デジャヴュ SIDE-T
リアルの方が忙しくアップが遅れました、申し訳ありません。
では、本編をどうぞ!
広場での騒動が、問題の主がいなくなった事によって一段落した。
俺の呆然としていた頭がやっと働き始め、美波先輩の言った言葉を理解する。
それによって俺の心に沸いた気持ちは、美波先輩に対する強い反撥だった。
「……何なんだよ、あの人は!」
心が高ぶった俺は、怒りにまかせた声で思わず呟いていた。
その小さな声が斎と天子にだけ聞こえたのだろう。
俺の言葉に込められた怒りを斎と天子は感じ取ったのか、何事かと聞いてくる。
「東哉、どうした?そんなに憤って?」
「大丈夫?もしかして、美波先輩に何か言われたの?」
二人が心配そうに俺へそれぞれ声をかけられる。
二人の言葉に多少頭が冷えた俺は申し訳なくなり、二人に向かって軽く頭を下げて謝った。
「……あっ急に声を荒げて、ゴメン」
そんな俺の行動に斎は慌てて止めようとし、天子はただ優しい微笑を向けてくれる。
「いや、別にいいよ。それよりどうしたんだ?何かあったんだろう?」
「そうだよ〜。そんなに気にしなくていいんだよ」
二人の言葉に感謝をしながら、俺は下げていた頭をあげる。
そして、さっき美波先輩から言われた言葉を二人にも教えた。
二人は俺からの話しを聞き終えて少し経つと、何故か同時に溜め息をついた。
俺は、二人が何で溜め息をついたのか疑問に思い聞く。
「何で溜め息ついてるんだ?」
俺の言葉を聞いて二人は困った表情を浮かべながらも答えてくれた。
「ん〜、他人が莉奈の事を東哉に言っても聞く耳を持つはずがないのに、って思って」
「そうだよね〜。東哉君って莉奈の事になると人の言うこと聞かないもんねぇ〜」
二人とも言いたい事を言い終えると、呆れた様な表情を浮かべる。
俺が二人の言葉に照れていると、急に後ろから頭を叩かれた。
「おい、色恋沙汰もいいが、もう他の奴らは集まってるぞ。お前達も早く行け」
叩かれた後頭部をさすりながら後ろを向くと、そこには杉下先生がいた。
よく見ると杉下先生は自分の後ろの方を指差していて、そっちの方を見てみると既に他の生徒が並んでいる。
「げっ!すみません。今すぐ並びます」
「すみません、杉下先生」
「ごめんなさい〜」
俺達はそれぞれ先生に謝り、急いで皆の元へ向かった。
俺達も並んで全員揃うと、今回林間学校で泊まる施設の責任者の人が挨拶をし、その後杉下先生が予定を言った。
「今後の予定を確認しておくぞ。まずこの後、各自指定の部屋に行き荷物を置いてくる事。一時間後の昼食までは自由時間で構わん。問題なんか起こすなよ?以上だ、解散!」
杉下先生の言葉とともに、一年生全員がそれぞれ指定の部屋へと向かう。
俺も自分のボストンバッグを担ぎ、自分の部屋に向かった。
靴を脱いで施設内に入り、階段を昇って二階に上がる。
指定の214室に着き中に入ると、すでに同室の男子が先に来ていた。
俺はまず先に来ていた男子に挨拶をする。
「おっす、鈴木に神田……あれ?確か俺達って四人部屋だよな。あと一人は?」
先に来ていた二人は俺の挨拶にそれぞれ返してくれたのだが、後の方の質問には苦笑を浮かべながら、片方の二段ベッドの上の方を見た。
俺もそっちの方に目線を向けてみると、誰かが動いている。
部屋の入り口から中に入りよく見てみる。
そして、誰かわかるのと同時に鈴木と神田の苦笑の意味を知った。
「おぉ、東哉!同じ部屋だな」
「……浩二。お前、先生が担いでたはずじゃ?」
俺に気付いた浩二が話しかけてくる。
そんな無駄に元気そうな浩二に、俺は疑問に思ったことを質問をした。
「それがよ、いつ此処に来たのか覚えてないんだわ。てーか、何時から俺寝てたんだ?バスだっけ?」
何故か浩二の発言や記憶がやばい。
俺は悩む浩二を横目に強張る顔を笑顔で固定しながら、神田の方へと状況説明を求めた。
「杉下先生が浩二をバスを降りてからすぐにここに連れて来て投げ捨てて行ったみたいだ。俺らが来たとき床に転がってた。」
今更だが、説明を聞いていると不憫に思えてしかたがない。
しかも本人は慣れてしまっているから、それが普通になってしまっている。
と言うか、とうとう脳に……。
「浩二……強く生きろ?」
「えっ何で?なぜに疑問形?えっ、鈴木に神田まで何で涙ぐむ!?俺なにかしたか!?てか俺、大丈夫なの?」
こうして軽く本心を織り交ぜながら浩二をからかっていると、誰かが俺達の部屋のドアをノックした。
四人のうち俺がドアに一番近かったから出る。
すると、ドアの向こうには斎と天子が立っていた。
「二人ともどうしたんだ?」
俺が聞くと、二人は少し部屋から離れて俺を手招きする。
俺はそれで意図を理解し、浩二も呼び部屋を出てドアを閉めた。
それから他の奴に聞こえない様に、斎と天子は小さな声で話始める。
「昼食まで時間もあるし、皆で莉奈を捜しに行かない?」
「それに〜他の皆も外に出て遊んだりしてるから、今なら抜け出しても見つかりにくいと思うよ〜」
二人の意見に反対する気は全くなかったから俺は頷いたが、浩二は頭を横に振った。
「俺は残るよ。何かあった時、ごまかす奴がいた方がいいだろ?」
こんな時は気が利く友人に感謝しながら、俺達は施設の外へ向かう。
施設の外に出るとそこは大きな丘になっていて、周りを見渡すと一面の森だらけだった。
三人とも別々に探そうとも考えたが、土地勘もなくいざ何があるかわからないから、こうして三人で固まって行動している。
しかし時間が短すぎ、気付いた頃にはもう戻る時間になっていた。
「……仕方ない、戻るか」
「そうね、今見つかったら後からの行動を制限されてしまうからね」
俺の言葉を斎が賛成し、俺達は戻ることにした。
結局何の収穫もなく俺達が戻ると、やけに皆騒々しかった。
何が起きているのかわからない俺達が呆然としていると、俺達に気付いた浩二がこっちに駆け足で向かってくる。
「やっと戻って来たか。結構ぎりぎりだぞ」
「すまん。それよりこれは何の騒ぎなんだ?先生達まで走り回ってるけど……」
俺が質問すると、浩二は言いにくそうに口ごもりながらも答えてくれた。
「それが、二組の女子一人が急にいなくなったらしくて、皆で捜してるんだ」
「えっ?まだ外に出ているだけじゃないのか?」
俺が一番ありえそうだと思う事を言うが、浩二は頭を横に振って否定する。
「靴もあって外出した形跡もないし、念のため施設内を先生達で捜索したらしい」
「……それって行方不明?」
俺は自分の言った言葉に悲しみを覚えながら、何故か居なくなった莉奈を思い出す。