予兆 SIDE-T
今回も遅れて申し訳ありません。
実生活の忙しさでダウンしてました。
次回こそ早くアップできたらいいなと思い頑張ります。
では、本編をどうぞ。
莉奈が俺達の前から姿を消してから、一週間経った頃。
あれから父さんの書斎に何度も行き、俺の疑問を払拭するものがないか探した。
しかし、自分が理解出来ない文字を何度見てもわかるわけなく、なに一つ収穫はなく。
莉奈を捜す手がかかりを掴めぬまま、ただ時間だけが無駄に過ぎていく……。
「ん……」
眩しさを感じて意識を眠りの淵から引き上げる。
瞼を開けるとベットで寝ていた俺に、窓からサンサンと太陽の光が差し込んでいた。
季節的にまだ春だが、さすが直射日光は熱い。
二度寝する気にもなれず、俺はそのまま起きた。
「くぅ〜、痛っ」
ベッドから降りて背伸びをすると、身体が軋む様に痛む。
ここ一週間莉奈を捜すため走り回っていたから、全身が筋肉痛になっていた。
俺は軋む身体を無理矢理動かし、身支度をさっさと終わらせると部屋を出る。
階段を下りてダイニングに向かうが、いつもなら匂ってくるバターやコーヒーの香りは全くしない。
ガチャッ
ダイニングの前にたどり着き、扉を開けて中に入る。
しかしそこには一週間前にあった家族団欒の風景はなく、朝の肌寒い空気だけが部屋の中を流れていた。
「…………」
俺はテレビもつけず、トーストとコーンスープの簡単な朝食を済ませていく。
カチ、カチ、カチ
カチャ……カチャ…
部屋の中を時計の音と俺がたてる音だけが響く。
食べ終わり皿などを洗うと、俺は学校に行く為に玄関へと向かう。
靴を履き、玄関の扉を開けて出る。
朝起きてからこれまでの行動の中に家族がいないだけで、全てが色あせて無機質のようだ。
言いようのない喪失感を抱えながら俺は、学校へ向かう。
「……行ってきます」
いつもの、だけど返事が返ってこないとわかっている言葉を残して。
学校に向かって歩いていると、後ろの方から浩二がやって来た。
「おっす東哉、おはよう!」
朝っぱらから熱苦しいほどの笑みを浮かべて、挨拶してくる。
それを見て俺は、溜め息を吐きヤツを放置することを選択し足早に去る。
「おぃぃぃ!?何で鬱陶しいもの見た様な顔をしておいていくんだ?」
足早に歩き去る俺と追う鬱陶しい浩二。
しばらく黙って歩いていたが、次第に歩く速度が走る速度へとギアチェンジされていく。
「てめっ、お前が寂しがってんじゃねえかと人が心配して気を使ってやってんのによ。なんだその態度は?」
「やかましい!!人の心配なんぞ、お前のキャラじゃねえだろうが!!一回、鏡で自分の顔を見てみやがれ!!」
「何だとてめぇ!!この俺の鬱陶しい性格なら解るが、ハンサムなこの俺の顔をけなすな!!」
「突っ込むところが、おかしいだろうが!!自覚してんなら付いてくるな!」
そんなやりとりをしながら、俺達は並んで学校へ向かって歩く。
教室に着いたら既に天子と斎が来ていて、入って来た俺達に気付くと声をかけてきた。
「おはよう。東哉、浩二」
「おはよ〜、二人共。朝から仲がいいねぇ…何で二人とも汗だく?」
「聞くな…」
天子が首を不思議そうに傾げていたがが俺はスルーした。
「そういえば〜、明後日林間学校だけどみんなちゃんと準備してるかな?」
天子が俺達に聞くように見回しながら言った。
「……林間学校って?」
俺の言葉を聞いて三人が、逆に驚いていた。
「いや、先週ぐらいに先生が言ってただろ」
「あ〜、ど忘れしてた」
俺が髪を掻きながら言うと三人共『まあ、しょうがないか』という顔をしている。
「まったく、あんたって奴は……そうそう話が変わるけど。東哉、あんた一組の自称情報屋って人がいるんだけど、莉奈の話聞いてみる?」
斎が何だか怪しい情報を言ってきたが、正直今は藁にも縋りたい気持ちだった。
