曇り空 SIDE-T
今回は時間通り出来ました。
次回も頑張ります!
では本編をどうぞ!!
東の水平線から太陽が昇る頃。
「ん?もう朝か……」
部屋の窓から差し込む太陽の光を浴びながら、俺は最近気にならなくなった重い瞼を擦る。
昨日のビルの工事現場で俺に起きた現象については、一晩中考えたりしたのだが何もわからないままだ。
もう一度試しに同じ事をしたが何も起こらず、正直なところ夢でも見てたのかもしれないと思いはじめた。
しかし、缶を握っていた感触も缶を構成していた物を理解したのは確かで、それが俺の中では現実であったと確信している。
莉奈の目撃情報を手に入れてやっと希望が見えてきた所に、俺自身の不可解な問題が俺に立ち塞がっているかのようだ。
莉奈が起こした鉄骨が突然割れる現象。
俺が起こした缶を手の平から砂が崩れ去るように消滅させた現象。
この自然にはありえない二つの現象が何を意味し、俺達にどう関係しているのか。
俺はこの疑問を抱えたまま、林間学校当日の朝をむかえる事になった。
「あ〜眠てぇ……」
一晩中考えてたお陰で、とてつもなく眠い。
重い足取りで洗面所まで行き鏡で自分の顔を見ると、目元にくっきり隈が出来ていた。
自分のやつれた顔に呆れ、溜め息をつく。
(何をそんなに考えているんだろうか?
これから向かう場所に莉奈がいるかもしれないのだ。
それなら今は他の事はどうでもいい。
莉奈を見つけてから考えても問題ないはずだ。)
そこまで考えて俺は蛇口を捻り、冷水を出して顔を洗う。
その冷たさが、まだ寝ぼけていた俺の頭を覚まさせてくれた。
「……よし!」
濡れた顔をタオルで拭き、両頬を叩いて自分に気合いを入れる。
それから部屋に戻り制服に着替えて、一応昨日のうちに用意しておいたボストンバッグを担ぐと、玄関に向かい俺は家を出た。
「行ってきます!」
昨日の習慣的なだけの言葉ではなく、二人で帰ってくると決意するための言葉として。
学校に向かっていると、昨日の様に後ろから浩二がやって来た。
「おっす!相変わらず景気の悪い顔してるな」
いつもの様に熱苦しい笑みをしながら浩二が近づいて来る。
俺はそれに気付くと盛大な溜め息をついた。
「おいおい、なんで俺の顔を見て溜め息をつくんだよ?」
疑問をそのまま聞いてきた浩二に、俺は正直に答えてやった。
「いや、なんで朝っぱらからこんな恥ずかしい奴の笑顔を見ないといけないんだろう、と思ってな……」
軽く演技を入れながら大袈裟に言ってみる。
すると、俺の言葉を真に受けた浩二が、衝撃を受けた顔をした。
「あっ?俺ってそんなに恥ずかしいのか?」
可哀相になるくらい動揺している浩二を、追い撃ちをかける様に俺は言葉を重ねる。
「それは、もう……気付いてなかったのか?見てみろよあそこの娘達を。」
俺が目で教えた先にはこっちを見ながらヤーネェとクスクス笑う中学生位の女の子達。
「ほら、あっちも。」
逆の方を指し示すと、あからさまに顔を背けて去っていく女の子達。
「見ろよ、いかにお前が…ん?」
……ドサッ
後ろで何かが倒れる音がしたから、振り返る。
そこには両手両膝をついて打ちひしがれた浩二がいた。
「……まさか本当に…。」
本気で信じたらしい、まさかズボンのファスナー完全開放がこんな事態になるとは。
一人ブツブツと落ち込む浩二その様子に少しは悪い事をしたかなと思いもしたが、先に突っ掛かって来たのが相手なので静かに登校する為に放置する事にした。
学校に着くと校門の所にはバスが何台か止まっていた。
その横を通り校門を抜けると、ちょうど斎と天子の後ろ姿が見えた。
俺は少し駆け足気味に進み追い付くと、二人に声をかける。
「おはよ。斎、天子」
二人は俺の声を聞いて後ろを向き、誰かわかると笑顔で挨拶した。
「おはよう、東哉」
「おはよ〜。今日は晴れてよかったですね〜」
さっき浩二のお陰でささくれだった気分を、二人の笑顔で癒されていく。
そして三人で教室に向かっていると、ふと思った。
「そういえば斎。今日はいつもより遅いな」
俺の疑問に天子もそういえば、と頷く。
俺達二人の視線を受けて斎は困ったようにうろたえた。
「別にたいした理由じゃないわよ?今日から林間学校で三日はいないんだから、店の方を少し手伝ってきただけよ」
斎が言っている店とは岬区にある老舗の漢方薬局『神農』の事で、斎はそこの長女なのだ。
将来設計では兄の代わりに家業を継ぐ予定で、よく店を手伝っている。
その為に斎はとても金に煩く、剣道部の部活仲間には『守銭奴』呼ばわりされている。
俺も今、莉奈を捜してもらっている分いったい何を要求されるのか少し怖い。
それはともかく、俺と天子は斎の説明で納得した。
そして俺達はバスに着くと、荷物をそれぞれの席の網棚に置いてまた集まる。
三人でたわいもない事を話していると視線を感じたから、その方を見てみる。
すると天子が俺の顔を覗き込んでいた。
「ど、どうした?」
「ん〜、目元に凄い隈が出来てる……」
「あっ、本当だ。何?やっと見つかりそうなのにまだ何か悩んでいるの?」
二人が心配そうに俺を見てくる。
「昨日一晩中考えてたんだけど…大丈夫、もう吹っ切れた」
俺がもう大丈夫だとアピールすると二人は一応納得してくれた。
その時
「どうした?何話してんの?」
何の前触れもなく浩二が斎と天子の間に現れた。
まるで気配を消したかの様に急に出てきたから、俺の思考は一瞬止まる。
その一瞬の間に出来事は起きた。
斎と天子の悲鳴が聞こえたかと思うと次には何かが潰れる様な音がして、床の方を見ると浩二が倒れている。
次に斎と天子の方を見ると、二人とも浩二の急な出現に驚いて体を捻ったのか、まるで裏拳をかましたような体制になっていた。
「おーし、出席取ったらバスが出発ぞする……ってそこで死んでんの誰だ?」
俺達三組の担任である杉下先生が出席簿を片手に、教室に入って来た。
杉下先生は教室を見渡して俺達の方を見ると、床で倒れている浩二に気付いた。
「……えっと、先生。浩二です」
「はぁ、またあいつか。…放置しとけ。よし、出席取るぞ」
杉下先生はどうでもいい様な顔で俺達に指示を出し、その後笑顔で出席を取り始めた。
本当にいい先生なのだがさっぱりしてると言うかなんと言うか。
「おしっ!全員いるな。それじゃバスはクラスごとに別れているから、別のクラスの奴はいないか?今のうちに戻っておけ」
それだけ言うと杉下先生は、浩二を本当に放置してバスを出ていく。
「……相変わらずだな」
「そうね」
「やれやれ〜」
斎、天子と共に俺は疲れる。
何とも言えない感じで林間学校は始まった。