の香りでお腹が」



「こんなこともあろうかと、ポケットの中には食べ物が!」



「備えあれば、ってやつね?」

「とりあえず腹ごしらえして、現地の食べ物は稼いでから楽しみましょう」

「……いや、それよりも寝床も探さないとまずくない?」

「三日くらいなら徹夜でなんとか……」


 一人なのに賑やかに静かな境内での相談は、まだまだ続きそうだった。




キリが良さそうな所までは連投予定です  1/3

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