「そんな奴がいるのか?」
「正直うさん臭いとは私も思う。だけどな、伸ばせる手はなるだけ伸ばしたい」
「…そうだな、一応昼休みにでも行ってみるか」
「それじゃあ、私も行くよ。名前だけ教えても誰かわからないと思うし」
ちょうど話が一段落した所で始業のチャイムがなり、俺達はそれぞれの席に戻った。
午前中の授業が終わり昼休みになると、俺と斎は急いで一組の方へ向う。
昼休みに入りごった返す廊下を進み、組の前に来た時ちょうど誰かが教室を出ようとしていた。
「東哉、この人」
「……ん?」
斎が目の前の男子を指差す。
指を差された男子は急な出来事に困惑の表情を浮かべていた。
「えっと、急にゴメン。俺は三組の船津東哉。……七瀬桂二君だよな?」
俺が謝罪と自己紹介をすると、その男子は俺の顔を見て何かを納得した様だった。
「あぁ、俺が七瀬だが……そうか、あんたがあの船津か」
「ん?俺の事を知ってるのか?」
話したのは今回が初めてだったなのに探る様な目で興味津々な笑顔で見てくるので、不思議に思い聞いてみる。
「そりゃあお前、多くの男子達から怨嗟の声が俺の耳に入ってくるからなぁ」
笑みを浮かべながら答えてくれたが、俺が男子から恨まれる理由がわからない。
考えてる事が顔に出ていたのかそんな俺を見て、さらに笑みを深めた。
「まぁ、知らない方が幸せな事もあるさ。それで俺に何の用なんだ?」
肩を軽く叩かれ疑問を流されたが、逸れていた話を元に戻してくれたから文句は言わず事情を説明した。
「……なるほど。それで情報屋の俺の所に来たって事か」
俺の説明を聞いたは納得したのか、頷いている。
「あぁ、何か知らないか?」
正直情報屋といっても同じ高校生なのだから、たいしたことはないと思っていた。
しかし、そんな俺の予想は思いっきり外れる。
「それがな、ちょうど友人からの頼みで調べてたんだ」
「……えっ?」
まさか自分達以外にも、他人に頼んでまで莉奈を捜している人がいる事に驚いた。
「まぁ、誰なのかは伏せさせてもらうけどな。それで、調べてたら目撃情報が昨日入った」
「本当か!どこでだ!?」
俺は思わぬ情報に、七瀬につかみ掛かりそうな勢いで聞いた。
「少し落ちつけって。場所は明後日ある林間学校の近くだよ……まぁ、この情報を信じるかどうかはあんた次第だけどな」
それだけ言うと七瀬は歩き去って行く。
俺は微かな希望の光が見えたのが嬉しくて、顔に笑みが浮んだ。
放課後、俺は莉奈を捜し回っている途中で、ビルの工事現場の前に来ていた。
俺はあの時の光景を思い出す。
落ちてくる鉄骨、避けれない莉奈、触れた途端折れる鉄骨。
ここには何かあるのではないかと思ったのだが、この場所には特に何もなかった。
つまり、莉奈に向かって落ちた鉄骨が急に折れたのはこの場所が関係していたわけじゃない。
そう考えると…それじやぁ。
「……それじゃあ、莉奈が?」
莉奈の周囲の鉄骨だけ折れた事。
急に莉奈が逃げ出し、行方をくらませた事。
この点を考えればそう思ってしまう。
いや辻褄があう。
しかし、あんな現実離れした事を莉奈がどうして出来るだろうか?
考えれば考えるほど底のない沼に沈んでいく様だった。
俺は思わず溜め息をつき、喉も渇いていたから休憩がてら近くの自販機で缶コーヒーを買う。
一気に飲み干し、持っている缶を握り潰す。
「……ふぅ」
一息つき、もう一度あの状況を思い出す。
鉄骨が莉奈に落ちて来て、それが直前に折れて……。
「っ!?」
鉄骨が折れた所をイメージした瞬間。
俺が握っていたはずの缶が、風に飛ばされた埃の様にサァッと消えた。
俺は何が起きたのかわからず掌を見つめるが、やはりそこにはもうなにもない。
「……何がどうなってんだ?」
微かな希望と今起こった事に対する疑問に挟まれながら、俺は林間学校までの時間は過ぎていった。