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「あの子は特別だから、近付いちゃダメよ」
彼女が視界に入るたびに、父さんも母さんも、俺にそう言い含めた。
あの子は『特別』だから、『近づいちゃダメ』。
「どうして?」
俺には、意味が分からなかった。
あの子は特別、なら分かる。あの子に近付いちゃダメ、も、まだ分かる。
だけど、どうして彼女が『特別』だから『近付いちゃダメ』になるのかが、分からなかった。
「ねぇどうして? どうしてあの子は特別だから近付いちゃダメなの?」
だから俺は言われるたびに問い返した。父さんにも、母さんにも、なぜダメなのか、何が特別なのかと、しつこいくらいに訊いた。
だけど、いつも返ってくる言葉は同じ。
「どうしても、だよ」
俺はその言葉に、到底納得できなかった。だってそうだろう。父さんも母さんも、俺の質問には答えてくれていないのだから。
だから俺は、彼女に直接訊ねてみることにした。
父さんも母さんも答えを持っていないなら、もう直接本人に訊いてみるしかないと思ったから。
「なぁ!」
いつも彼女と自分を隔てている分厚いガラス越し。こっちにもあっちにも大人の目がなくなった瞬間。
俺が緩く握った拳の裏でガラスを叩きながら声を上げれば、彼女はすぐにこっちを振り返った。
「なぁ! おーい! ちょっと話そうぜー!」
能天気な声を上げた俺に、彼女は……杏奈は、歳に似つかわしくない、生気も興味も失せた、無気力に冷めた視線を向けていた。後から聞いた所によると、あのガラスは防音仕様で、杏奈には俺が何を喋っていたのか、一切分からなかったらしいけれども。
それでも杏奈は、それまで座っていた飾り気のない無機質な椅子から滑り降りてくると、ガラス越しに俺の前に立って、ペタリと右の手のひらをガラスの上に置いた。俺はそれが嬉しくて、重ねるように左手を置いたんだ。
それが俺達の始まりだった。
ライトニング・インサイト。
その名にふさわしからかぬ静けさの中、俺達二人は出会った。